48−2話 顔の見えない男
《巫女様、まだ、そいつはこの森にいます。奥から禍々しさを感じる》
『えっ?!』
ヒースのその言葉に思わずライナが声を上げ、アベルと顔を見合わせる。
『俺がいく』
『だめ。さっきの話では、狙われてたのはアベルだよ。それは相手の思う壺だよ』
『でも、ギルさんも負傷してる。戦えるのは俺しかいない』
二人がコソコソと会話をしていたところにギルが口を挟む。
『何勝手に二人で話すすめてるすか?よくわかんないけど、俺はまだまだ戦えるっすよ。なめんなよ、少年少女』
ギルはニッと口角を上げた。
『ギルさん。あの、少し信じがたいと思うんですが、このウサギが、まだ奥にやつがいるって言ってるんです』
アベルが真面目な顔で言った。
『すごいっすね、可愛いウサギちゃん』
ギルは目を丸くし、ヒースの目線に合わせて言った。
『信じてくれるの?』
ライナもまた目を丸くした。
『普通じゃない蛇がたくさんいたんすよ?しゃべるウサギがいてもおかしくないじゃないっすか。そしたら、アベルくん。スタンさんを背負ってくれ。ライナは俺の後ろにいて。固まって移動しよう。また蛇がくるかもしれないっすから』
『わかりました』
ギルを先頭に、ライナはヒースのケージを持ち、アベルはスタンを背負い移動する。
さっきのギルの戦闘の場所はかなりの植物が燃えた跡があったが消火されていた。ギルが水魔法で消火してからこっちに来たとのことだった。
『すごい。どんなレベルの戦いだったんですか』
『やつは手強い。声が聞ければ誰かわかるかと思ったけど、無詠唱っすからね。中肉中背の男ってことしかわからなかったっす』
『あ、あそこ!』
岩場の奥からさらに奥に進むと煙が見えた。ここからだと岩場の影になっているので全容はわからない。
『やつかもしれないすね。君たちはスタンとここで待ってて』
『俺も行きます』
『だめだ。誰かライナを守るんすか?』
『う、、すみません。何かあればすぐ呼んでください』
ギルが煙の方へ進んでいった。
『俺にもっと力があれば』
『ごめんね、私がいるから、、』
二人はほぼ同時に言った。お互いに一瞬顔を見合わせる。
"ちょうどあの煙の出てるあたりにルロの木があったんです。もしかしたら、証拠隠滅を図ったのかもしれないですね"
ヒースがそう伝えた。
『証拠隠滅?』
ライナがヒースに問う。
《えぇ。本来、野生で生えてるものではないのでしょう?ということは、密かに栽培していたとか。まぁ、本当に自然に生えてたのかもですがね》
『どちらにせよ。そのルロの実を使って蛇に何かをしたんだろうな。でも、それなら普通に流通してるルロの実じゃだめなのか?』
アベルは腕を組んで考えた。
『何かが違うのかな。あとさ、何でアベルを狙ったのかな?もしかして、例のアベルたちの追手?』
ライナは眉をしかめた。
『いや、それはないと思う。あいつらには俺が重傷を負わせた。あの山でのことだから命は、、』
アベルは少し顔色を曇らせた。
『更に追手がいたとか?』
『可能性はなくはない。それならギルさんがわからないってのも納得できるしな』
『あぁ、でも、もしルロの実を栽培していたのだとするとやっぱり村人よね。それとも、アベルの追手が偶然西の森でルロの実を見つけた?』
《ここには蛇はこんなにいなかったです。あの大蛇も数日前からですし。どこか違う場所にいたというほうが辻褄は合います》
『うーん』
二人と一匹は首をひねった。
『こうなったら、スタンさんが目を覚ましてから聞くしかないね』
『そうだな。ギルさん、大丈夫だろうか?』
二人が奥を見つめると、煙の代わりに土埃のようなものが上がっていた。
『いざとなれば俺が行く。万が一蛇が来たり、やつが現れたらその時は全力で逃げてほしい』
『アベルのこと、置いていけないよ』
『俺はそんなにやわじゃないから。自分のことを第一に考えて』
アベルが優しくライナの頭をなでた。
『私、』
ライナが何かを言いかけた時、ギルがこっちに向かって歩いてきた。
彼は左下腕部にさらに酷い火傷を負っていた。
『やつは逃げたっす。火も広がらないように食い止めたけど、木が一本丸焼けだったっす』
『ルロの木じゃなかったですか?』
『言われてみればそうすね。でも、普通は野生で生えてないっすよね』
『鎮火したなら、みんなで行ってみませんか?ヒース、やつはまだいそうか?』
《いや、もう気配を感じないですね》
『ギルさん、その腕は』
『やつにやられた。こっちもやつの右手首に電撃を食らわしたから怪我をしたと思うっすけどね』
『そのやけどは後遺症が残る可能性があります。治してもいいですか?』
ライナが提案するが、ギルは首をぶんぶんと横に振る。
『いやいや!だめだ!無理はさせられない。これくらいどうってことは』
