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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第2章 忘れたものを探して
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2話 勉強会

6の月13日目。

この日は朝から雲の多い天気であった。

6の月27日目にある学年末試験と飛び級試験に向けて、ライナ、ティオ、ケリーの三人は図書室で勉強をしていた。ライナは髪を三つ編みにし、先にそれぞれ青紫色とターコイズブルーのリボンをつけていた。

図書整理員以外は三人しかおらず、規定も厳しくないので三人は程々の大きさで会話しながら勉強に励んでいた。他の生徒がいないのは珍しいことだった。担任の話では今日は高等部の生徒たちが実習で北の森に行っているということで、図書室に人がいないらしかった。


ライナが受ける飛び級試験は、中等部を卒業するのにふさわしい学力を持ち合わせているかを検査するものである。中でも難しいのはウェルダ語・シェルドント語の筆記だと言われている。ライナはどれも合格点に達する程度の実力は持っているが、彼女はイズール語の会話試験に不安を持っていた。

「イズール語の会話試験、どうしよう」

「なんで?」

「私、丁寧なやつしか喋れないから、日常会話の場面だと少し不安」

そう、ライナはイズール語は丁寧な言い回ししかできなかった。日常的に使うこともなく、丁寧に喋れていれば問題はないだろうと、口語的な言い回しなどは勉強してこなかった。その時間は他の言語や技能を身につけるために費やした。

