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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第2章 忘れたものを探して
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5.5話 深紅と深緑と⑤

リンファ目線のお話です。

激しくドアが叩かれる音で私は目を覚ました。

どれくらい眠っただろうか?日はまだ高そうである。


「どうぞ」

私がそういうのと同時にドアが開き、紺色の塊がすごい勢いでこちらに向かってきた。

『リンファ様!』

すごい勢いで部屋に入ってきたのはフォルカーだった。

『どうしたの?』

私がベッドから立ち上がった時だった。



『よかった!!』

そう言うとフォルカーは私を力強く抱きしめた。



『ちょっと、フォルカー?!どうしたのよ?!』

私はいきなりのことに動けなくなり、どうしていいかわからなくなってしまった。私の心臓は不測の事態に止まることなく、むしろいつもより激しく仕事をしているようであった。

『ごめんなさい。ちょっとこうしててもいいですか』

『人の話を聞きなさいよ』

『生きててよかった』

『そりゃ生きてるわよ』

彼は私のことを抱きしめながら、そっと私の頭を撫でた。私は彼の体温と鼓動を感じ、自分の体温が上がっていくのを感じた。まだ眠いからか、彼から漂う柑橘の香りのせいか、ドキドキするのと同時に安心感が私を包んでいた。少し気になったのは、彼が少しばかり震えていたことだった。彼に一体何があったのだろうか?



しばらくするとフォルカーは我にかえったようにさっと私から離れた。

『す、すみません!いきなり抱きついて、俺、なんてことを、、』

その顔は真っ赤になっており、恥じらう姿が可愛いなと思った。

『それはいいから、どうしたのってば』

『落ち着いて聞いてください』

私は頷いた。一体何なのだろうか。



『貴女の侍女が、服毒自殺をしました』

そのフォルカーの言葉は私の中で何度もこだまして私の心をえぐっていくかのようだった。



『嘘』

私は何も考えられなかった。

ハンナは継母が来た頃からずっと一緒にいてくれた母の代わりのような存在だったのだ。裏切られたこともショックではあったが、まさか、自殺してしまうなんて。

『そんな、何かの間違いよ』

私がやっとひねり出せたのはその一言だった。

『取り調べの最中に、服に忍ばせていた練薬を飲んで。とっさのことで、俺、間に合わなくて。腕の中で彼女の体が硬直して苦しそうにもがいてるのをただ見てるしかできなくて、先輩が持ってきて打った解毒剤も効果がないほどの毒で』

フォルカーの顔色はどんどん悪くなっていった。私自身も聞いていて辛かったけれど、それ以上に彼にこれ以上話させてはいけないという気持ちのほうが強かった。

『もう、いいから。話さなくていいわ』

私はそう言ったが彼は話を続けた。

『侍女は毒を用意したのも姫君のせいにしようとしたのも認めたんだ。ただ、動機を聞いていたところで"これは人族のためなんだ"って言って、毒を。僕がもっと早く動けていれば、彼女は死なずに済んだのに。あんな苦しそうな思いしなくて済んだのに。万が一リンファ様が同じ毒薬を持ってて飲んでしまったらって思ったら、体が勝手に動いてて』

『フォルカー』

そう言うと私はとっさに彼を抱きしめていた。そうしないと彼が壊れてしまいそうな気がしたのだ。彼は先程よりも体を震わせていた。自分の目の前で人が死んだのだ。しかも自分のせいかもしれないとなったらきっと私もそうなるだろうと思ったのだ。ハンナのことはショックで何も考えられなかったが、目の前の雨にずぶ濡れになっている子犬のような彼を放っておくことはできなかったのだ。



『ひ、姫君、離してください』

数分だろうか、どれくらいこうしていたかわからないけれど、フォルカーが私に声をかけた。

『嫌よ。貴方震えてるんだもの』

『だめです。その、さっき自分が抱きしめておいて言うのはあれなんですけど、貴女に抱きしめられてると思うと理性が吹っ飛びそうで』

なんとも可愛いことを言う人だ、とこのときの私には余裕があった。なんせ、彼の想い人は私ではないのだから。私は少しだけ意地悪をしてみたい衝動にかられた。


『そんなの耐えなさい。ロシュディー様みたいなことしたら承知しないわよ。それに貴方はリットさんが好きなんでしょ?』

そう言った後、私はふと昨夜のドレスを脱がしてもらったときを思い出した。そう、目の前の男は女である私のこともそういう目で見ることができるのだ。私は完全に失念していた。


