64話 捜索
ライナのいる部屋は倉庫のようなところで、窓は小さいものが1つだけ見えた。ドアは正面にあるが、数メートル離れており届く距離ではない。奥の背の高い棚にはたくさんの瓶が置いてあった。
「あれは、毒薬?」
それは診療所で見たことがあるものであった。
すると突然、ライナの足元に冷たい感触が走った。
「きゃっ」
その感覚はどんどんと上にあがってくる。
「蛇?!」
それは体長50cmほどのラヴィーネ毒蛇であった。サイズからすれば子どもであったが、毒性は十分にある。
ライナは身をよじり蛇をはらおうとしたがうまく行かない。
蛇はじりじりとライナの体を這いずり登っていった。
◇◆◇
シュタイナーは居宅のキッチンで赤い実をナイフでカットしていた。口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。右手にはキレイに包帯が巻かれていた。
カットした赤い果実をバケツ一杯に入れ、それを持って彼は牧場内の居宅を出た。
◇◆◇
アベル達は牧場の入り口にたどり着いた。4メートルを越す柵がぐるりと張り巡らされ、入り口にのみ大きな錠前がついている。
アベルが錠前を叩き斬ろうと長剣を引き抜こうとしたとき、コードが大声を上げた。
『だめです。魔法がかけられています。多分触ると感電します』
コードのその言葉にアベルとケリーは顔をしかめた。
『ったく物騒なものかけやがって。これは確実に黒だな』
ケリーはようやくシュタイナーを疑い始めた。
『ケリー、他に入り口は?』
アベルは焦りながらケリーに尋ねた。
『あるにはあるが、、小さいときに通ったっきりだから今もあるかはわからない』
『そこからいくしかなさそうだな』
『罠じゃなければいいんですけどね』
《コード殿、フラグを立てないでください》
ヒースは顔をひきつらせていた。
三人はぐるりと牧場をまわり、柵の途切れ目を見つけた。そこは背の高い生け垣になっており、下には人が這えば進めるような狭い隙間があった。ケリーを先頭に、アベル、コードと続く。ヒースのゲージはコードが持っている。
『やっぱり狭いな。さすがに通りにくい』
ケリーはそう言いながらも身軽に匍匐前進する。アベルもそれに続いた。
『男三人だとたしかにそうだよな』
アベルの何気ない一言に反応したのはコードだった。
『アベル様、ケリーさんは』
『あぁ、忘れてた。いってぇ!蹴るなよ!』
『すまない、脚が長くてさ』
ケリーは悪びれもせずアベルに蹴りを入れたのだった。ケリーの足はアベルの右頬にきれいに入った。
『ほら、今はケンカしないでください。ライナを助けたあと思う存分しなさい』
『それ、先公の言うセリフじゃないですよね』
ケリーはコードにツッコミを入れた。
『俺の本業はアベル様のお世話ですから。問題ありません』
『うわ』
ケリーは反論をやめた。三人は生け垣を抜け、牧場の敷地内に侵入した。
敷地内に入ると、三人は複数の気配を感じ取り自然と無口になった。
『うようよいるな。蛇か』
あたりには1メートルほどの蛇が十数匹ムダのない動きで三人に近づいてきた。
『しかもこの動きは例の蛇だ。気をつけろよ』
『わかってるよ、てめぇに指図されたくない』
『ほら、無駄口たたかないでくださいね』
コードはそういうと蛇のいる位置を正確に把握し始める。そして左手を空高く掲げた。
『アイス』
コードがそう唱えると、空気中から氷柱が出現し、蛇に次々と突き刺さる。どの蛇にも頭に直撃しており、しっぽが動いていた蛇も次第に動かなくなった。
『蛇は変温動物ですから、温度を下げちゃうのが一番ですね』
とコードは爽やかな笑顔で言った。
残る二人は顔を引きつらせ、静かにケンカを止めた。
《うわ、、》
ヒースもドン引きしていた。
◇◆◇
小さな蛇はライナの左の首元にたどり着いた。
「やめて!来ないで!」
ライナは必死に身をよじったが蛇は離れない。
蛇がシャーと鳴き、ライナの首筋に噛み付いた。
ライナが恐る恐る目を開けると、蛇はスルスルと物陰へ隠れてしまった。思っていたよりも自分の体が動くことに安堵したその時だった。
数メートル先のドアが開き、一人の男が入ってきた。ライナが顔を見上げると、そこにいたのは牧場主のシュタイナーだった。手に持っているバケツにはたくさんの果実が入っている。
「おはよう。大人しく最初から一人で来ればよかったのにね。どうやら愛しの彼達が迎えに来たみたいだよ」
シュタイナーは優しい笑みでライナに話しかけた。
「やめて。手を出さないで」
ライナはそんなシュタイナーをキッと睨みつけながら言った。
「思ってたとおりまだ元気だね。毒を弱めた蛇だから当たり前なんだけど。じわじわと楽しまなくちゃね」
ふふ、とシュタイナーは涼しく笑った。そしてしゃがみ込み、ライナに目線を合わせた。
「いつから気づいていたの。私があの二人の娘だって」
「君を初めて見たときからさ。色は違ったけど、目元はハンスに、雰囲気はマリーヌにそっくりだ。村のやつらの目は節穴なんだろうね。色にしか意識がないなんて。僕はね、君を見たときからいつかこうしてやりたいと思ってた。だから広い敷地を自由にできる牧場主になりたかったんだ」
シュタイナーは優しい笑みを浮かべたまま答えた。
「じゃあ私に優しくしてくれてたのは」
「全部演技だ。村人もみんなうまく騙されてくれたしね。本当にバカばっかりだねこの村は」
その優しい表情からは信じられない言葉の羅列が続いた。ライナはそれに怯まずに言葉を紡ぐ。
「あなたの目的は私でしょ?アベルたちは関係ない。それに、貴方のお母さんはこんなこと望んでなんか」
「ないだろうね。だからこそだよ。君は勘違いしてるようだから教えてあげるよ。僕は今気分がいいから」
シュタイナーは口角を上げた。
「僕はね、母が大嫌いなんだ」
彼から笑顔が消えた。そしてその言葉には強い嫌悪が込められていた。それを感じ取ったライナは言葉を失った。
「彼女の行為は偽善だ。後先も考えない愚かなね。それにね、僕の最終目的は君じゃない。君にそこまでの価値はないよ」
「どう、いう、こと?」
ライナの顔は青白くなってきており、唇も青みがかってきた。
「おや、毒が回ってきたようだね。いい顔をしてる」
シュタイナーは口角を上げた。
「どうせ君は助からないから教えてあげるよ」
そういうとシュタイナーはライナの顎を持ち上げ、耳元で囁いた。
「僕の最終目的はね、、、」
その内容を聞き、ライナは目を見開いた。
「そ、んな、、」
「こんなチャンスもうないからね。すべて利用させてもらったよ。あ、そうそう。もしも万が一君が助かってもダメージを受けるように、1つ呪いをかけておかないとね」
そういうとシュタイナーはブツブツと何かを唱え、ライナの顎を引き寄せ、無理矢理口づけをした。
「やめっ、」
「僕も君となんかしたくないんだけどね。まぁ、初めてじゃないだろう?さぁ、これを知ったら彼はどんな顔をするだろうね。この呪いはね、、」
ライナはそれを聞き涙を流した。そのまま彼女は意識を失ってしまった。
「これが君にとって一番のダメージだろう?まぁ、死んだら死んだで嬉しいことに変わらないしね」
そう言い残すと、シュタイナーは静かに部屋を後にした。




