表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第1章 はじまり
58/200

49話 報告と心の準備

あたりは暗くなり始めていた。

二人は村長室に向かい、村長に証拠の物品を渡し、今日の森での出来事を説明した。

『なんということだ。スタンが裏切っていたなんて』

村長はショックを隠しきれていなかった。村人が犯罪を犯すようなことは稀だったので耐性があまりなかったとも言える。

『でも、村長。スタンさんはそのことを私達に打ち明けてくれたんです。どうか寛大な処置をお願いします』

ライナが頭を下げた。

『でも、君の身にも危険があったんだ』

アベルはライナのことを止めようとしたが、ライナは食い下がる。

『私が原因です。私の力に興味があったって』

『これは警備隊のほうとも相談する。今は使われていない、南の森の収容所を使わなくてはならないかもしれないな』

ヘルムートは声のトーンを下げて言った。

『そんな?!』

ライナは反対しようとしたが、ヘルムートがすかさず話し始める。

『ライナ。何か罪を犯したのなら、償わないとそれはその人のためにもならないんだ』

『それは』

『償うチャンスがなければ、それは重石となって人生にずっとついて回る。もちろん、償ったからといってチャラにはならない。それでも、前を向いて生きていくためには必要なんだ。その重石に潰されないためにもな』

村長は伏し目がちにそう言った。

『ライナ、村長は正しいと思う。それは俺にも言えることだ』

アベルもまた目を伏せて言った。

『それはどういう?』

『とにかくだ。スタンのことはこちらに任せてくれ。今日は診療所に泊まることになるだろうから、警備隊を派遣して監視する』

『はい』

アベルは返事をした。

『証拠品はこちらで預かる。スタン以外の魔法課の二人はグルではないと思うが、念の為に調べてからだな。解析には時間がかかると思ってほしい』

『わかりました』

『少しここで待っていてくれるか?急いで取り調べの準備をするように伝えてくる』

そう言うとヘルムートは村長室を後にした。


二人の間に沈黙が流れた。

『さっきの話、なんだけど、』

ライナがアベルに問う。

『なぜ俺たちがイズールを出たのか。いつか、言わないといけないって思ってた。でも、ライナに幻滅されたくなくて、ずっと黙ってたんだ。嫌われるのが、怖くて』

アベルが苦しそうにライナを見つめる。

『話してほしい。嫌いになんて、なれないよ。、、私も話すから』

『いいんだ、無理しなくて。俺はいつまでも待つ』

『ううん。覚悟はできた。隠したままお別れするのが辛いの。たとえアベルに嫌われてしまっても』

ライナは目を伏せた。

『嫌いになんてならない。あとで、ライナの部屋で話そうか。俺の部屋にはコードもいるし、、』

ライナはアベルの言葉にこくんと頷いた。



《夜に密会とは。気をつけてくださいね、巫女様》

テーブルに置かれたヒースがわざと明るく言った。



『何もないから!』

『このエロウサギ!』

《僕にはあなたの頭の中が見えるんですよ、隅々までね。巫女様、何かあればすぐにおっしゃってください。二部屋離れてるくらいならわかりますので。コード殿にすぐ伝えますから》

