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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第2章 忘れたものを探して
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7話 白ウサギの独白

ヒース目線のお話です。

これは6の月の半ばの頃、ある日の放課後の時間帯の話です。


僕ヒースはイーリス家のアイドルの白ウサギです。僕は5の月の半ばに巫女様ことライナ様と金髪オオカミことアベルに命を救われました。そして僕は一部の人々と念話ができ、その人々の心の中を覗き見る能力を持っています。理由は定かではありませんが、僕のひいばあさまが巫女様に助けていただいたので、それが影響しているのかもしれません。念話などができる人々の特徴はみな巫女様の能力の影響を受けたということなのです。それ以外の人々に関しては会話の内容は理解出来るものの、心の中は見えないですし念話をすることもできません。


寝床は巫女様の兄ティオの部屋にあります。かつては金髪オオカミに世話をさせていました。

ティオは優しい兄で、優しすぎるがゆえに金髪オオカミに巫女様を奪われてしまったかわいそうな人なのであります。そんなティオは幼馴染で親友のケリーから熱烈なアタックを受けており、彼が落ちるのは時間の問題だろうと僕は考えています。ふふ、傍からみれば男同士いちゃいちゃしてるようにしか見えませんからね、実は周りからの需要がそこそこある、なんてことは本人たちは知らないほうがいいでしょうね。人間はなんて可愛いのでしょうか。


巫女様はあの憎きシュタイナーに呪いをかけられて以来、金髪オオカミやコード殿たちのことをすっかり忘れてしまわれました。これには私も心が痛みました。

彼女は面と向かって金髪オオカミに好きと言えてなかったようですが、彼女の愛情は確実にオオカミに向けられていました。鈍感とはいえ、それはアイツもわかってたはず。。はい、多分理解していたとは思います。いや、でも鈍感だから怪しいかもしれませんね。オオカミもオオカミで巫女様が大好きすぎて脳みそが沸騰してましたからね。まぁ、つまりは両思いだったのです。それがこのような形で引裂かれてしまうのは本当に辛い。

いつかシュタイナーにあったら足首に噛み付いてやりたいものです。あの雷撃、死ぬほど痛かったんですからね。巫女様が治してくださらなければ本当に死んでました。




少し時を遡ってみましょうか。

これは巫女様が保護されて記憶がなくなってしまったのがわかったときに、金髪と僕が交わした約束の話です。


『なぁ、ヒース』

アベルが僕を呼びました。これはアベルが眠っている巫女様にお別れの挨拶を済ませたあと、診察室の小部屋にいたときのことです。他の人々は出払っていました。皆さんアベルに気を遣ったんでしょうね。アベルは僕をゲージから取り出して膝にのせました。


《なんでしょうか》

『俺、諦めない』

《わかってますよ。それが貴方でしょう》

『ありがとう。お前はこのあとどうするんだ?』

《僕は巫女様のお側にいます。少なくとも貴方が戻ってくるまでは》

『いいのか?お前、お嫁さんをみつけてー、とか言ってたじゃないか』

《そんなことより巫女様ですよ。命の恩人を放っておけるほど図太い神経を持ち合わせてないですからね》

『すまない』

《本当は分裂して貴方にもついていきたいくらいですね。貴方も命の恩人ですし、浮気しないとも限りませんからね。見張らなければ》

『そんな必要はないさ。彼女以外に興味はない』

《わかってますよ、冗談です。こちらは任せてください。まぁ、ティオとケリーさんがいるのでそちらのほうが心強いのですがね》

『それもそうなんだけどな。人には言えないこととかもあると思うんだ。ヒースなら相談しやすいこととかもあるかもしれないし。今の俺みたいに』

《わかりました。約束しましょう。貴方の代わりに巫女様を見守り、相談に乗ります》

『ありがとう。無理だけはしないでくれよ』

《大丈夫です。人間とはちがいますので。ただ、寿命が尽きてしまったらすみません》

『そんなにかからないことを願う。ヒース、ごめんな。ありがとう』

《ったく、気持ち悪いですね。僕たちの仲でしょうが。もっとさらっと行きましょう》

『ありがとう。ごめん、しばらくこのままでいさせてくれるか?』


アベルはそういうと腕で目を覆って声を殺して泣いていました。


嫌でも彼の悲しみやシュタイナーへの憎悪、巫女様への想いがひしひしと伝わってきました。なんてまっすぐな人なんでしょうか。そしてなんと不運なのでしょう。人間とはこんなに辛い思いをしなければいけない生き物なのでしょうか?


