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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第1章 はじまり
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68話 疾走


アベルとコードは牧場に向って走っていた。それが暴れる前に倒してしまおうと考え、そのことはティオとゲルデにも伝えた。ゲルデは反対したが押し切って来たのだった。

"あいつに何かあれば母さんが悲しむ。俺も、すこし嫌だ。それにしても、、"


アベルはライナの様子が気になっていた。

事実を伝えなければと焦っていたのかもしれないが、どこか違和感があった。


"まるで、俺のことを初めて見るかのような反応だった。そんなわけないよな"


アベルは不安にかられながらも、そのことを考えないようにして全力で村を駆けた。



◇◆◇

アクセルとヨハナが姿を消した。


その情報はリズニアから共に来ていた従者から村長にすぐに伝えられた。


「ったく、どうなってるんだ!!ライナの事といい、村で何が起こってる?!」

ヘルムートは髪をくしゃくしゃとかきむしった。


「残ってる警備隊を」

「村長!ライナは確保したっす。診療所にいる!やっぱりシュタイナーでした。他の警備隊が周辺を捜索してるがやつは見つからないらしいっす」

そこに現れたのはギルだった。ギルは第一陣として牧場に向かい、ゲルデからヘルムートへの連絡を任されたのであった。

「ギル、ありがとう。こっちはまた別件でな。客人が姿を消したんだ」

客人と聞き、ギルはピンときた。

「赤毛の男の人っすか?その後ろを黒髪の女の人が追いかけてたけど。牧場のほうに走っていきました。危ないからって止めたんすけど、すごく焦った顔してて、、」

それを聞いたヘルムートは顔色を変えた。

「牧場だって?!マズい!危険な目に合わせたら絶対にまずい!ギャリック、今すぐ残りの警備隊を牧場へ!私もすぐ向かう!」


「承知しました!」


頼む、間に合ってくれ。


ヘルムートは、普段は信じていない神に祈りを捧げた。



◇◆◇

アクセルは牧場の手前までたどり着いた。

「やっぱりあの子だ。声が聞こえる」


アクセルが入り口に向かって再び歩き始めた時だった。

「あなた!どうしてこんなところに?あの方を迎えに行ったのでは?」

その声にアクセルが振り返ると、妻であるヨハナが息を上げながら走ってきていたのだった。

「ヨハナ!なぜついて来た?ナディアじゃない。ニーナの声が聞こえた気がしたんだ。ほら、聞こえるだろ?」

「聞こえるわけないじゃない。貴方、変だわ」

アクセルはヨハナの意見を無視して先に進んでいく。



「柵が開いてる」

「だめよ。何かあったらまずいわ」

「君はここに居てくれ、俺一人でいく」

「だめよ。貴方に何かあったら、私、」

「自分の身は自分で守れる。それにただの牧場だ」

「でも、奥が騒がしいわ。家畜だけでなく人の声が聞こえるわ。しかも何人も」


二人が言い争っていると、奥から男の声が聞こえた。

「馬が暴走したぞー!入り口に向かった!逃がすな!!」

「あの子だ!やっぱり何かあったんだ!」

「だめよ、馬が暴走してるって聞こえたじゃない!」

「友達なんだ。ずっと一緒だったんだ。君よりもずっと長く」

「でも馬よ。逃げましょう?!貴方に何かあってはまずいわ!」

ヨハナはアクセルの腕を引っ張ったが、アクセルは聞き入れなかった。




◇◆◇

ティオはライナに糖分を取らせたあと、彼女が治したヒースをゲージに戻そうと恐る恐る触れてみた。

すると彼は不思議な感覚に襲われた。温かいような寒いような感覚が頭部の右側に走った。

「この感覚は、昔、、、そうか」

《ティオ、くん?》

「うわっ!!」

《聞こえるのですね。私をアベルの元へ。急いで》

「わかった。なぁ、ライナは、、」

《今は一刻を争うかもしれません。さあ早く》

「わかった。しっかりつかまっててくれ」

そういうとティオは優しくヒースを抱え、診療所をあとにした。

行き先はアベルと同じ牧場だった。




◇◆◇


アクセルたちの目の前に現れたのは、若々しく逞しい灰色の美しい牝馬だった。

その瞳は赤く不気味に輝いている。

「ニーナ、、どうしたんだい、その姿は。その瞳は、、」

馬はアクセルを見ると一瞬止まった。

そして雄叫びをあげた。

その瞬間、空気がピリピリと震え、彼女のたてがみが青く輝き始めた。


それは青い炎が揺らめいているようだった。


「ニーナ、これは、、」

「あなた!!だめよ、逃げましょう!」


ヨハナはアクセルの腕を引っ張るも時は既に遅く、馬は一直線にアクセルとヨハナをめがけて走ってきた。


そこに警備隊の一人がかけつけ、馬を槍で押さえようと試みた。しかし、尋常ならぬ馬の力に耐えられず槍は折れてしまった。


馬はなおアクセルに向かう。

アクセルはとっさにヨハナをかばうために突き飛ばし、自身は馬をかわしたが、右腕が馬の胴と軽く接触してしまった。


「っ、、なんだ、、」

アクセルは熱さと痛みに腕を押さえ、立膝をついてしまった。右腕の服は溶け、皮膚が大きく爛れていた。それを見てアクセルは動けなくなってしまった。

馬は引き返し再びアクセルを襲おうと走ってきた。



"もうだめだ!"

脳裏に浮かぶのはヨハナに子どもたち、古くからの友人たち、アベル、そしてナディアの姿だった。

"ヨハナの忠告を受け入れるべきだったんだ。ケイテ、ウィルバーにまだ伝えたいことがたくさんあったのに。ナディア、最期にもう一度君に会えたなら、感謝を伝えたかった。アベルとももっと仲良くなりたかったのにな"



アクセルは己の最期を覚悟し強く目を瞑った。



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