67話 もう
急に胸騒ぎがした。私はあの人に会いに行かないと行けない気がした。
『エマ、お願い。私はアクセルのところに行きます。嫌な予感がするの』
『しかし、』
『ごめんなさい。でも、行かないと行けない気がする。もう、二度と後悔はしたくない』
『わかりました。ミリーさんを起こして私も行きます』
『いえ、私一人で行きます。ミリーさんを危険な目に合わせてはいけないわ』
『でも』
『ごめんなさい。必ず戻るわ』
私は白いローブを羽織り、イーリス家を飛び出した。
◇◆◇
ウルマーの娘、ライナが行方不明になったという連絡が入った。古くからの友人の娘だ、俺も協力したいと願ったが却下された。
こんなときに高い身分は邪魔をする。いつもそうだ。この身分さえなければ、今頃は。だめだ。もう、そんなことを考えてはいけない。これからのことに集中しなければ。そんな風に考えて外を眺めていた。夜が明けた東の空を見ていたら、ふと声が聞こえた。彼女が助けてと言っているような気がした。あの子を迎えに行かなければ。
俺はヨハナの制止を振り切って駆け出した。
◇◆◇
アクセルは突然、あの子を迎えにいくと言い始めた。きっとあの人のことだわ。私の中で黒い感情が渦巻いていく。私のほうが長く一緒にいるのに。もう、忘れてしまうの、私達との思い出を。貴方はいつまで引きずっているのかしら。相手が魔族の王女様で子供までいたのは本当に予想外だったけれど、私は認めない。魔族の女なんかにアクセルを渡すものですか。
私はアクセルを追いかけた。
◇◆◇
彼が少年だったときからずっと一緒だった。彼が城を抜け出したあのときも。あの時の旅はすごく楽しかった。スリルがあって、出会いがあって。彼は恋に落ち、私は心から祝福した。あのとき私はまだまだ若かった。彼は国に帰ってからずっと落ち込んでいた。それでも私のことを大切にしてくれた。彼は少しずつ元気になった。良き伴侶にも子宝にも恵まれた。私は本当に嬉しかった。それから月日が経ち、ついに私は思うように動けなくなった。この旅で私の役目は終わることになっていた。それでも彼は最後まで私を大切にしてくれた。
そして、私はその囁きに耳を傾けてしまった。
『また走れるようになるよ。ずっと彼と一緒に居られる』
でも。それは悪魔の声だった。
もう私は私でいられない。
誰か私を殺してほしい。
あの人を、愛しいあの人を殺してしまうその前に。




