61話 集結と告白
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《コード殿。巫女様とつながりました。アベルが心を開かせたみたいですね》
『さすが我が主人ですね』
《そして、これはマズい。そいつについての情報が必要なようです。ティオくんも招集ですね》
『わかりました。ティオくんを呼びましょう』
そういうとコードはティオの部屋を訪ね、ティオを連れてきた。
『一体、何があったんです?』
ティオは眠そうに欠伸をした。ベッドに入るちょうどその瞬間にコードに呼び出されたのだった。
『詳しくは二人が戻ってきてからですね。あ、ヒースによるとアベル様はライナさんを襲ったりしてないそうなのでご安心を』
『な、何言ってるんですか。ってか、アベル、様?コード先生とアベルの関係って?』
ティオは眠気が吹っ飛んだようで、目を丸くした。
『ふふ、それは追々』
コードは涼しく笑った。
◇◆◇
ライナが身支度を整えてアベル達の部屋に向かうと、そこにはアベルとコードとヒースだけでなく、ティオもいた。
『何でお兄ちゃんまで?』
《僕がお呼びしました。多分、奴についてよく知ってるでしょう?》
『ライナ、一刻も争う事態だ。奴がどう動くかわからない。情報を共有しよう』
アベルのその言葉に、ライナはわかったと答えた。
『お兄ちゃんもよく聞いて。私達、3日前におばあちゃんの依頼で西の森に行ったの』
『西の森、だったんだな。そこでヒースに会ったのか』
『うん。そのときに、蛇に襲われた。2メートルを超えるような大蛇で、風魔法が使えた』
『どういうことだよ。蛇が、魔法を?』
ティオは眉をひそめた。ライナは小さく頷くと話を続けた。
『それでね、先週、村役場の人たちも一緒に調査をしてたらフードの男に襲われたの。無詠唱で魔法を使ってくるような。私達は平気だったけど、同行した二人が怪我をした』
『そんなこと、何で黙ってたんだよ!母さんたちだって心配するだろ!』
ティオはライナを睨みつけながら言った。アベルがすかさずフォローに入る。
『警備隊などが動いてるんだ。下手に俺たちが入ると奴の動きが読めなくなるから黙ってたんだ。すまない』
『奴って、誰なんだよ』
ティオの問いに、ライナは決心して言葉を紡いだ。
『それは多分、シュタイナーさん』
ライナの言葉にティオは驚きの表情を浮かべた。
『あの人が?そもそもそこが信じられない。あんないい人が、村人を襲った?仮にそうだったとして、何でライナ達が危険な目に合わされないといけないんだよ』
『それは、私の』
ライナは呼吸を整えた。
『私の生みの両親が、シュタイナーさんのお母さんを殺めてしまったから』
『なんだ、それ、、』
ティオは呆気にとられていた。
『私の両親の話だったの、校長先生が話してくれたこと。さっき倒れたとき生々しい夢を見たの。あの子どもたちのうち、イズールの子は女の子だった。二人は村で腫れ物のように扱われ、二人で村を出た。そしてしばらくして生まれたのが私だった』
『ただの、夢だろ?そんなわけ』
『でも、私の記憶するお母さんと同じだったの。そしてその夢の最後に、夜中に一人で僕のところにおいで。君次第では彼を見逃してもいい。って書いてあった』
ライナは続ける。
『あの人のお母さんは凄腕の魔法使いということは息子もその可能性が高い。ヒースのお母さんを肉屋に卸したのはシュタイナーさん、つまり、彼は立入禁止地区の西の森に出入りしてた。母親を殺した奴らの娘が近くでのうのうと生きていたら、復讐の対象にだってなり得る。その娘が仲良くしてる人がいたら、その命を奪おうとするかもしれない。森で命を狙われたのはアベルだったの』
ライナは今までで得た情報をまとめた。そこで止めに入ったのはコードだった。
『ライナ、ストップ。あまりにも仮定が多すぎる。まずは、ライナの両親が本当にその人たちなのかを確認しましょう。マチルダさんを呼んできましょう』
『でも。お母さんに迷惑は』
『もっと母さんを頼れよ』
それはティオの言葉だった。
『えっ』
『母さん、ライナのことを本当の娘だと思ってるよ。いつまでも他人行儀でいるなよ。俺が言うのも変だけどさ。俺、今呼んでくる』
そういうとティオはマチルダを呼びに行った。
《そのシュタイナーさんの特徴は?今日アベルが出会った中にいるかもしれません》
『そうだな。もしかしたら俺に接触してきているかもしれない。今日は結構な人たちと会話してるがだいたい覚えてる』
アベルの言葉に、ライナはシュタイナーの特徴を告げた。
『髪は栗色、暗い琥珀色の瞳、すこしひょろっとしてて、優しそうな感じ。村を出歩いてるときはだいたい、大きな荷車に加工した食肉を積んで運んでる。牧場の隣で加工したものを彼自らが運んで卸してるの』
『いた。大きな荷車を引いてる人。たしかに会話もした。ライナと俺がつながってることもわかってた。でも、外見が思い出せない』
