60話 阻止
ライナはどうにか泣き止み、二人はベッドに腰掛けていた。
『で、なんでこんなことしたの?』
アベルはそういうとライナの髪をそっと耳にかけた。ライナはビクッとしたが理由を話そうとはしなかった。
『本気で信じそうだったんだ。黒い感情に押しつぶされそうだった』
『ごめんなさい』
ライナはしゅんとして小さく謝っただけだった。
『心配してるんだ。君にあんなことさせるくらいのことがあったんだろ?話してほしい』
アベルの真剣な眼差しに耐えられなくなったライナはポツリと話し始めた。
『私、やっぱり生まれてきちゃだめだったの』
『まだ言ってるのか。そんなことは』
『違うの。この前話したことは真実じゃなかった』
それを聞き、アベルの頭にゲルデの言葉が蘇る。
〈あの子は2つの事実のうち一つしか知らない〉
『まさか、もう一つを知ってしまった?』
アベルはゲルデの言葉を思い出しながら言った。
『アベル、何か知ってるの?どういうこと?』
『ゲルデ先生が言ってた。君は2つのうち一つしか知らないって。もう一つは自分たちが墓まで持っていくって』
『じゃあおばあちゃん達は知ってたというの?何で教えてくれなかったの』
『君の心が壊れてしまうだろうって。それを心配してたんだ。俺も内容は聞けなかった』
『そんな』
『君の両親、祖父母は知っている。だから君一人が背負うことじゃないんだ。話してほしい』
アベルがそう言うと、ライナは少しずつ話し始めた。
『私の本当の両親はこの村の出身で、校長先生の奥さんを殺した』
そう言うと、ライナはロドルフから聞いた内容、部屋で起こったことなどを説明した。そして、今までの状況から、これを仕掛けた人物の見当も伝えた。
アベルは腕を組んで顔をしかめていた。
『そいつが今までの犯人だったとして、たしかに辻褄は合う。でも、そのカラスも映像のことも気になるな。これは単なる魔法の領域を超える話だ。それにその映像の信憑性は?ただの夢だったとか』
『多分本当だと思う。夢に出てたお母さんは私が記憶してたのと一緒だった。ただの夢であの生々しさはないと思う』
『それを信じて自分で全部背負い込んで、突っ走る予定だったんだな?』
ライナは目をそらした。
『よかった』
そういうとアベルはライナを抱きしめた。
『抗ってよかった。絶対に良くない方にいくところだった』
『ちょっと、抗うって何のこと?』
『この前の話、してなかったよな。ライナが意識を取り戻したときの話』
『そうだったね。何があったの?』
アベルは一部始終を話した。
『そんなことって』
『信じられないかもしれないけど、そうだったんだ。あの声の人は君のことを心配してた』
『介入ってのが気になるところだけれど、そっか。だからあのあと様子がおかしかったのね』
『君がいなくなるって考えたら震えが止まらなくて。今もだ。君がいなくなって、何かあったりしたら俺はどうにかなってしまう』
『アベル』
そういうと次はライナがアベルを抱きしめた。
『こんなに震えて。ごめんなさい。私、いつもの癖で信頼できてなかった。今ね、すごく嬉しいの。こんな私を受け入れてくれてありがとう』
『当たり前だ。君が大切なんだ』
『でも、私。村にとって、あの人にとって存在しちゃいけないと思う。それに、殺人者の子どもなんて、どう考えてもあなたには釣り合わない。あの人があなたを狙ったのも私のせいだから、あなたに嫌われようとして、その』
そう言うとライナはそっとアベルから離れた。
するとアベルは彼女の両肩を押し、ベッドに押し倒した。
『ちょっと、離して』
ライナは顔を紅潮させながら言った。
『なぁ、どうしたらわかってもらえる?体に教え込めばいい?俺がどれだけ君を想ってるか』
そういうとアベルは右手でライナの頬をなでた。その言葉や行為にライナの頬はさらに熱を持った。
『君がどこの誰だろうと、そんなのは関係ない』
そういうとアベルはライナの唇を塞いだ。
長いキスの後、ゆっくりと唇を離す。
その瞳はターコイズブルーに強く輝いていた。ライナの瞳は青紫色に潤んでいる。
『でも』
『まだわからない?また塞ぐよ』
『そ、そんなのズルい』
『いくらでも言えばいい。あいつのところには行かせない。俺が話をつけてくる』
『危険だよ』
『そこに一人で行こうとしてたんだろ?自殺行為だ』
アベルはライナを睨んだ。ライナは目を伏せた。
《そうですよ、巫女様。アベルは貴女のことになると脳みそが沸騰してしまいますが、今回は正しいと思います》
『ヒース』
ヒースの声に、二人は上体を起こした。
『よかった。聞こえるようになって』
《みんなで対策を考えましょう。僕にも貴女を巻き込んでしまった責任があります。こっちの部屋で話し合いましょう。二人では危険です。色んな意味で》
『本当に一言多いよな。ライナは少し経ってから来て』
『何で?』
『その、そんな顔見せたくない、他の奴に』
『そんなにヒドイ顔してる?ごめん。』
『違うんだ。その表情は俺が独り占めしたい。あと、服も、普段のにして』
アベルは顔を真っ赤にして言った。
彼の意図を汲み取りライナも赤くなった。
『わかった』
その返事を聞くと、アベルはひと足早く自分の部屋に戻った。
こうして、ライナが一人で突っ走る未来はなくなったのであった。