『そんなの生殺しじゃないですか。初恋の人が目の前にいるのに』

『はい?』

ハツコイ。初恋。それは初めてする恋のこと。


私は彼が何を言っているのか理解できず、さっとフォルカーから離れようとした。が、背中に腕を回されて動けなくなってしまった。彼の鼓動と体温をより身近に感じ、思考が停止しそうになった。

『やっぱりまだ気づいてないんですね。無理もないか。もう十年も前のことだし、一日だけだし』

『ちょっと、離しなさいよ!』

『でも、せっかく前と同じような色のドレスまで着てたのにな』

『意味が、わから、』



フォルカーのその言葉達に、私は幼い日の記憶の断片を思い出した。


それは私が初等部に入って一年経った頃の夏のある日、シェルドントの王宮に私と同じくらいの女の子が遊びに来ていたのだ。深緑のドレスを着ており、少し癖のあるダークゴールドのショートヘアをしており、緑のようなオレンジのような不思議な瞳を持った笑顔の可愛い子だった。おとなしい子で一緒にままごとをしたり庭で花を摘んで冠を作ったりなどしたのだ。次の日も会えると思っていたが、彼女は急に帰ってしまったのだった。私はひどく後悔していたのだ。名前すら聞きそびれていたのだから。




『あ、あのときの、女の子?!』

『ようやく思い出したんですね』

『え、ええ?!嘘?!』

『僕、夏休み中にちょっと本家で問題を起こしちゃって、クラーラ叔母様のところに少しだけ預けられて。あのときちょうど公務の関係で叔母様達が王宮に行くことになっていたので同行させてもらったんです』

『そう、フォルカーはクラーラ叔母様の甥だったのね。でもなんで女の子の格好を?』

『一度やってみたかったんです。本家じゃ絶対やらせてもらえないですし。叔母様に相談してみたら、娘が欲しかったのーとかいいながらノリノリで手伝ってくださって。姫君にちゃんとお会いしたあの日が滞在の最終日だったんです』

『そうだったのね。完全に女の子だと思ってたわ。当時から美少女だったのね』

『姫君に褒められると嬉しいですね。ちなみに、女装してないときも何度かすれ違ってます』

『全然気が付かなかったわ』

『姫君は俯いて歩かれていましたからね。それも気になって最終日にようやく声をかけられたんです。もっと一緒に遊びたかったんですが、次の日にはシェルドントを立たなければならなくて』

『私も、もっと一緒に遊びたかったと思ってたのよ』

『嬉しいです。姫君は当時シェルドント語が全然話せなかった僕にも優しくしてくださいました。あの陽だまりのような温かい笑顔を今でも覚えてます。僕、今もなんですが当時からシュヴァンとあんまりうまくやっていけてなくて、姫君の存在が精霊様に匹敵するほどのものだったんです』

『そんな、おおげさよ。そういえば全然会話した記憶がないものね。私もリズニア語全然喋れなかったし。名前も、聞きそびれちゃったし』

『僕はその後必死にシェルドント語を勉強しました。いつかまた貴女に会いたいと思いながら。今回ようやく会える機会が来たので、アベル様の身辺警護をあの深緑のドレスでさせてもらったんです。運が良ければ貴女とまた話せるかもしれないと思ってたのに』

フォルカーが軽く私を睨んだ。私はしゅんとした。

「私がやらかしてしまったわけね」

『ほんとですよ。アベル様やロシュディー様にガンガン色気を使うし』

はぁ、とフォルカーがため息をつきながら言った。私はドキリとして目を見開いた。

『え、現場を見てたの?!』

『ええ。リットと一緒に。頭が痛くなりましたね』

『恥ずかしい。本当に恥ずかしい』

『あの後、リット達に給仕や侍女たちをつかまえてもらっている間に僕は同階の手洗い場のドアに札をかけて、人気の少ない上階に誘導したんです。で、気配を消して奥の個室に忍び込んでました。何かの間違いだと思いたかったのに、貴女は中身まで荒んでて、僕の初恋の人はどこに行ってしまったのかとショックでした』