『珍しいですね。物覚えはいいのに』
『そうなんだ。そいつだけよく思い出せない。ヒースは?』
《ちょうどウトウトしてしまっていて。すみません》
『ますます怪しいですね。何か怪しげな術にかかったりしていませんか?』
そういうとコードはアベルの頬をつまんだ。
『かかってない。痛いからやめろ!』
そこへマチルダがやってきた。
ミリーを寝かしつけたところだったらしい。
『みんな揃って。もう寝る時間よ?』
『お母さん。私の本当の両親について教えて』
そのライナの言葉にマチルダは一瞬動揺を見せた。
『知る必要はないわ』
マチルダは優しくも厳しい表情で返した。
『いいえ。あるの、今すぐに。ハンスとマリーヌはこの村の出身なの?』
『なんで、父親の名前まで知ってるの?貴女、どこで』
マチルダは顔を青くした。
『今日校長先生に聞いたの、村の昔の話。校長先生の奥さんを殺めてしまったのは、私の両親ではないの?』
『そこまで、知ってしまったのね。校長先生にも話しておくべきだったわ』
マチルダは諦めて認めた。
そのまま彼らの近くにあったイスに腰掛けた。そして隣に座るライナの髪を優しく撫でた。
『やっぱり』
『貴女が壊れてしまうのではないかって思って、ずっと言えなかったの。そして、彼らが孤立してしまったのは、私達にも責任がある』
『それはどういうこと?』
ティオが尋ねた。
『私とウルマーとルーは事件から数ヶ月後くらいに村に来たの。何があったのか直接は知らなかったけど、間接的には知ってた。ハンスとマリーヌは私の一つ上だったけど、彼女らに誰も声をかけられなかった。そんな空気に私達は飲まれてしまった』
マチルダは悔しそうに唇を噛みしめていた。
『あのとき、二人が孤立しないように私達が動けていれば、って後悔したこともあった。それはウルマーも同じだったわ。だから彼は仕事で向こうに行くたびに二人の動向を探ってた。そしてあなたが2歳のとき、彼はマリーヌを見つけたの。正確に言うとエミリアが教えてくれた』
『エミリアって、私の面倒を時々見に来てくれてた?』
まさかここで彼女の名前が出るとは思ってもいなかったライナは目を丸くした。
『そうよ。エミリアも村の出身であなたたち親子を見守っていた。ウルマーはマリーヌに直接は会わず、エミリアを通じて仕事を斡旋したりして影から支えたの。それでも、マリーヌの心はどうにもならなかった。そして事件は起こった。ウルマーはあなたを助けた後、マリーヌを説得したけれど、ダメだった』
『そう、だったの』
『最初、ウルマーはあなたを村に連れてくることに躊躇したらしいわ。でも、こんな小さな少女を置いてはいけないと連れてきた。当時王子だったアクセルにも少し介入してもらったそうよ。父さん母さんにも事情を説明して、イーリス家で迎え入れることにした。ちょうどその半年前にティオを引き取っていたし、きっとうまくやっていけるって思ったの。今じゃあの溺愛っぷりよ』
『そう、だったんだ。私、引き取られた当初の記憶が曖昧で』
『それは無理もないわ』
ここでティオは恐ろしいことに気が付き身を震わせた。
『母さん、今、さり気なくリズニアの国王様を呼び捨てにしなかったか?』
マチルダは貼り付けたような笑顔を浮かべた。
『え、そうだったかしら?忘れたわ、あんなやつ』
『あの人、マチルダさんに何をしたんだ。。』
アベルは額を押さえたのだった。
『話を戻しましょう。ライナの夢が事実だったとすると、一連の犯人はシュタイナーさんということになりますね。それとも、ギルさんとスタンさんの共謀で自作自演か』
《それはありません》
『そうですか』
『え、コードさん、誰と話してたの?』
マチルダがコードの独り言のような状態にツッコミをいれた。
『母さん、それは後で俺から説明する』
『わかったわ』
『であれば、やはり彼でしょうかね。しかも、ライナに一人で来るように伝えてきてるとなると非常に危ない』
『ねぇ、どういうことなの?』
『実はね』
ライナが母親に簡潔に説明した。
『シュタイナーが、そんなことを?考えられないわ。言葉は少ないけど心優しい人よ』
『俺もそう思う。何かの間違いだと思うんだけど』
ティオもまだ抵抗をしていた。
『とにかく、相手の挑発に乗っちゃだめよ。夜が明けたらウルマーや父さん、警備隊に相談しましょう』
マチルダがそういうとライナは抵抗を見せる。
『でも、アベルの身に何かあったら、私』
ライナはアベルを見た。
『俺は平気だから』
アベルはライナの頭をなでた。
『わかった』
『ライナを一人で寝かせるのは心配ね。私、一緒に寝るわ』
『お母さん、ありがとう』
ライナはマチルダに礼を言うと瞳を潤ませた。
そうして一同は明日に備え就寝することにした。
イーリス家の上空では1羽のカラスが怪しく目を赤く光らせて飛んでいた。




