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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第2章 忘れたものを探して
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5.5話 深紅と深緑と③

王宮の外れにある塔は最上階は見張りのため、下階は何か問題を起こした者を一時的に軟禁するための場所となっていた。私は3階に収容されることとなった。フォルカーによるとハンナは地下1階、給仕たちは地下2、3階にいるらしかった。



螺旋状の階段を登っていき、枝分かれになってる先にある小さな部屋が軟禁場所だった。部屋の入口には鉄格子の扉が取り付けられており、部屋の中にある小さな高窓にも鉄格子がはめられている。小部屋の中には簡素なベッドとトイレと手だけが洗えるような小さな洗い場があった。古いものではあるけれど不潔感はなく、こんなところにまで手が行き届いているのかと私は感心してしまった。

少し肌寒さはあったものの、ベッドの上に毛布もあるので大丈夫そうではあった。



『では、何かあれば外にいる兵に声をかけてください』

そう言うとフォルカーはコツンコツンとヒールを鳴らして立ち去った。その音は石壁に反射しているからか一段冷たく感じた。


私はベッドに腰掛け、膝を抱えた。ドレスの裾についた液体が少しばかりベッドに染み込み、ピンク色の染みをつくった。私はその様子を見ながら、なんでこんなことになってしまったのだろうと、自身に問いかけ続けた。



全部周りのせいだ。私に見向きもしないアベル様のせいだ。あのとき邪魔したロジュディー様のせいだ。ハンナが先に捕まらなければよかったんだ。そもそも私が女王にならざるを得ない環境のせいだ。継母や弟のせいだ。先に嫁いでしまった姉たちのせいだ。病気を抱えているお父様の、、、



ここまで考えて私は首を横に振った。



いや、違う。これは私のせいだ。酒や薬の力に頼ってしまおうとした私の弱さのせいだ。ハンナと話していたときにその提案に耳を傾けてしまった自分の至らなさだ。私は怖かったのだ。アベル様の存在は私にとって最大にして、最後のチャンスだった。私を受け入れてもらえなければ、私の価値が消えてしまいそうで、すべての努力が水の泡になってしまいそうな気がしていたのだ。



そんなとき、さっきのフォルカーの言葉が脳裏に蘇った。



『ねぇ、貴女はなんで女王になりたかったんですか?』

『人を人とも思わず、それを見失っている貴女に女王は務まりません』


私ははっとした。その言葉がすべてだということに気づいたのだ。

私はアベル様やロジュディー様のことを理解しようとしていなかった。男は女王になるために利用するモノとしか考えておらず、心を通わせようとも考えてもいなかったのだ。

私が女王になりたかったのは、お父様のため。国民のため。あんなクズ親子に国をダメにされたくなかったから。

それを再認識させてくれたのは他でもないフォルカーの一言だったのだ。



もし私がもっと彼らを理解しようとしていたら?もっと本心を伝えようとしていたら?



もしかしたら違う結果になっていたのかもしれない。



でも今更反省しても遅い。私はきっとお父様にすら見放される。リズニアの王子に危害を加えようとしたとして死罪になるかもしれない。運良く免れたとしてもシェルドントで幽閉されて一生を過ごすことになる。なんて馬鹿なことをしてしまったんだろうか。私が女王になったところで何も変わらないかもしれないけれど、それでもあの弟たちよりは国のことを思っているとは自負していた。全ては遅すぎたのだ。私は一体何人の国民を犠牲にしてしまうのだろうか。そのことが重く重く心にのしかかっていた。



そんなことを考えているときだった。多分、捕まってから3時間ほどが経った頃のことであった。



私の耳にコツコツコツと誰かが駆け足で来るような足音が聞こえてきた。その足音はどんどんと近づいてきた。


『リンファ様!!』


私は暗がりの中、その声で誰が来たのかを理解した。鉄格子越しに見えたのは濃紺の身軽な衣装に身を包んだフォルカーだった。髪型は普段の彼のものなのだろう、少し癖のあるショートヘアになっており、化粧もしていない。、、、それなのに美しいって、何なのだろうか。