『そんな裏側があったのね』

私は申し訳無さと恥ずかしさでいっぱいになった。

『だから、最初ちょっと冷たく当たってしまって。すみませんでした。』

『いや、それは私が悪かったし。ねぇ、お願いだから離して?恥ずかしくて、恥ずかしくて』

『ダメです。離したくない。貴女が可愛すぎて無理です。僕、昨夜からおかしくて。さっきも貴女がロシュディー様にキスされそうになってるのを見て耐えられなかったんです。僕なんかが口を出してはいけないのに』

『ねぇ、離して?ほら、リットさんのこと好きなんだから、こんなことしちゃだめよ』

私のその言葉にフォルカーは少し腕の力を弱めた。

『あ、これだと二股ですよね。精霊教においてそんなことは許されない!あぁ、僕はどうしたら?!』

フォルカーは私からさっと離れ、頭を抱えた。

『すごく複雑ね。男と天秤にかけられるのも。いや、全然いいのだけれども』

『いや、そもそも姫君に抱きつくなど、勘違い甚だしいですね。冷静になりました。すみません』

彼は通常運転に戻ったようで、頭を下げてきた。

『えっと。冷静になってよかった』

『姫君のほうがショックですよね、侍女が亡くなって』

『ええ。でも、それ以上にフォルカーが色々ぶっ飛んでて実感がわかないわ』


そこでまたドアがノックされた。私が許可をするとまたもや紺色の塊がすごい勢いで入ってきた。

「フォルカー!お前、姫君に何もしてないよな?!」

そこに入ってきたのはリットさんだった。それはすごい慌てようで、冷静そうに見えた彼のイメージが崩れるほどのものだった。

「してない。今はしてない」

フォルカーは頬をポリポリとかいていた。その頬は赤くなっていた。リットさんが入ってきたのだから無理もないだろうと私は思った。すると二人は夫婦漫才のようなことを始めた。

「お前な。姫君、ご無礼がありましたらお許しください。こいつ昔から脳筋で」

「あ、リット、ひどい。君だって先生のことになるとぶっ飛ぶじゃん」

「それはそれだろ」

「いや、同じだね。やっぱり僕たちは似たもの同士だね。先生のことは諦めて、僕にしとけばいいものを」

「アホか?!姫君の前で何を言うんだ!」

「えっと、事情はフォルカーから聞いてるので、どうぞ」

私はそれくらいしか言うことができなかった。

「どうぞ、じゃありませんから!いや、それどころではなく。侍女の話を聞きましたね?国王様たちがお呼びです」

「わかりました」


こうして私は再び国王様たちの待つ部屋に通されたのだった。



◇◆◇


結局、私はリズニアで、国王様の監視下で生活することになった。

ハンナが死んでしまったことで首謀者が誰なのかがわからなくなってしまったことと、表向きは私がシェルドントで悪巧みをすることを防ぐためらしい。実情としては首謀者が私の口封じをする可能性もあり、シェルドントよりも安全性が高いリズニアにいさせてほしいとお父様が頼み込んだという側面もあったのた。

幽閉になるよりはありがたい話だったが、お父様と離れることに不安があった。あの弟と継母のことだ、この機会に何かするかもしれない。なんとしても早く犯人を見つけてシェルドントに帰らなくては。こうなったらお父様の身だけは守らなければいけない。私は国王様たちにお願いすることにした。