「あぁ、、それ、大丈夫じゃないか?」

ティオが言葉を濁らせながら言った。

「だって最近あんまり練習できてないし」

ライナは大真面目に答える。

「わかった。じゃあここからイズール語にしてみようよ」

そうケリーが提案し、ライナはさっそくイズール語に切り替えて会話に挑む。

『ありがとう。助かる。、、、あれ?なんで?普通にしゃべられるようになってる!!』

『だろ?問題ないな』

『問題ないね。さすがライナ』

二人は軽く流すように言った。

『おかしい。私練習した記憶ないんだけど』

『そうだったか?結構前からできてるよな、ティオ』

『あぁ。前から言えてたぞ』

ケリーとティオは話を合わせた。ライナは首をかしげていた。


ところでさ、とティオが話題を変えた。その表情はうかない。

『なぁ、ライナ。勉強に水をさすわけじゃないんだけど、本当に飛び級試験受けるんだよな?』

『もちろん。なんで?』

『ほら、一つ学年上がるとさ、アイツと顔を合わせることになっちゃうし』

『あ、そうだ。すっかり忘れてた』

ライナは少し顔色を悪くした。



それは、幼い頃に仲の良かった、少し年上の人。



『でも、あたしたちが守ればいい話だよ。アイツ、うちらがライナと一緒に居るときは手出ししてこないじゃん?最近は接触もないし』

ケリーは、あのサイコパス野郎、と付け加えて言った。

『まぁ、最近は何にもしてこないから大丈夫だとは思いたいけどさ』

『大丈夫だよ。もう昔のことだし、少しでも長く二人と一緒にいたいの。ね?』

ライナはぎこちなく笑った。


わかったよ、とティオは渋々納得した。

ケリーは慌てて話題を変えた。

「高等部の実習さ、ライナも来年一緒に行ければいいな」

「そうね。頑張って合格しなくちゃ!」

「俺たちもフォローするからな、ってそんな必要ないか」

「ううん、便りにしてますよ、お兄様」

「相変わらず棒読みだな」

「でも、実習で牧場は勘弁だわ。入りたくない。今年は北の森だけになったけど、来年は復活して牧場も行くことになるだろうし」

ライナがそう言うとティオもケリーも大きく頷いた。

「まぁ、そこは配慮してくれるだろうよ。あんなことあったわけだし。ちなみに今の管理者はあのヴィダさんらしいよ。ギルさんから聞いたけどさ」

「ヴィダさん、えっと、、」

ライナは記憶を引っ張り出そうとして眉をひそめた。

「あたしやギルさんと同じウェルダ出身で、コンバーターじゃない人」

「それだ、思い出した!イズールに興味があって自力で登山して彷徨ったすえに村に来たっていうあれか!」


「あぁ、ティオとケリーが初等部卒業する間際に来た男の人ね!」


過去にはそんな強者が居たのだ。

ライナたちが知る限りでは、そんな力技でこの村に来たのは彼くらいであった。


「懐かしいなぁ。ずいぶんとフレンドリーな人だったよな。役場で働きだしてからはしばらく見てなかったけど」

「今回の騒動で人事異動があったみたいでさ」

「そっか。なんかいろんな人に迷惑かけちゃって申し訳ないな。スタンさんも巻き込んじゃったのよね?あんなに昔遊んでもらったのに、申し訳ないな」

ライナは記憶になかったけれど、スタンがシュタイナーに協力していたことを知り、ショックを受けていた。スタンは昔からライナたちの遊び相手をしてくれていたのだ。


「あれはあいつが悪い。ライナは悪くないから」

「でも、今度おばあちゃんと南の森の収容所に面会に行く予定なの」

「どうせあと半年で出てこれるんだからライナが行かなくてもいいと思うけどな」

「ライナは優しいなぁ」

ケリーがライナを抱きしめた。その時、図書整理員の咳が聞こえた。


三人は顔を見合わせ、黙々と各自の勉強に取り組んだ。




図書室で三時間ほど勉強したその帰り、ケリーがライナに尋ねた。

「そういえば、ライナのその髪飾り可愛いな。どうしたんだ?」

「これ?」

ケリーの問いに、ライナが三つ編みの先につけていた2つのリボンを指差す。うんとケリーが頷いた。

「いつの間にか持ってたんだよね。キレイにラッピングされてた跡があったから、誰かからもらったのかもしれないんだけど、さっぱり思い出せなくて」

その瞬間、ティオが咳き込んだ。

「すまない。なんか乾燥してるな」

ティオのわざとらしい反応にライナがジト目で見る。

「お兄様、何か知ってますね?」

「知らない。ケリー、そもそもお前には必要ないだろ?髪短いしさ」

「あ、ひどい。お兄ちゃん乙女心がわからないな?ケリー、今度お兄ちゃんと髪飾り選びに行ってきなよ」

「なんで俺が?!」

「あ、あたしはいらないよ。髪短いし、ト、トレーニングの邪魔になるしさ!」

ライナは眉をひそめる。

「ふーん。何か、最近二人ともおかしいよ?何かあったの?」

「「何もない!」」

二人は揃って全力で否定した。

「そっか。私に気を使わなくて大丈夫だからね?私は二人がすごくお似合いだと思ってるし。二人がくっついても、今まで通り仲良くしてくれればそれでいいから」

「な、なんでそんな話になるんだよ!な、ティオ?」

「そうだな!俺たち何もないから!」

「本当に気を使わないでね。二人がいてくれるから私は私で居られてる気がする。心に大きな穴が開いてる気がするんだ。何でだろう。大切な何かを忘れちゃった気がして」

「ライナ」

そういうとケリーがライナを抱きしめた。

「ケリー。他の人もいるからやめて」

帰り道、他の村人も普通に出歩いており、面白そうに三人を眺めていた。

ライナは恥ずかしそうに顔を赤らめていた。


「無理しなくていいんだ。ライナはライナなんだから。あたし達が離れないで一緒にいるから」

「ありがとう。ごめんね、変な話して」

その様子をティオは複雑そうな顔で見ていた。



◇◆◇

その日の夜、リビングで父親と二人きりになったのを確認して、ティオが話しかけた。

「父さん、お願いがある」

「ティオ、何だい?あ、例のことか?」

「そうだ。次にリズニアに行くときに、これをあいつに」

そう言うと、ティオはウルマーに白い封筒を手渡した。

「わかった。必ず届ける」

ウルマーは笑顔でティオに答えた。




―――

――

アベル

そっちの生活はどうだ?元気にしているだろうか?ライナは完全にお前のことを忘れたわけではないかもしれない。ヒースが気づいたことが2つある。1つは目覚めたときにお前の金髪にすごく惹かれていたそうだ。もう1つは、お前にイズール語で話しかけたことだ。普段リズニア語で話してるライナがわざわざイズール語を使う必要がなかったのにも関わらずな。あと、最近ライナに進展があった。彼女は何かを忘れているということに気づいたようだ。青紫とターコイズブルーのリボンはお前がライナにあげたものだよな?本人は誰からもらったかは覚えてないと言っていたが、毎日のようにつけてるぞ。そっちでうまくやれてても浮気すんなよ。そんなやつじゃないと信じているが。体に気をつけてくれ。 ティオ


――

―――



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