それを遮るようにライナは言った。
『誰かを助ける前、左手にピリピリと痛みが走るんです。それが今来てます。アベルのときもそうでした。だからきっと、これは治さないといけないと思うんです』
『そうだったのか』
ライナから聞いた初めての事実にアベルは驚いた。
『わかったっす。でも、本当に無理しちゃだめだよ。跡が残っても全然気にしないから、本当に必要最低限すよ!』
ギルは申し訳なさそうに念を押す。
『はい。アベル、よろしくね』
ライナはカバンから取り出した小箱をアベルに預けた。
『無茶、しないでくれ。さっきみたいには絶対にならないで』
アベルの瞳が心配そうにライナを見つめた。
ライナが左手の手袋をとり、ギルの下腕部にそっと手を当てた。
"表皮膚、真皮の修復"
ライナがそうイメージすると、白い仄かな光が患部へ降り注ぐ。
しばらくすると光は収まった。内側の深いやけどのみを治療したからか、ライナはふらつく程度で済んだ。念の為砂糖は摂取しておく。
『よかった』
アベルはそう言うと、正面からそっとライナを抱きしめた。
『ちょっと、アベル?!ギルさんも居るんだよ!』
ライナはどぎまぎとした。アベルは彼女に耳打ちする。
『居なければいいの?』
その瞬間ライナは顔を真っ赤にしてアベルを睨みつけた。
『この、ヘンタイ!』
『ごめん!調子にのった!』
アベルは慌ててライナを離す。その顔はいつものように赤くなっていた。
『こほん。アベルくん。こういうのは同意を得ないといけないっすよ』
顔を少し赤らめたギルにたしなめられた。
《本当ですよね、ギル殿。もっと言ってやってください》
『うわ!!な、なんだ?!』
ギルはいきなり脳内で聞こえた声に腰を抜かす。
『ヒースがしゃべってるんです』
アベルがギルに手を貸し、ギルは立ち上がった。
『本当にしゃべってたんすね!』
ギルはヒースを見て驚く。
《それにしても、、そうですか。ギル殿、あなたはそっちよりの人でしたか。そりゃソフィーさんやケリーさんのほうが相性がいいですよね、他の女性より》
『すみません、ヒースは心の中も読めます』
ライナが申し訳なさそうに追加する。
その瞬間、ギルは青ざめていく。
『うわっ!やめて!見ないでー!』
ギルが顔を覆った。
『非常に性悪です。気をつけてください』
アベルが無表情で言った。
《金髪オオカミは黙っててください。巫女様も巫女様ですよ。オオカミにちょっと心開いちゃって》
その時ライナは無表情にヒースのケージを揺さぶった。
《いたたたた!!!か弱いのでやめてください》
『そうなのか?!』
アベルは顔を真っ赤にしてライナを見つめていた。
『ち、違う!ないないない!』
ライナもまた顔を赤くして否定した。
◇◆◇
三人と一匹は焼け焦げた木の元へ来た。ライナはケージを持ち、アベルはスタンを軽々と背負っている。
『うわ、炭ですね。ほぼ』
ライナが木を見上げていった。3メートルほどのその木は今にも崩れそうになっている。
『本当にきれいにやられたっすね。あ、でも。』
ギルは少し遠くに一部が焼け残ったルロの実を発見した。
『これを持ち帰って分析してもらいましょう。まぁ、スタンさん以外でってことになると時間がかかりそうっすけどね』
ギルは少し寂しそうに瞳を伏せた。
『ギルさんはスタンさんと面識があったんですか?』
『そAこそこ仲が良かったんすよ。彼はシェルドント出身、俺はウィルダだから村の少数派どうし交流があって。あ、俺は裏切り者じゃないすよ!』
『わかってます。裏切ってたらヒースが教えてくれるはずです』
『君たちはよっぽどこのウサギちゃんを信用してるっすね?』
ギルが目を丸くしてヒースを見た。
《可愛いですから、僕》
ヒースは目をパチパチとさせて言った。
『役に立たなくなったら鍋にしようと思ってて』
アベルがさらっと言ってのけた。
《そういうこと言うから巫女様の心をゲットできないんですよ、アベルは》
『あーもう、そういうことは言うんじゃない!性悪ウサギ!』
《事実じゃないですか。金髪オオカミ》
『こら。ケンカしないの!』
ライナが間に入った。
ギルがプッと吹き出す。
『仲、いいんすね』
『《良くないですから!》』
一人と一匹の発言が完全に一致したのだった。
その後、ライナが地面を探していると、一本の短めの髪の毛がキラキラと光っていた。それは黒いものでもなく、金よりは少し濃い色であった。
『髪の毛、ですかね。ちょっと茶色いような?』
『あいつかもしれないっすね。持ち帰りましょう!』
こうして西の森の調査は終わった。
ギルはスタンを背負って診療所へいき、自分も診てもらうことにした。アベルとライナは物品を持って村役場へと向かった。