私は彼が救われることを、彼と彼女が救われることを切に願いました。





おっと、噂をすれば巫女様ですね。ティオの部屋に巫女様がやってまいりました。若葉色のワンピースが彼女の可愛さを引き立てています。

「ヒース。久しぶりに晴れたから庭で遊びましょうか?」

彼女は素敵な笑顔を僕に向けました。なんと美しいのでしょうか。でも、その笑顔はどことなく寂しそうでもありました。


《ありがとうございます。助かります》

「ケージもも変えなくちゃね、だいぶ小さいわね。雑貨店ならあるかしら?」

《今はまだいいです。巫女様も勉強でお忙しいでしょう?》

「それはそうなんだけど、、」

《こうやって定期的に遊んでくれるならそれでいいんですよ》

「ごめんね、なるべく早く買いに行こうね」

《ありがとうございます》

巫女様は私のことをケージから出し、優しくなでてくれました。

ふふ、金髪がこれを見たら羨ましがりますね。心地よい体温とくすぐったさを味わっていると、巫女様の手が止まりました。


僕が見上げると巫女様は少し浮かない顔をしていました。


《どうか、されたのですか?》

「貴方は、知ってるのよね。私が忘れてしまった大切なものを」

僕はどう返していいかわからず、少し考えました。

《僕からは、何も言えないんです。すみません》

それが最善の言葉かはわかりませんでした。それでも、僕の一言で巫女様の脳にダメージを与えてはいけないのです。

「ごめんね。ヒースも自然に戻りたいよね。なんか、心配かけちゃってごめん。私がこんな状態だから見守ってくれてるんでしょ?」

《それだけじゃないです。僕は僕の意志でここにいると決めたんです》


「ありがとう」

《それに、イーリス家にいればモテモテですからね》

「ふふ、そうね。イーリス家のアイドルだもんね」

《ええ。人間は本当に興味深いです。ずっと見ていたいほどにね。巫女様、何か困ったことがあったらいつでも相談してくださいね》

「ありがとう。ヒースも、自然に帰りたくなったら言うんだよ?ずっと居てくれるのは心強いけれど、貴方には貴方の生きる道があるんだからね?」

《ありがとうございます。では、少し遊びに付き合ってください》

「ええ。喜んで」


私は夕焼けの中、庭を駆け回りました。爽やかな風が体を吹き抜けました。その風に揺れる巫女様の髪はオレンジ色に染まっていました。

なんと美しいのでしょう。それはこの世の中で私が見たものの中で一番美しかったかもしれません。



私は生涯、この風景を忘れないでしょう。

たとえどれだけの時が流れようとも。




◇◆◇


体が泥だらけになってしまったのでシャワーを浴びることになりました。巫女様に体を洗っていただけるなんて幸せですね。金髪に知られたら鍋にされかねないので黙っておかないといけません。普段?普段はティオが洗ってくれます。その前は金髪でした。金髪は口ではああ言ってましたが、ティオと同じくらい優しく洗ってくれるのです。そういうところに少しだけ好感が持てるんですけどね。だから余計にからかいたくなってしまう。

巫女様はさきほどのワンピースの裾をまくりあげ紐で軽く絞りました。下にはショートパンツを履いていました。下着ではなかったのが残念でした。

《スカートの中身を拝めるなんて幸せですね。なんと白くて美しい脚、スリスリしたい》

「この、変態エロうさぎめ」

巫女様は私に蔑むような目線を送ってきました。これはこれでゾクゾクしてたまらないのですがね。

《それにしても人間はすごいですね。清潔好きで》

「そうね。入浴も毎日できるしね。お父さんが、それはすごく贅沢なことなんだよって言ってたの。本土では違うのかな?」

《ウルマー殿がそうおっしゃってたということはそうなんでしょうね。あと、この、石鹸、でしたっけ?これはすごいですね。いい匂いですし》

「これは村役場から支給されてるのよ。商店通りの端に小さな工場があって。ラベンダーの香りが爽やかでいいのよね」

《ずいぶんと、発展してるのですね。そう思いませんか、巫女様?》

私はある意味を含めて質問しました。彼女はそれに気づいたらしく、少し表情を固くしました。

「そっか、私の中、見えてるんだもんね」

《すみません。少し意地悪な質問でしたね》

「いいえ。でも、おかげさまで違和感なくすごせてるの。昔々あっちで習った歴史だと、窓から糞尿が投げられてた時代もあるんですって。道端もそれだらけ。すごく不衛生よね。物の発達的にはそれくらいの文明でもおかしくないけれど、こっちでは実際には水洗式のトイレまで発達してるし。清潔なところでよかったの。やっぱり魔法の存在のおかげなのかしら?」

《えげつないですね。それはあるのかもしれませんね》


巫女様には前世の記憶があります。

それも、この世界のものではないものの。


彼女はそのことを誰にも打ち明けていません。



「この話ができる相手がいるのはありがたいわ。誰にも言えないもの、気が触れたのかって心配されちゃう」

彼女は困ったように笑いました。そんなお顔も可愛らしい。

《そうですね。この話題は貴女の左腕よりも受け入れがたいかもしれない》

「私はね、この世界がどんな発展を遂げるのか、すごく興味があるの。電気が発見されるのか、石油やガソリンが普及するのか、魔法が発達するのか、すべてなのか。そして、その鍵を握るのはお兄様ね」

《ティオの発想力と開発力には驚かされますね》

「私にできるのは文明を越えない範囲で少しだけアドバイスすることくらいね。この世界にはこの世界の(ことわり)があるのだもの。バランスを壊してはいけない」

《貴女は聡いお方だ。その知識があればどんどん世界を変えていけるでしょうに》

「いえ。上辺の知識しかないの。電気の原理だってよくわかってないような私にはたいしたことはできない。もうすぐ私は私が死んだ年齢になるの。そんな中途半端な知識で世界を変えるなんてしてはいけないことよ」

《そう、でしたか。あぁ、そんな死に方を。辛い経験でしたね》

僕は見えてしまった巫女様の昔々の死に際に心が痛くなった。人間とはどれだけ残酷になれるのでしょうね。


「おかげで今の自分があるの。強い意志を持って生き抜かなきゃね。あ、いや、もう十分に世界を変えてるのかも。ティオを助けたあの瞬間にね」

《ティオだけではありませんよ。貴女が救ったのは》

「そうだと嬉しい。ヒース、ありがとう。さぁ、入浴を済ませたらご飯にしましょうか」

《恐れ入ります》



巫女様は本当に興味深い。なんと数奇な運命を背負われているのでしょうか。そしてこの僕がこうしていろいろなことを思考できているのもその運命に翻弄されているからなのでしょうか?



それならば、喜んで貴女の運命に振り回されましょう。



この命が尽きたその後も。



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