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06-57 名所

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


水泳部が泳げなくなって、

町役場は海になりつつあるプールについて、

一つの案を出してきた。

それは、海を体感できる名所にしてしまおうという案だ。

水泳部員は、最初違和感を感じた。

タイムをはじき出していたプールが、

なんだかわからない理由で名所にされてしまうという。

自分たちが掃除して、日常を過ごした場所が、

海という非日常になるという。

かといって、海になってしまっているプールを、

普通のプールに戻す術を水泳部員は持っていない。

おとなしく名所にでもなんにでもするべきかと思った。


町のプールで泳いできて、

水泳部員が学校の海プールに集う。

タイムがどうしただの、フォームがどうしただの語り合う。

まるで以前のプールで泳いだかのように。

海になっているプールに、プールだった頃の記憶を聞かせるように。

近いうちに海を感じられる名所になっても、

タイムを競い合った場所を忘れて欲しくないように。

「プールが俺たちを忘れても、俺たちは忘れないから」

プールには魚影が見えて、珊瑚が底に沈んでいる。

そこだけ切り取れば完璧な海だ。

「名所になってみんなが泳いでも、学校のプールだったんだから」

プールは波を立たせる。

潮の匂いが確かにする。


「俺たちはどうして海になったのかを知らないよ」

「うん」

「そうだな」

「でも、何か理由はきっとあったんだろうよ」

「それこそ怪獣の卵かもな」

「わかんないけど、そうかもしれないな」

「珊瑚まで出てきてるから、すぐには戻らないかもしれないけど」

「うん」

「いつかまた、ここでタイム競ってもいいかなと思うよ」

地震がくらりとする。

プールが何かが答えた気がする。

何がどうなってそんな感じになるのか、

水泳部員はその言葉を持たない。

地震とプールと海と、ついでに怪獣の卵という変な話。

水泳部員は全部つなげて考えるなんて出来ない。

でも、なんだか繋がっている気もする。

誰かが小耳に挟んだだけの怪獣の卵。

そのくらい突飛なものでもないと、説明がつかない海プール。


「いつか怪獣の卵が片付いたら」

「うん」

「プールも元に戻るかな」

「そんとき町役場はどうするかな」

「名所案が廃案になるだけだろ」

水泳部員はプールを見つめていた。

いつかまた泳ぎたい。

願いをこめて、ずっと見ていた。

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