「国王様、アベル様。少し、お話があります。よろしいでしょうか。できれば従者の方もご一緒にお願いします」



「わかりました。コード、談話室を貸し切ってくれるか?」

「承知しました」

私達は談話室と呼ばれるところに移動した。


談話室に着くと、国王様が突然私に頭を下げた。

「話の前に、一言謝らせてほしい。あの飲み物に毒が仕込まれていたのがわかった段階で、侍女も着替えさせてしまえばよかったんだ。君と同じようにね。本当にすまなかった」

「あ、頭を上げてください、陛下」

私は突然のことに驚いてしまった。陛下たるものがこんなに簡単に頭を下げたことに頭がついていかなかった。



「それで、話とは?」

国王様が尋ねた。その瞳はもう冷たいものではなくなっており、私は少しほっとした。

「図々しいことは重々承知で、お願いがございます。父上に、リズニアから護衛をつけることはできませんでしょうか」

「それは先程の後妻の関係で?」

「はい。今回の首謀者がわからない以上、あの継母が一枚噛んでいる可能性も否定できません。私を父から遠ざけることが目的だったならば大成功だと言えるでしょう」

「それも一理あるかもしれない。アベルはどう思う?」

「賛成ですね。首謀者が仮にやつだったとすれば、俺だけじゃなくて同時並行でいろいろ進めている可能性があります。シェルドントの国王の命をも同時に狙ってる可能性も否定できません。やつの狙いは戦争を起こすことでしたからね」

「だよな。わかった。護衛を二人つけよう。適任者がいる」

「村の出身者ですか?」

私にはわからない単語が並んだ。やつ、や村はなんのことを指しているのだろうか?


「片方はな。もう片方はフォルカーだ」

「えっ、」

私はまさかここで彼の名前が出てくるとは思わず、言葉を発してしまった。一瞬国王様と目が合い、彼がニヤリと笑ったように見えた。が、次の瞬間には彼の表情はもとに戻っていた。

「あいつはシェルドント語も堪能だし、あっちに親戚もいる。最適だと思うのだが」

「そう、ですわね」

心のどこかで残念がっている自分がいた。その自分はフォルカーと一緒に居られることを楽しみにしていたのだ。そして何よりもそう思ってしまっていることに自分自身が動揺していた。すると国王様はふふと小さく笑った。

「いや、だめだな。フォルカーはぶっ飛びすぎているから向こうでやらかすかもしれない」

国王様は訂正をかけた。

「え?」

私は再びたよりない声を上げてしまった。

「姫君とフォルカーとリットの三角関係も目近で見てみたいしなぁ。いや、ロシュディー殿も含めると四角関係か!」

国王様は楽しそうに口元を上げた。実は国王様はお茶目な方なのかもしれない、と私は思った。


「お前な!どこから情報仕入れてるんだよ!」

「アベル。人前では父上、だろ?」

「このクソが」

アベル様は軽く国王様を睨んだ。

私はアベル様の変貌ぶりに驚いた。まさか自分の父親にクソなどというとは。まぁ、つい最近初めて会ったのだから仕方ないかとは思いつつ、少なくとも他人よりは仲のいい状態なのだと考えた。

「少年少女たちの恋路を邪魔するおじさんにはなりたくないのさ。あ、でも、子どもをつくるのは責任が取れるようになってからだな。それぞれ立場というものもあるしな」

「姫君に何てこと言ってんだよ!そもそもどの口が言ってんだ、この家出野郎。17年前のお前にそのまま返してやる!」

何ということだろう。国王様は自分の息子から説教(ツッコミ)をくらっているのだ。私の目の前で起こっているこれは何なのだろうか。

「ははは」

「母さんも、どうしてこんなやつを好きになったんだか」

「運命さ。きっと女神様が引き合わせてくれたんだ」

「はいはい。精霊様でも女神様でもいいから感謝はしてるさ」

「えっと、その、ありがとうございます」

「何なら、あれだな。リンファ殿の護衛にフォルカーをつけようか」

「それはちょっと。逆に身の危険を感じるので」

私は自身の体温が上がったのがわかった。あんなふうに抱きしめられていたのでは心臓がいくらあっても足りない。あんなぶっ飛んでいる護衛はごめんであった。

「遠慮するな。あいつは有能だぞ。それにリズニア王家とも繋がりの深いシュヴァン家の次男だから身分的にはギリギリ婿にもできるだろうよ。それでも駄目だっていうのならリズニアの勲章を授与させて、なんてこともできる。あ、でも、、」