私はベッドから離れ、格子の近くまで着た。彼は左手にランタンを持ち、右腕に何やら白っぽいような布の塊と麻袋のようなものを掛けていた。こうしているとただの美青年だな、と私はそう思ってしまった。しかし、彼の様子がおかしかった。彼はとても慌てていたのであった。

彼は錠を外すとこちらに入ってきた。

『どうしたのですか、そんなに慌てて』

『あぁ、よかった!なんともなくて!さぁ、今すぐそのドレスを脱いでください!』

『え?』

私はポカンとしてしまった。いきなり何を言ってるのだろうか。新手の追い剥ぎなのだろうか。

『とにかく急いで!さ、これに着替えて!着替えたら部屋も移動します。着替えたら念の為に手も洗ってください』

そういうとフォルカーは腰につけていた鍵で格子を開け、私に白っぽい塊を渡してきた。よく見るとそれは薄い若草色のシンプルなワンピースであった。生地からして普通の貴族の令嬢が普通に着ているようなものであった。


『えっと、わかったわ。あ、でも、、』

私はわけもわからず返事したが、このドレスには問題があったことを思い出した。

『あぁ、後ろの編み上げですね。それなら僕がやります』

そう、このドレスは背中の部分に編み上げがあり一人で脱ぐのに向いていないのであった。フォルカーはなんのためらいもなく私に近づいてきた。

『え。いや、ちょっとまって!』

『大丈夫です。女装で慣れてますし』

『そうじゃなくて、その、男の人に触られるのは、、』

私は多分赤くなっていたと思う。頬のあたりが熱を持っているのがわかったのだ。彼も彼で私の言葉の意味をようやく理解したようで頬が染まっていった。

『あ、、そうですよね。まずいな、誰か女性を連れてこないとか。でも離れてる間に万が一があっちゃいけないし、どうしよう』

フォルカーは慌てふためいていた。私を捕縛したときの余裕はどこに行ったのかと少しおかしくなってしまい、私はクスクスと笑ってしまった。

『ちょっと、真剣に考えてるんですから笑わないでください!』

彼は少しこちらを睨んだが先程までの怖さはなかった。

『ごめんなさい。そもそもなんで私はドレスを脱がなくちゃいけないの?』

『説明したいのは山々なんですが、口止めされているんです。そのドレス、さっきの液体がつきましたよね?あと、直接肌にはついていませんか?』

『ええ、左の裾の方に。肌にはついてないわ。ただ、少しベッドには染みてしまったの。それが?』

『やっぱり。貴女は何も知らないんですね?』

フォルカーは少し目を見開いて言った。その言葉は何を意味しているのかこのときの私にはわかりかねた。

『何のこと?』

『証拠品として押収しなくてはいけなくなった、としか言えないのです』

『あぁ、そういうことね。わかったわ。じゃあ貴方が脱がせて?早く持っていきたいでしょうし』

『いや、でも』

フォルカーは頬を赤くしたままだった。かわいいなと思いながらも私は続けた。

『別に何もしてこないでしょ?さっきの会話だと、貴方はあのリットとかいう男の方が好きなのでしょう?』

『いや、まぁ、えっと、その。あれは冗談で、、』

『嘘ね。冗談と見せかけて本気だと思いましたわ』 

私がそういうと彼は観念したかのように小さくため息をついた。

『すごいな。というか、男が好きなんて引かないんですか?』

『別に、誰がどんな人を好きになろうなんて自由じゃないですか。自由が認められているなら突き通すべきだわ。まぁ、相手が自分のことを好きになってくれるかは別だけれども』

