SS.1-5 銀髪の巫女
会談の後、俺は役場のバルコニーで風に当たっていた。夜風はとても心地良く、満点の星空が今にも降り出しそうなほどだった。いつから星を見なくなったのだろうか?いつから国民を、ナディアを、アベルを見ないようにしてきてしまったのだろう?俺はそんなことを考えていた。
そこにやってきたのはアベルだった。
『お祖父様。少しお話が』
『何だ?』
『ロスタベルク卿の影武者に、謝りにいきたいのです』
『そんな必要はない。奴らが自分で蒔いた種だ』
『それでも、俺が傷つけてしまったことに変わりはない。しっかりとケジメをつけたいんです』
孫息子はそこまで成長していたらしい。俺が見ていなかっただけなのだろうか?それとも今回のことがきっかけなのか、はたまた好きになった少女の影響なのか。いずれにせよ、その成長がとても嬉しかった。
『わかった。奴はまだ王都の牢獄にいるから機会を設けよう』
『ありがとうございます』
『お前は強くなったな。彼女のおかげか?』
『はい。でも、彼女は』
『事情はヘルムートから聞いた。それでもお前は諦めないのか』
『はい。思い出してくれると信じています』
『わかった。応援しておる。まさかお前が銀髪の巫女と恋仲になるとはな』
『銀髪の巫女?どういうことですか?』
『これは歴代の王だけに伝わる話だ。お前には特別に教えてやる。これは俺の祖父がお前ほどの歳だったときの話だ。人族に追われて雪山を移動していた彼は、民とともに生死の縁を彷徨っていた。どこまでも続く山道、降り止まぬ吹雪の中、王子は一人崖から滑り落ちてしまったそうだ。彼は体の左側中心に大きな怪我を負ってしまい、意識を失った』
アベルは真剣に話を聞いていた。
『気を失った彼は夢を見た。美しい銀髪を持った少女が彼の手を引いて山道を案内してくれる夢だったそうだ。目が覚めると、不思議なことに彼の怪我は治っており、無事皆と合流できた。そして、彼が夢で少女に案内してもらった通りに山道を先導し、無事にイズールの地に辿り着くことができたそうだ』
『そんなことって』
『ただの夢かもしれんがな。それ以来少女は銀髪の巫女と呼ばれ、この話は歴代の王だけに伝わり続けた』
『なぜ、王にだけ?』
『彼がこの少女に恋をしたからだそうだ。もちろん実在しないのだから、叶わないがな。こんな話配偶者に聞かせたくないだろう?』
『その銀髪の巫女はどんな瞳の色だったのでしょうか?』
『それは俺の代まで伝わっていない。銀髪とだけしか知らないんだ。まぁ、俺たちにとって銀髪の巫女は幸運のシンボルなんだ。勝手に崇めてるだけだけどな』
『何か不思議な話ですね。でも、いいんですか、僕が聞いてしまって』
『いいんだ。ただの言い伝えだ。それに、ここでイズールの歴史は変わるのだから』
『銀髪の巫女、か』
アベルがそうつぶやいた。
俺は彼の恋路がうまくいくことを切に願った。
イズールに新しい風が吹く。
たくさんの困難が待ち受けているだろうが、目の前の若者がきっと正しく導いてくれる、そんな気がしていた。