『心強いね、ありがとう!』

『ライナ?!そんなつもりはないんだけど、、』

『アベルさんには前科がありますから』

わざと冷たくライナが言った。

『ぐっ、どうやったら罪を償えるんだ?』

アベルはガクッと頭を下げた。



二匹と一匹はふふふと笑った。

アベルとライナはそれぞれ笑いながらも、夜に向けて心の準備を整えようとしていた。



◇◆◇


二人が帰宅後、アベルは服の汚れがひどかったので先にシャワーを浴びることになった。

夕食の手伝いをしている中、ティオの様子が気になったライナはマチルダの話が終わるとそっと彼に声をかけた。

「お兄ちゃん。なんか、昨日からうわの空じゃない?」

ティオは昨日の夕方帰宅してから様子がおかしかったのだ。ぼうっとしている時間が増えているように感じていた。

「そ、そうか?何にもないけど」

ティオは明らかに視線をそらした。

「まさか」

「な、なんだよ」

「ケリーとケンカでもした?」

「そ、そ、そんなわけないだろ?あいつは友達だ」

視線をそらしたままのティオの耳が赤くなったことに気づかなかったライナは、納得できなかったがそれ以上聞かなかった。



アベルが戻ってきたのとほぼ同時にコードも帰宅したので、珍しくみんなで夕食をとることになった。席が足りない分はリビングから運んだのだった。 



「ライナ」

夕食後、片付けの最中ライナはマチルダに呼び止められた。その金色の瞳には不安が色濃く現れている。

他の人々はリビングで寛いでいたり風呂にいたりとキッチンには二人しかいなかった。

「なにかマズイことに首をつっこんでるわよね」

「ごめんなさい。言えないの」

「わかってる。本当は全部話してほしいけれど、父さんが口止めしてるんでしょう?」

マチルダの父さん、つまりライナの祖父であるヘルムート村長が絡んでる案件なので致し方ないとは彼女もわかっていた。

「うん」

「ったく、あの人も頑固よね。私が他に言うわけないのに。それよりも」

「それよりも?」

「大切な娘が怪我でもしたらどうするのかしら。もしライナになにかあったら、私村役場に殴り込みにいくわ」

「お母さん!」

「ティオもミリーも心配してるの。ライナ。無理はダメよ」

「わかった」

ライナはマチルダの言葉に嬉しさを感じていた。



それと同時に、そんなに思ってもらう資格などないのに、と考えてしまう自分もいた。




◇◆◇

アベルとコードの部屋。

ヒースも交え一人と一匹で今日の森での出来事をコードに伝える。

『だから服があんなことになってたんですね。一昨日といい、何が起こってるんでしょうかね、この平和な村で』

『わからないんだ。それに、スタンの話だとそいつの狙いは俺だったと。もしかすると俺達の追手が潜んでいるのかもしれない』

『それは困りましたね。ナディア様に報告しましょう』

『ちょっと待ってくれ。まだ何もわかっていないんだ。母さんに余計な心配をかけたくない』

『まぁ、追手がこの村までたどり着いたとは考えにくい。住民が何らかの目的でルロの実を栽培し、それを蛇に与えていたというほうが有力かもしれないですが、、それでは貴方を狙う理由がわかりません』

『そうなんだ。そこが引っかかってて。スタンがまだ嘘をついているのかもしれないし』

《それはないですね。巫女様に治されたことであの人の考えが読めるようになりましたが、彼は純粋に巫女様の力に興味があっただけのようで。どこかの誰かと違って巫女様への下心などもありませんでした》


『本当に余計なことを言うウサギだな。それならお前はスタンの犯人のこともわかったんだろ?早く教えろ』


《いえ、それが。そこの部分だけよくわからないのです。何かによって妨害されているかのように》

『やつの仕業か?』

《わかりません。でも相当な魔法の使い手ならそういうこともできるのでは?》

『聞いたこともないですね。まぁ、そもそもしゃべるウサギですら聞いたことないですからね』

《様々な経験豊富な裏番長でもわからないとは》

『明日のお別れ会のメインはこのウサギにしてもらいましょうか』

コードがニッコリとヒースに語りかけた。

《もう二度と逆らいません。大変申し訳ありませんでした》

『わかればいいんですよ』

『ヒース、相手を見極めることも大切だ』

《やはりアベルしかいませんね、思う存分からかえるのは》

『コードは俺がこんなに言われててもそこはスルーするんだな?』

『まぁ、事実ですし。貴方が色んな顔をされるのを見るのが俺の楽しみですから』

『悪趣味だ!』

『それはともかく、この問題を放置して村を出ていくのは心残りです。できれば我々がいる間に解決させたいですね、時間はありませんが。アベル様の身に何かあると困りますし』

『今度、挨拶も兼ねて村長のところに行ってくる。そこでまた何かわかるかもしれないし』

『わかりました。村の中とはいえ、十分に気をつけてくださいね。どこから狙われるかわかりませんから。ヒースも連れて行ったほうがいいかもしれませんね』

『わかった。ヒースはつれていきたくないが、、』

《僕も本当は嫌ですよ。でも、あなたに何かあると巫女様が悲しみますからね》

『そう言われると少し照れるな』

《ったく巫女様もこんな男のどこがいいのやら。人間は理解できません。ほら、ニヤけないでください。今から会いに行くのでしょう?》

『そうだ。イズールで追放された経緯を話してくる。彼女に内緒にしておくのも嫌だし』

『わかりました。貴方の心はもう大丈夫なのですか?』

『あぁ。すべて彼女のおかげだ。それに、今後の身の振り方が決まっても、一度あの人に謝りに行ってくる』

『俺はその必要はないと思いますけどね』

『それでも、けじめをつけないといけない』

『成長しましたね、アベル様』

従者は微笑みながら主人を送り出したのであった。




◇◆◇


その男は、月明かりしかない自室で赤い果実をナイフでカットしていた。その右手首には包帯が巻かれていた。


『あと少し。この時をどんなに待ち望んだか』

男は冷たい笑みを浮かべて、先程の実を別室へ運んだ。



それを美味しそうに食べるその顔を、男は愛おしそうになでた。

『さぁ、いっぱいお食べ。お前が新しい歴史を作るんだ』



その男を映した瞳は赤く不気味に輝いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