それは私の本心であった。自由が認められているならばそれを行使しないのはもったいないことである。

『驚いた。そこまで考えられる貴女が、なんでこんなことしたんですか?その聡明さと美貌があればうちの王子もなびいたかもしれないのに』

『無理ね。あの王子、好きな人いるみたいだし。それにね、貴方のさっきの言葉で色々思い出したの。なぜ女王になりたかったのかってね。今更反省しても遅いけれど』

私は照れくささもありわざとらしく笑ってみた。フォルカーは申し訳無さそうにしゅんとしてしまった。

『出過ぎた真似を、すみませんでした』

彼は私に頭を下げた。

『いいのよ。さぁ、脱がせてくださる?後ろをやってくれれば後は自分でできますから』

『でも』

『早くしないと隊長さんに怒られてしまうのでは?』

私はハーフアップにしていた髪を右側に寄せ、紐が見やすいようにした。

『わかりました。失礼します』

そう言うとフォルカーは私の後ろにまわり、ランタンを近くに置き、紐を緩め始めた。慣れていると言ったのは事実なようで、するするとドレスが緩み始めた。私は前の方を押さえながら作業が終わるのを待った。傍から見ればこれはとんでもないシチュエーションだな、なんて呑気なことを考えていた。それくらい不思議と彼に対して安心感があったのだった。


『終わりました。後ろを向いてますので、着替えてください。あと、液体がかかったところは触らないように』

『わかったわ』

私は緩んだドレスを脱ぎ、若草色のワンピースドレスに袖を通した。袖丈はピッタリだったが、裾は普通のものよりも少し長いように感じた。

私はワンピースを着たあと、フォルカーに声をかけた。

『着たわ。ねぇ、もしかして、このワンピースの持ち主って、、』

『僕です。袖は本当は七分なんですが、いい感じに長袖になりましたね』

フォルカーは私の全身を見るとニコリと笑った。

『いやみか!』

私は思わずツッコミをいれてしまった。そんなことをしていい相手ではないとわかってはいたもののつい止められなかったのであった。フォルカーはそんな私の様子を気に留めもせず笑みを浮かべていた。

『褒めてるんですよ。良く似合ってます』

その笑顔はとても美しく、もはや羨ましい領域にあった。

『貴方のほうが似合いそうよね。女装は趣味なの?』

『いいえ。任務の中で必要なときがあればって感じですね。今日みたいに』

『え、そうなの?』

それにしてはハイクオリティだなと感心してしまった。

『案外女装しなければいけない機会があるんですけどね。でも、僕は別に女になりたいってわけではないんですよ。ちなみに恋愛対象はどっちも(・・・・)です』

『は?!それ先にいいなさいよ!信用しちゃったじゃない!』

それはつまり私のこともそういう目で見れるということに気づき頬がまた熱を持っていったのがわかった。

『聞かれませんでしたしね。ふふ、大丈夫です。今は彼一筋ですし。あと、貴女の右肩甲骨の下に可愛らしいホクロがあることは誰にも言いません』

『この、クソガキが』

私は目一杯彼を睨みつけた。しかしそれは全く効果がないようで、彼は余裕そうに笑っていた。

『だめですよ、姫君がそんな汚い言葉を使っては。あと、僕のほうが2つ年上です』

ということは彼は19歳らしい。まさか年上だとは思っていなかったけれど、よく考えれば諜報部で働いているのだから学生なわけがなかった。

『お嫁にいけない』

『お婿をもらえば大丈夫ですよ』

フォルカーは相変わらずニコニコとしている。嫌味なのか本心なのかもはやわからない。

『失敗したからここにいるんでしょうが。もう!私は幽閉よ。女王にもなれない。そしてシェルドントは没落の一途を辿るわ』 

私は頭を抱えた。

『あと、お父様からの伝言です』

彼は忘れてたと言わんばかりに伝えてきた。私はフォルカーを軽く睨んだ。

『それ、先に言ってよね?ついで感を出さないでちょうだい』

『すみません、すっかり忘れていました。今晩、そこで頭を冷やしなさい、だそうです』

『そう』

予想していた言葉に驚きも何もなかった。私はついに最愛のお父様に嫌われてしまったのだ。


『まだ続きがあります』

フォルカーは私をまっすぐに見つめた。私は息を呑んだ。どんなことを言われるのだろうかとヒヤヒヤしていた。

『なに?』

『大切な娘がこんなことをするまで思い詰めていただなんて、、、申し訳なかった。だって』

『っ、』

その伝言に私は不覚にも涙を堪えられなかった。涙が頬を伝って落ち、ポタポタと冷たい石の床に染みた。こんなこと起こしていながらも、お父様は私のことを大切な娘だと言ってくださる。そんな優しい彼を苦しい立場にさせてしまったことに激しい後悔の念が襲った。もしもこれが原因でお父様の体調が悪化したらどうしよう、などと考えれば考えるほど涙が止まらず、私はヒクヒクと泣き続けた。



