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06-68 絵本

シキは頭に本を乗せてふよふよ飛ぶ。

そして、廃ビルへとやってきた。

以前シキの相棒がいった場所。

ものすごい夕焼けが見られる場所だ。

シキは鍵のかかっていない扉を開け、

屋上へとやってきた。

赤い赤い空。

斜陽街でなぜかここでしか見られない空。

赤だけでなく、さまざまの色が混じっているのかもしれない。

あの時赤い色をもらった夕焼け。

シキも本も赤く染まる。

空飛ぶ魚は泣かない。

けれど、なんだか思い出そうとすると、

楽しいことばかりなのに心のどこかが痛くなる。


「元気か?」

シキは夕焼けに向かって呼びかける。

生まれたであろう、あのときの相棒に向かって。

もう、覚えていないかもしれない。

「なぁ、俺はまだ斜陽街にいるんだ」

シキは一人で語る。

「覚えていたらまた歩こうってさ、勝手に約束したけどさ」

赤い夕焼けがシキを照らしている。

永遠のような夕焼け。

「いつまでもここにいるからさ、待ってるからさ」

シキは呼びかける。

「また、斜陽街を歩けたら、俺は」

シキは言葉を区切る。

次の言葉が出てこない。

シキの中で言葉が形を持たずに渦巻く。

何を伝えたらいいだろう。

斜陽街を歩けたら、

「歩けたら、俺は、きっと幸せだ」

シキは形にする。

一番心にあっているかもしれない言葉。

もっといい言葉もあったかもしれない。


「なぁ」

シキが夕焼けに向かって呼びかける。

「本を作ったんだ、斜陽街の本さ」

シキは頭の上の本を、誇らしげに揺らす。

「斜陽街のみんなが書いたんだ。落書きも宣伝もいっぱいさ」

真っ赤に照らされるなか、白い表紙の本も赤く照らされる。

最初から赤かったのかのように。

「ここからならお前に届くかな」

廃ビルの屋上で、ものすごい夕焼けの中、

シキはトントンと本のバランスを取って頭の上に乗せている。

「斜陽街ってこんな町なんだと、いつかお前に届けたいんだ」

シキは、トン、と、弾みをつけて本を下から小突いた。

「ここからなら届く、俺は信じてる」

また、本を小突く、さっきより力と願いをこめて。

頭で小突かれた本は、ふわりと浮かぶ。

そして、ものすごい夕焼けに溶けるように、消えた。

「行ったか」

シキはつぶやく。


『通り雨が来ると、本が増えるのよ』

シキはふと、そんな声を耳にした。

相棒がいった夕焼けの中、どこかからの声が聞こえたのかもしれない。

「斜陽街でまた逢おうな」

シキの魚の耳に、小さく笑い声が聞こえた。

シキはそれをよしとした。

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