SS.1-3 再会
村長が応接室にやってきたのはそれから十数分後のことだった。
村長の後ろにはナディアとアベル、エマ、コードと続いた。
ナディアとアベルは緊張した面持ちだった。エマとコードの親子はいつも通りのポーカーフェイスを貫き通している。
『国王陛下、ようこそおいでくださいました』
『ヘルムート村長、こちらこそ4人を保護してくださいましてありがとうございました』
我々は固く握手を交わした。
『積もる話もあるかと思いますので、私は一旦退出させていただきます。ナディアさんの方から説明が難しければ私からでもいいのですが』
『いいえ。私の方から父上には説明いたします。お気遣いありがとうございます』
ナディアのその言葉に頷いたヘルムートは出ていった。
エマとコードはナディアたちから少し離れ、後ろの方で起立して待機している。
ナディアとアベルは俺の正面の席に座った。
『お父様。私達のためにご足労いただきましてありがとうございました』
ナディアが頭を下げた。
『お祖父様。僕がすべての元凶です。ロスタベルク卿に手を出してしまったことは事実ですし、それに母を巻き込んでしまった。罰ならば僕一人が受けますので、どうか母には寛大な措置をお願いしたいのです』
アベルが頭を下げた。心なしかアベルが少し大人になった気がした。
『罰など、あるわけがない。私が悪かったんだ。お前たちがどんな目にあっていたかわかっていながら、見てみぬふりをしてきた。つまらないプライドが邪魔をして、危うく大切な娘と孫を失うところだった。すまなかった。お前たちに嫌がらせをしてた奴らは粛清した。だからどうか、イズールに戻って来てほしい』
俺は深々と頭を下げた。
顔を上げたらエマとコードのポーカーフェイスが崩れたのを見てしまった。俺が謝ることはそんなに珍しいだろうか?
『お、お父様?!顔を上げてください』
『実は、そのことで、問題がありまして』
二人はバツが悪そうにしている。
『どうしたんだ?イズールに戻りたくない理由が?あぁ!アベルの相手のことか?』
『いや、それはまた深刻な問題なんですが。。え、な、何でお祖父様がそれを?』
『さっきソフィーから聞いたんだ。今診療所にいるんだろ?村娘なのであれば、一緒にイズールに来てもらうのがいいだろう』
『それもそうなんですが、その、』
俺は首をかしげた。歯切れが悪い返事に納得ができなかった。
『お父様。私のほうなんです』
『は?』
『実は、アベルの父親が見つかりまして』
『なんと。まさかこの村にいたのか!!』
『いや、そうではなくて、その、』
いつも俺の前ではハキハキとしゃべるナディアがこんなにもじもじしてるとは。いったい何なのか検討もつかないその時だった。
『国王陛下だったんです、リズニアの。当時は王子でしたが』
ナディアは顔を赤くしながらも真剣な面持ちだった。
『は?』
俺はそれしか返すことができなかった。
娘の言葉が頭の中をこだまする。
『嘘だろ、私をからかっているんだな』
辛うじて出せたのはその言葉であった。
『いいえ、お祖父様。事実です。僕と同じ瞳の持ち主です。僕もまだ認められませんが、間違いなくあの人が僕の父親です』
『ち、ちょっと待て!直接会ったのか?!リズニアの国王と!』
『ええ。というか、今来てます。極秘で』
『なんて、なんてことだ』
俺は椅子から落ちそうになった。
まさか、娘の相手が憎きリズニアの国王とは。あやつらは領土だけに留まらず娘までも奪っていくつもりなのか!俺の頭は怒りに沸騰しそうであった。
『お父様、ストップですわ。こうなるから前もって言えなかったのです。これがきっかけで戦争をふっかけられたらたまったものではありません』
ナディアが少しツンとした表情で言った。それは今は亡き俺の妻にそっくりであった。
『今日の夜、極秘会談を行いたいのです。今後の世界を大きく変えるものになるやもしれません。私が言える立場ではありませんが、どうか冷静に対応していただきたいのです』
『断る。誰が、リズニアと会談など!!今すぐイズールへ帰ろう!!!』
『嫌ですわ。話し合った上で別れるならまだしも、こんな形であの方とお別れするのは絶対に嫌です。ずっと好きだった人にやっと会えたこの気持ち、お父様にはわからないでしょう?』
ナディアの冷たい目線が刺さる。それでも俺は引き下がれなかった。
『でも、これは俺の一存で決められることじゃないぞ?!下手をすればイズールで内乱が起こる』
『お祖父様、もうイズールは限界です。それはお祖父様が一番よくわかっているはずだ。今までも作物の出来はそこまで良くなかったのに加え今年の凶作。このままいけば早かれ遅かれ内乱が起こっていたでしょう』
『それは、そうだが』
『これを好機と捉えられませんか?僕たちが人族との架け橋になります』
『架け橋?』
『そうです。僕はこの村でたくさんの人に出会いました。皆、人族も魔族も関係なく協力し合って生きているのです。もちろん規模が違えばできることもできないこともあるでしょう。それでも、僕はそんな世界を目指したい。魔法で差別が起こらない世の中を作りたいんです』
『アベル。お前、いつからそんなに自分の意見を言えるようになったんだ』
『言われっぱなしではいけないと学んだんです。今回の出来事で痛感しました。反論すればよかったんです。抗えばよかったんです。それから逃げ続けた結果が今回の失敗でした。でも、やり直すチャンスを与えてもらったんです。だから今度こそは頑張ってみたい。諦めたくないんだ』
最後の言葉に強い意志を感じた。
孫息子の成長に嬉しさを感じつつも、まだ俺は悩んでいた。
『とりあえず今日の会談は臨む。しかし、やつを気に入らなればお前たちを強制的にイズールに連れ戻す』
『わかりましたわ』
『ナディア、ずいぶんな自信だな?』
『当たり前です。アクセルのことを信じていますから』
こうして俺は会談に臨むこととなった。