『どうぞ』

彼はそういうと私にキレイな花の刺繍が施された白いハンカチを渡した。私は自分のがあると断ったが、いいからと促され使わせてもらうことにした。

『あ、ありがとう。ごめんなさい、涙が、止まらなくて』

『たくさん泣いてください。他言はしませんから。何なら胸をお貸ししましょうか』

そう言うとフォルカーは両腕を広げた。私は首を横に振った。親切心からなのか下心からなのか本当に読めない男である。もしかしたらただの天然なのかもしれない。ちらりとそう思ったが、そんなことよりも父親への申し訳無さで心はまたすぐに埋め尽くされていった。

私はそれからしばらく泣き続けた。フォルカーは私の隣でただ待っていてくれた。


どうにか泣き止んだころ、フォルカーが口を開いた。

『部屋を移動したあと、お話を聞かせていただけませんか?』

その瞳は真剣で、あの冷たさは微塵も感じられなかった。月明かりとランタンに淡く照らされているその瞳は緑なのに少しオレンジが混じっているようにも見えた。瞳に引き込まれそうになりながらも、私は首を横に振った。目の前の人は信用するに足りる人間なのか判断がつかなかったのだ。ましてや彼は他国の国王の親衛隊、私の情報が自国の存亡を左右する可能性も捨てきれない。そもそも私には他人を信用するというハードルの高いことはできなかった。そういうふうに生きてこなかったのだから。


『気持ちは嬉しいけれど、これは私の問題なので』

その言葉に、フォルカーは少しだけ寂しそうに笑った。

『とにかく、階を移動しましょう』

彼は持ってきていた麻袋にドレスを入れ担いだ。

私達は部屋を出た。その先では見張りの兵がいたが、フォルカーが耳打ちをすると兵は上の方へ移動していった。私達は螺旋階段を下がり、一つ下の階の小部屋に移動した。造りなどは全く一緒であった。

