55話 最愛の人
5の月6日目、放課後。
ライナとケリーはともに校長室の前にいた。ティオはウェルダ語の教員から授業で使う辞書を人数分運ぶ仕事を任されてしまったのだった。
「本当に、ティオはお人好しだよな。教員どももそれに漬け込みやがって」
「まぁ、ティオだからね。そういえば、最近ティオの様子が少し変なんだけど、ケリー何か知ってる?」
「え、い、いや?何だろうな?」
ケリーは少したじろぎながらライナから視線をそらす。
「嘘が下手すぎ。ケンカでもしたの?」
「何でもないよ。さぁ、校長先生待たせてるし!」
ケリーのごまかしに疑問を持ちながらもライナはドアをノックした。
二人はロドルフに促され入室した。来客用のソファーに座るように促され、二人はおどおどとしながら座った。程よい柔らかさが下半身を支える。
「すまんね、予定が合わなくて。いやー、いつになっても、生徒が話しに来てくれるのは嬉しいものだね」
ロドルフは白いひげをなでながら言った。
「で、なんの話だい?」
「村の昔のことで知りたいことがあります。村ができた当初の話です」
ロドルフは少し表情をこわばらせた。
「なぜ知りたいんだい?」
「アベルと話してて、村はなぜ差別なく過ごせるのかって改めて考えるようになって。よく考えれば、そのきっかけになったことについては全然聞かされていません。単純に知りたいと思ったんです」
ライナの真剣な表情に、ロドルフは頷いた。
「わかった」
ロドルフは覚悟を決め、話し始めた。
「これは、お前たちの親の代までしか知らない話だ。ライナもケリーもあんまり口外しないでほしい」
「ティオには?」
「じゃあ、そこまでだ。あぁ、アベルくんも構わない。彼も無関係ではないからな」
「わかりました。約束は守ります」
二人は真剣な面持ちで答えた。
「本当は負傷者じゃないんだ。死人が出たんだ」
ロドルフは苦しそうに言った。
「えっ」
ライナとケリーは言葉を失った。それは全く予想もしていない言葉だった。
「そもそも、最初から人族と魔族は仲良くなれなかった。お互いに苦手意識と憎しみがあった。それにコンバーター、インバーターのことも絡んでくる。今の村の平和があるのは、彼女のおかげだと思っている」
ロドルフは少し懐かしそうに、そして寂しそうに語り始めた。
「俺とヘルムートもしょっちゅうぶつかってた。ゲルデは当時からあんな感じだったしな。それをいつも仲裁してくれたのがベティだった」
「ベティ、さん」
ケリーがつぶやいた。
「彼女は、私の妻だ」
ライナには、ロドルフのその声にたくさんの感情が含まれている気がした。
「えっ」
二人は再び言葉を失った。
「私にはもったいない妻だったんだ。彼女とはイズールで結婚し、俺のわがままに付き合わせてしまった。彼女は快く私についていてくれたんだ。あれはちょうど今頃の季節だった」
少しだけ冷たい風が部屋を吹き抜けたのをライナは肌で感じた。




