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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第2章 忘れたものを探して
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1話 2章プロローグ

私は夢を見ていた。



私は眠っていた。何かが私の額に触れたような気がした。


『必ず―――。君が――――を待ってるから』


よく聞き取れなかったけれど、その声は優しく温かかった。

ずっと聞いていたかったけれど、彼は離れていってしまった。



どうしてこんなに悲しいのだろう。



なぜだろう。私はとても大切な何かを忘れてしまっている気がした。




◇◆◇

私の記憶がはっきりとしたのは休日が明けてからだった。私は3の月末から5の月初め頃のことがほとんど思い出せなかった。理由は私が両親の秘密を知ってしまったことと、牧場主のシュタイナーさんに拉致されたショックによるものだそうだ。彼はまだ捕まっておらず、捜索が続いているとのことだった。あの優しかったシュタイナーさんが私を拉致したのは、私の生みの両親がシュタイナーさんのお母さんを殺めてしまったことと関係していたらしい。事故といえば事故だったそうだけれど、それでも私の両親の罪は消えない。その両親は村を出てリズニアで生活していたが、生まれてきた私の"色"のせいで仲違いし父は家を出た。母は自分を追い詰めて心中しようとしたところを、今の父ウルマーが助けてくれ、私を引き取ってくれたのだ。私は存在していてはいけないとずっと考えていたけれど、両親の秘密を知りより一層そう感じた。

でも、なぜか思っていたよりはダメージがなかった。存在している以上は頑張って生きないとと思えていることが不思議でならない。いつの間に私はこんなに図太くなったのだろうか。


この一ヶ月半のことで覚えているのは、はじめの日に北の森に薬草を摘みに行ったことと、最後の日に村に国王様と王妃様がいらしていて会話をしたことくらいである。いつの間にかしゃべる小ウサギのヒースを飼っていたことも気にはなっていた。これからは定期的におばあちゃんの診療所でカウンセリングを受けることになっている。


また、その間に村ではたくさんのことが起こっていたらしい。どうやらこの村は正式にリズニア領となり、村の存在が世界に公表されることになったらしい。そのきっかけはリズニアとイズールが交易を始めることらしい。さらにその理由は、リズニアの国王様とイズールの王女様が結婚するからだそうだ。なんでも、二人は昔にお互いに家出をしたときに偶然出会い、恋に落ちたがその後それぞれの捜索隊に見つかり離れ離れになってしまった。お互いの身分を知らなかった二人はお互いのことをずっと思い合っていたらしい。実はイズールの王女様はそのときに子どもを身籠り、未婚のまま息子を育て続けたとのことだった。そして二人は再会を果たした。なんとも壮大なラブロマンスである。




今朝の夢は何だったのだろうか?もしかしたらお兄ちゃんなら知ってるかな?いや、やめておこう。なぜかこの話題になると家族がギクシャクする感じがする。それに、私の本当の両親のことも今回の事件のこともある。あまり周りに迷惑をかけてはいけない。


私はさっきの夢ことを心の奥にしまっておくことにした。



私は身支度を整え、左腕にいつもの黒い手套をはめてダイニングに降りた。 

「おはよう、お母さん」

「おはよう、ライナ。体調はどう?」

「だいぶ良くなった。ご心配おかけしました。お母さんの傷はもう大丈夫?」

マチルダ(おかあさん)は私が誘拐されたときに負傷をしたらしい。黒い無数の羽が彼女を襲ったのだという。

本当に、シュタイナーさんは謎が多い。


「私はもう平気よ。親子なんだから、もっと甘えていいのよ?」

「私にはもったいない言葉だよ。ありがとう」

私がそう言うと、お母さんは少し困った様に笑った。

「おはよう。なんか、目が腫れてないか?」

そう聞いてきたのは兄のティオだった。兄とはいえ血は繋がっていない。幼い頃からずっと私のことを大切にしてくれる良き兄だ。

「寝すぎたのよ、多分。お兄ちゃんこそうっすらとクマができてるわ」

「これは、ヒースがうるさかったからな」

「あの子またお兄ちゃんが寝るのを邪魔したのね?いい加減私の部屋に移したら?」

「いいんだ。ライナが寝れなくなったら困るだろ?」

彼はあくびをしながら答えた。相変わらず優しい兄である。でも最近は少し雰囲気が変わった気がした。少し前は恋愛感情を向けられていた気がしたけれど、最近はそれがなくなった。幼馴染のケリーも最近様子が変わった。もしかして二人に何かあったのかもしれない。私は前から二人がお似合いだと思っていたのでつい嬉しくなってしまう。

「何、ニヤニヤしてるんだ?気持ち悪いな」

「うるさいわね。お兄ちゃん、今日ケリーとデートでもしてきたら?」

「な、な、なんでデートなんか!しない!今日は試作品のテストがあるからな!!」

ティオの顔が真っ赤になった。ふふ、これはお兄ちゃんをからかうのにいい材料を手に入れた。私は朝から上機嫌になった。



◇◆◇

「ライナ、ティオ、おはよう!」

「おはよう、ケリー」

教室で声をかけてきたのは幼馴染のケリーだった。彼女はそのルックスからクラスの、いや学校中の女子からチヤホヤされているがれっきとした女の子だ。最近は髪も梳かすようになって、女の子らしさが上がってきた気がする。

彼女は朝の走り込みを終え、クラスの女子から受け取ったタオルで顔を拭いていた。いつの間にか彼女は朝から走るようになった。私の意識がはっきりしない間に何かあったんだろうか?

「ねぇケリー、どうして走り込み始めたの?」

「え、ほら、いや。強くなりたいし?な、ティオ」

「そ、そうだな」

「なんか、二人とも隠してない?」

「「いや、何も?」」


怪しすぎる。何か二人が隠してる気がする。



いや、二人だけじゃない気がする。クラス全体が、何か変だ。

やけにため息をついてる女子が多いし、男子は逆にいきいきしている。


私の両親の秘密がバレた?拉致されたことはみんな知ってそうだけど、これには関係ないよね。


うーん。よくわからない。



とりあえず今は、飛び級試験に向けて勉強しなくちゃ。なぜか今まで以上にティオとケリーともっと一緒に居たいと思っている自分がいた。この一ヶ月半の間に何があったんだろう。あんなに人に依存したくないと思っていたのに。



私のこれらの疑問は頭の片隅にずっと残り続けることになるのだった。




そして放課後、私は診察を終えたケルデおばあちゃんと二人で東の森の奥にある墓地へ向かった。シュタイナーさんのお母さんであるベティさんのお墓参りにいくためである。



私は森で摘んだ春の花を供え、ベティさんの墓前で手を合わせた。

私にできることはベティさんのためにも一生懸命に生きることだと思う。本当のお母さんとお父さんのしたことはわざとではなかったにせよ、許されることではない。生まれてきたからには私にできることを懸命にやるしかないのだ。

薬草の知識をもっと学び、世界のどこかでそれを必要としている人々に伝える。それが私に課せられた使命だと考えている。

必要とあらば、左手の不思議な力も使わざるを得ないかもしれない。例えそれが私の命を削るものだったとしても。



私たちのような思いをする人がいないように力になりたい。



それは、今の私になるずっと前の私の願いでもある。


もう一度チャンスをもらえた私という存在が無意味にならないよう、誰かのためになれるよう、私は精一杯生きたい。



前向きに考え直させてくれた"その誰か"に私は感謝してやまない。



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