私はベッドに腰掛けた。フォルカーはすぐに部屋から出ていくのかと思ったけれど、彼は出ていこうとしなかった。

『見張りの兵にはすこし席をはずしてもらいました。これで教えていただけませんか?』

『ちょっと待って。なんで貴方そんなことまでできるのよ?』

『国王直属の部隊を舐めないでほしいですね。いわゆるエリートですから』

ふふ、と彼が可愛らしく笑った。

『なんか気に障るわね』

『それに、彼らとは顔なじみなんですよ。ここを利用するような輩を引っ張ることも多いので』

『大変ね。国王様の親衛隊ってのも。捕まった私が言うのもアレだけど』

『我が国王様は素晴らしいお方ですから、仕えられて光栄に思います。前国王様もそうです。今の僕が在るのは彼らのおかげです。ですが』

そう言うと、フォルカーは突然立膝をついて私を見つめた。

『僕は、貴女のために動くと誓いましょう。貴女が望むのであれば、国王様にも他言しません』

彼の真剣な眼差しが私を射抜いた。私は不覚にもときめいてしまい、心臓の鼓動がうるさいほどであった。しかしすぐに冷静になった。

『ねぇ、早くそんな格好やめて。しかも、何言ってるの?そんなことしたら貴方、反逆罪に問われるじゃない』

見張りに彼のこんな姿を見られたら疑われてしまう。関係のない彼まで巻き込むわけにはいかないのだ。

『バレなきゃいいんですよ』

『最低ね』

『僕は貴女の味方になります。さっきの反応で確証が持てましたので』

『とにかく、立膝はやめて』

『じゃあ話してくれるんですね?』

『わかったから!でも、他言しないでほしいの。まぁ、国王様たちに何か言われたらその時は言ってもいいわ。貴方に迷惑はかけられない』

『あれ、随分とお優しいんですね。死んでも言わないで、とか言いそうなのに』

フォルカーは目を見開いて言った。私をなんだと思っているのだろうか。

『本当に失礼な男ね!出ていきなさい』

『すみませんでした』

彼は謝ると立膝をやめた。

『少し長くなるかも。ねぇ、証拠品早く持っていったほうがいいんじゃない?』

『いえ、まだ時間に余裕はあるので』

『さっきはあんなに慌ててたのに』

『それは忘れてください。あ、でも、ちょっと待っててください』

フォルカーはそういうと一度部屋から出てどこからか簡素なイスを持ってきた。

『すみません、座りながら聞いてもいいですか?王宮ランニングのせいで脚が辛くて』

『え、あれ、本当に走ったの?!』

『当たり前です。隊長の命令は絶対ですから』

『王宮外周10周って、どれくらい、、いや、聞かないわ。知りたくもない』

『ええ、懸命ですね。これで目線も合いますし、一石二鳥ですね』

フォルカーはそう言うとまじまじとこちらを見ては笑みを浮かべていた。

『何が一石二鳥なのかはわからないけどね。どこから話せばいいの?』

私は体温が上がるのを必死に抑えようとした。

『本当は貴女の生い立ちから聞きたいところですけど、なんでこんなことをしてしまったかにつながる部分をお願いします』

『わかったわ。ちょっと複雑だから、リズニア語のほうがいい?』

ツッコミを入れたい部分はあったがあえて無視をして私は答えた。

『いいえ、お構いなく。シェルドント語なら問題ありません』

隠密はシェルドント語ができないと入れないのかというほどフォルカーの言葉は自然なものであった。自然すぎて彼が本当はシェルドント出身なのではと思うほどであった。しかし肌の色や彫りの深さなどは明らかにリズニアのものであり、私は違和感を覚えた。



私はかいつまみながら事情を伝えた。フォルカーはところどころ眉をひそめたり考え事をする素振りをしながら真剣に聞いていた。



『こんなもんかしら。まぁ、私の主観が入っちゃってるから事実と異なるところもたくさんあるだろうけれど』


『さっきはすみません。事情も知らずに、女王にふさわしくないだなんて言ってしまって』

彼はしゅんとして言った。そんな子犬のようになるのもまた可愛らしいなと思ってしまう自分がいた。

『事実よ。私も大切なことを見失ってたし。貴方のおかげで目が覚めたわ。むしろ感謝してる』

『リンファ様。貴女は本当にアベル王子を手に入れたかったんですよね?』

その彼の質問の意図が私にはわからなかった。

『ええ。この際だから言うけど、超最良物件だもの。言葉は良くないけれど』

『わかりました。その言葉に偽りはないですね?』

『ないわよ。でも、それがどうかしたの?』

『いいえ、こっちの話なので。では、僕は行きます。今夜は少し冷えるので、しっかりと毛布にくるまってお休みになってください。あ、毛布は洗ってあるので安心してお使いくださいね』

そう言うと彼は椅子から立ち上がった。

『そんなに気を使わなくていいわ。やらかした私が悪いのだから』

『貴女という人は、本当に』

そういうとフォルカーは私の頭を撫でた。その行動に自分の頬が熱を持ったのがわかった。彼の表情は優しく、慈愛に満ちているように見えた。本当に表情がよく変わる人。そしてなぜだか、私はその手の温もりに懐かしさを感じていた。



『おやすみなさい、姫君』

私もおやすみなさいと返した。フォルカーは椅子と袋に入ったドレスを軽々と担いで部屋を出ていった。その足音はヒールのものではなかったからか、最初の音とは違い、少し温かみがあるように感じた。



私は月の光が薄っすらと入る暗がりの中、毛布にくるまった。毛布は薄っすらと柑橘のような香りがした。私は自分が思っていたよりもすんなりと眠りについたのだった。



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