国王様はなにか言おうとしたが私はいたたまれずに口を出した。

「いや、もう婿はいいです。今はお父様の身が心配で自分のことは考えられなくて」

「まぁ、護衛の件はこちらに任せてくれ。タイラン殿も姫君もな」

国王様はそう言ってくださった。本当にありがたいことであった。

「ありがとうございます」

「ここからは真面目な話だ。リンファ殿。貴女に近づいてくるやつに気をつけるようにしてほしい。あいつ自身が動くのか、誰かを使ってくるかわからない」

「あいつ、とは?」

「アベルや俺はこの件よりも前に狙われたことがあってな。今回使用された毒も関連性があるものだったんだ」

「そんな」

まさかそんなことがあったなんて。それは少なくとも公に知らされているものではなかったのだ。

「もしかしたら、俺達の問題にシェルドントを巻き込んでしまったのかもしれない。その責任もあるので我々リズニアは全力で動く。そこは信用してもらいたい。費用に関しても君は気にしないでほしい。タイラン殿としっかり相談する」

「わかりました」

「リンファ殿の住まいは王宮で構わないか?他で手配するよりも安全かと思うのだが」

「はい。すみません、お手数をおかけします」

「お互い様だ。学園の転校の手続きもあるので、登校開始は2週間後ほどになる。学年末の試験後あたりだな。留学で来たという事でどうだろうか」

「学園にまで通わせていただけるのですか?」

「え、リンファ様も学園に?」

私達の問いに国王様は当たり前だろう、と言った。

「アベルよ、学生のうちはしっかり学ばねば!学年はお前の一つ上だがな。会うこともあまりないだろう」

「わかりました。よろしくお願いします。でも、大変でしょうね。すごく人気になりそうだ。俺ですら押しつぶされそうになってるのに」

「え」

私はアベル様がげんなりとした表情で言ったのが気になって思わず聞き返してしまった。それに答えたのは国王様だった。

「アベルは通い始めてまだ一週間ほどなのに根を上げてるんだ。はは、俺も大変だったなぁ。まぁ、俺の頃はまだ共学になって間もなかったから今よりマシだったけどな。」

「男女の教育格差がないのはいい事だけどさ。本当にお前の遺伝子と地位を恨む。女も男も寄ってきて大変なんだよ!」

「いいだろ?イケメンなんだから。あぁ、早く両思いになってしまえ。俺はウルマーと旨い酒を交わしたいんだよ」

「お前も母さんもそればっかりだ!一緒にお茶したいのーとか言うんだ。忘れられてる俺の身にもなれよ!」

話からしてそれはアベル様の想い人に関する話のようだった。アベル様は顔を真っ赤にしており、それだけその人のことが好きなのだと再認識した。なんと微笑ましく羨ましいことだろうか。

「ウジウジしててもしょうがないだろ。やれることをやるしかないんだからな。おっと、姫君がいたんだったな。失礼した」

私は二人のやりとりを聞き耐えられず少し笑ってしまった。

「アベル様と国王様は仲がよろしいんですね」

「ちょっと待って、リンファ様。どこをどう見たらそうなるんですか?!」

「見たまんまでしょう?あ、リンファで結構ですわ。敬語も必要ありません」

「俺もアベルでいいです。敬語もいらないです」

アベル様は少しだけ照れたような表情を見せた。それに過剰にも反応したのは国王様であった。

「お前さ、これ以上少しでも姫君にデレデレしてたらウルマーに報告するからな。そしたら村は出禁だな。あと、ウルマーから殴られる。100発は覚悟しといた方がいい」

「わかってる。そしてそんなことになろうもんなら間違いなくティオやケリーにも殺される。多分いくら命があっても足りないと思う。あぁ、あとソフィーさんって人も彼女を崇めてるらしいからどうにもならないな」

