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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第1章 はじまり
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小話6 甘やかしたい

4の月25日目の放課後。

この日ティオはケリーの部屋を訪れていた。ケリーは自身のベッドに腰掛け、ティオは彼女の椅子を借りて座っていた。ティオはここ最近、少し元気がない様子であった。

「さぁ、ティオ。あたしに話してみなって。楽になるぞ?」

「絶対にライナとか他のやつに言うなよ」

ティオはそういうと、ポツリポツリとこの前あったことをケリーに教えた。ケリーは話を聞き進める程に表情が険しくなり、しまいには腕を組み始めた。

「なぁ、ティオ」

一通り聞いたところでケリーがティオに声をかける。

「ティオはこれでいいわけ?すっげぇ都合がいい男に成り下がってる!」

ケリーの怒りはここにいないアベルに向いていた。

「ライナが幸せになれるならそれでいい」

ティオは伏し目がちに言った。

「じゃあ、ティオの気持ちは?」

「俺のことはどうでもいいんだよ」

「よくない!あたしが良くない!」

ケリーがベッドから立ち上がった。

「常に言ってるが、お前は優しい。優しすぎる。そして自分に厳しすぎる」

ケリーがティオに人差し指を向けた。

「俺はそんなことは」

ケリーの迫力に押されながらもティオが否定した。



「だからさ、あたしがティオを甘やかしたい」

ケリーは爽やかに笑った。



「お前は優しいからな。無理にそんなこと言わないでくれ」

ティオは顔を伏せた。



「言ってもわからないか。それなら」

ケリーが立ったままティオを前からそっと抱きしめる。ティオの頭がすっぽりとケリーの腕の中に収まる。

「や、やめろよ!どうしたんだよ!俺はライナじゃないぞ!」

ティオは慌ててケリーから離れようとするが、ケリーの力にはそう簡単に敵わない。

「嫌?」

「そうじゃなくて、」

「嫌じゃないならいいでしょ?」

「俺は男だ。そういうことされたら、困る」

「あたしはずっと、ティオのこと見てたよ。もちろんライナもね。二人がくっついて幸せになるならそれでもいいかなって思ってる自分と、くっつかなければいいのにっていう自分がいるの」

ティオはなんと言っていいかわからずに黙って聞いていた。

「その二人は、いつもあたしの中で喧嘩してるんだ。困っちゃうよね」

「ケリー、お前、、」

ティオは自分に起こっている状況が整理できなかった。ずっとずっと友達だと思っていた彼女が自分を抱きしめていることに頭がついていかない。

ケリーはポツリポツリと話し続ける。

「数カ月前さ、ライナがアンナのこと治してくれたでしょ?」

「あぁ」

ティオはオーバーヒートしそうな頭で必死に思い出した。

「あの時さ、アンナの部屋のドア少し開いてて、見ちゃったんだ。ティオがライナを抱きしめてるの。ライナが力を使うとああなるのは知ってたけど、すごく心が締め付けられた」

ケリーの心臓の鼓動が早くなる。それはティオにも十分に伝わっていた。

「ケリー」

「ティオにあんなに優しくされるライナがすごく羨ましかった。いや、今でも羨ましい。ズルいって思っちゃう。でも、ライナも大好きなんだ。だからあたしは自分の気持ちに蓋をすることにしたの」

ケリーはティオの頭にもたれた。こげ茶色の髪がすこしくすぐったく感じた。ティオの髪からはほんのりとラベンダーの香りがした。

「そしたらさ、アイツが現れた。ライナのことも、ティオのこともあたしから奪ってしまうように感じたんだ。すごく、怖かった」

「そんなこと、ないのに。お前はお前だし、アベルはアベルだ」

「わかってる。それでも、怖かった。お前いらないって言われるんじゃないかって。そんなことないって信じてるけど、心のどこかで恐れてた」

「アイツと戦ってさ、わかったよ。アイツは本気でライナが好きなんだって。そしたらさ、あたしの中の一人が呟くんだよ。ティオをライナから奪うチャンスだって」

「そんなズルい自分が嫌で、でも、耳を傾けちゃった。本当にイヤなやつだ、あたし」

ケリーが泣きそうな声を出した。それに気づいたティオはそっとケリーの背中に手を回した。

「そんなことない。俺がお前と同じ立場なら、多分そうすると思う」

ティオがそう答えると、ケリーはティオを解放し、両手でティオの顔をそっと自分の方に向かせた。

「ティオは本当に優しいね。ライナも好き。でも、それ以上に甘やかしたいのは、大好きなのは、ティオなんだよ」

ケリーは泣きながら笑顔を作った。

「そんなこと、考えたこともなかったから、驚いてて」

二人の間にしばしの沈黙が流れる。


「そりゃそうだよね。男っぽいしさ、ガサツだし。でも、」

ケリーが立膝になり、ティオを上目遣いで見つめた。

「ティオが望むなら、もっと女の子っぽくなりたいなって思う」

ケリーが頬を赤らめ目を伏せた。その長いまつ毛に、ティオの心臓がドクンと脈を打った。

「そんなこと言うなよ。俺に都合のいいこと言っちゃだめだ」

ティオは顔を赤くして言った。

「何言ってるの?傷心のティオに漬け込んでるのはあたしのほうだからね」

「ここでケリーを選んだら、俺、多分自分が許せなくなる」

ティオはケリーから顔をそむけた。耳がすこし赤くなっている。

「ティオはそういうやつだよね。だからこそ、好きなの。今すぐじゃなくていいから、いつまでも待つから、あたしのこと見てほしい」

「今すぐは答えられない」

「いい。それまではさ、今まで通り接してよ。なんて、都合良すぎるか」

そう言われ、ティオはケリーを見つめる。

「そんなことない。それは、俺も望んでることだから。ズルくてごめん」

「それ、あたしのセリフだよ。取らないでよ!」

「本当に、同情ならいらないからな。お前、優しいから」

「バカなの?押し倒すよ?」

ケリーが真面目な顔で言った。

「やめろ、お前がいうと洒落にならない!」

ティオは少し青くなった。

「ふふ。可愛い」

対照的にケリーはニコニコとしている。その様子にティオは少しむくれた。

「何か、すげぇ悔しい。お前より強くなりたい」

「いいって。あたしが守ってやるよ」

「そういうとこだよ!無駄にイケメン過ぎるんだよ!」

「あはは。羨ましい?」

「それはない」


ははは、と二人は笑い合った。



この二人の運命は少しずつ変わり始めたのであった。




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