「ということだから、姫君。アベルは先約があるので」

国王様は私に軽く頭を下げた。私は頭を上げるように言った。

「存じ上げております。本当にすみませんでした」

「ちなみに、俺、万が一毒を飲んでても死ななかったはずなんだ。リンファのために言っておくと」

「え?」

「今回の毒はラヴィーネ毒蛇のものだったんだ。俺、あの毒で一回死にかけてるから多分抗体があるはずで。治り方が特殊すぎて何とも言えないんだけど」

「そう、なの」

「だからそんなに気負わずに」

「いや、それは関係ないというか。結果論というか」

私達の間に一瞬気まずい空気が流れた。それを断ち切ったのは国王様だった。

「あ、そうだ。今日の夕飯はロシュディー殿も含めて3人で取ったらどうだ?彼は明日の朝に立つことになってるしな。次世代を担う若者たちで熱く語り合うといい。俺もタイラン殿と色々話したかったんだ」

アベル様、いや、アベルは後ろに待機していたコードさんに助けを求めた。

「コード。俺どうしたらいいかわかんない。ロシュ、絶対にリンファのこと口説くよな」

「ええ。いっそ二人をくっつけてしまえばいいのでは」

その言葉は私がいるのにも関わらずつんとしていた。

「それは、嫌です」

私は反射的に言い返していた。

「何を今更。いいじゃないですか、カッコイイですし。チャラチャラしてそうですけど」

「コード、なんか言葉にトゲが」

アベルは顔を引きつらせていた。

「そうですか?気のせいですよ、アベル様」

コードさんはアベルに微笑んだ。私とコードさんが和解するのはまだまだ先になりそうであった。





そのあとの夕食会はアベルが予想した通り大波乱となった。夕食会自体は特に問題もなく、むしろ有意義な話ができた。アベルは私達にもまだ言えない構想があるらしく、自身が抱える問題が解決したら話すと言ってくれた。私の問題はここからで、案の定ロシュディー様は私にアプローチをしかけてきたのだ。アベル様や給仕などの目を気にすることもなく私の手を取り愛の言葉を囁いた。私はそれとなく躱しながらやり過ごそうとしていたのだが、スイッチの入ってしまった彼を止めることは不可能だった。そこにどこからか現れたフォルカーが乱入し、それをリットさんが止め、最終的にはカール隊長まで出動しフォルカーとリットさんは王宮外周20周という大きな罰をくらった。巻き添えにしてしまったリットさんには本当に申し訳ないことをしたと今でも思っている。




次の日の朝早く、ロシュディー様は城を立つことになり、私とアベルを含め数名で見送ることになった。アベルは学校があるので制服を着ていた。

「リンファ、君もロシュって呼んでくれ。大歓迎だ。今回はそれで引き下がることにするよ」

ロシュディー様、改めロシュは私の両手を取りながら言った。私はそれをさっとふりほどいた。

「わかったわ、ロシュ。でもお願いだからもうやめて。私、嫁にはいかないし婿も取らないから」

「あぁ、恥じらう姿もそそるね。俺もリズニアに留学したいくらいだ」

そういうとロシュは私の髪を一束取り口づけをした。なんと恥ずかしいことをする人なのだろうか。となりのアベルも顔を真っ赤にしてしまっていた。

「貴方はもう成人してるでしょう?」

「非常に残念だ。また二人に会いにくるよ。ケリーとやらにも会いたいしな」

「それは追々だ。問題が解決したら必ず会わせるさ」

「ありがとう。アベル、ハニーに手を出すなよ?」

「は、ハニー?!」

私は目を見開いて聞き返してしまった。この男はどうしてしまったのだろうか。どこかに頭でもぶつけてしまったのだろうか。

「出すわけないだろ!」

アベルは全力でつっこんでいた。

「アベルよりあの犬っころだな。この場にいないのが残念だ。思いっきり釘を刺してやりたいのに」

「いますよ!!何がハニーだ!この、エロ王子!!」

少し離れたところにいつの間にか現れたフォルカーが大声で叫び、舌を出した。

その瞬間にリットさんがさっと現れ、フォルカーを連行していった。

ロシュも従者に耳を引っ張られて馬車に突っ込まれた。

私とアベルはほっとしながら馬車を見送った。



私のリズニアでの生活が始まろうとしていた。



このとき私はこの生活が今後の人生に大きな変化をもたらすような気がしていた。しかし、実際にはそれは私の予想の斜め上をいくほどの大きなものだったのだ。




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