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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第1章 はじまり
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43話 もう一人の幼馴染(アベル目線)

『ライナから離れろ』



夕闇に響いた声の主は俺たちが帰る方向の先にいた。学校の灰色の実習着を身にまとい、褐色の肌に金と黒の混じったの短髪で灰色の瞳をもったそいつは、どんどんと俺たちに近づいてくる。


『マチルダさんが心配して外に出てた。帰るぞ』

そいつはさっとライナの右手を取り、スタスタと歩き出す。

まるで俺が見えていないかのように。


『ちょっと、やめて』

ライナが静止を求めるが、聞き入れようとせずそのまま歩こうとする。

俺はその手を振り払った。

『やめろ、ライナが嫌がってる。お前は誰だ?』


『あぁ?よそ者がしゃしゃるんじゃねぇよ。ライナに馴れ馴れしくするな』

『何だと?!』

俺とそいつが睨み合う。背丈は俺と同じくらいで互いに視線をそらすことはなかった。


『ちょっと、ケリー?!どうしちゃったの?!アベルもやめて』

ライナが二人を止めに入る。その名前に聞き覚えがあった。


『お前がケリーか。ライナとティオの幼馴染の』

『そうだ。ライナは俺と帰るんだ。邪魔者はどけよ』

ケリーが俺の右肩を押す。

『いや、ライナは俺が責任を持って連れて帰る。というか俺も一緒に住まわせてもらってるからな』

俺も引かない。なんでこいつに邪魔されないといけないんだ。

『んなことは知ってるよ。ライナからもティオからも嫌ってほど聞いてるからな。だからムカつくんだよ』

『ねぇ、ケリー。そんな乱暴なこと言わないで。ケリーらしくないよ』

『ライナはどっちが大切なわけ?こんな出会って間もないやつの味方するの?ずっとずっと一緒に居たのにさ。』

ケリーが少し寂しそうにライナに尋ねる。

『両方大切な友達だよ』

ライナは苦しそうに答えた。

『君は優しいからこういうやつに漬け込まれるんだ。さっきだってこいつは君が嫌がってたのにグイグイ来てたじゃないか』

『お前、見てたのか?!』

俺は少し気まずさを覚えながらも問う。

『ったく道の真ん中であんなことしてんじゃねぇよ。本当にムカつく。ちょっとツラ貸せよ。どっちがライナにふさわしいか決めよう』

ケリーは俺を睨むと、顎で左の空き地をさす。

『だめだよ!帰らなくちゃ!ってかケリーもそのために来てくれたんでしょ?』

『気が変わった。ねぇ、ライナ。俺が勝つから見ててよ』

そういうとケリーはあろうことかライナに抱きついた。

『変だよ。ねぇ、いつものケリーに戻って?』

ライナも対して嫌がる様子がなくそれを受け入れている。俺の中を黒い感情(なにか)が埋め尽くしていく。


『ライナ。なんでそいつは抱きしめても嫌がらないんだよ』


俺は部屋でのライナの様子との違いに、彼女に苛立ちをぶつけてしまった。

『なんでって、友達だからだよ』

ライナは平然と答える。その様子にさらに苛立ちが募る。ケリーがライナから離れ、次はライナの髪をなで始めた。

『ライナに触れるな。ライナ、こいつはそう思ってないじゃないか!それなのに!』

『お前、案外女々しいのな。笑える』

ふふ、とケリーが涼しい顔で笑う。

『なんだと?』

『いいから早く行こうぜ。お前魔法使えないんだろ?手加減してこっちも無しでやってやるよ』

『いらない』

『あぁ?』

『手加減なんていらない。全力でやれよ』

俺にだってプライドがある。あのイズールでたくさん経験も積んでいる。何よりもライナ前でこいつに負けるわけにはいかない。

『いいのか?そんなこと言っちゃって』

『二人ともいい加減にして?!帰るよ!』

怒ってるライナも可愛いな、なんて思ったけれど今は目の前のコイツをやっつけなければ。


『ライナ、ちょっと待ってて。すぐやっつけるから』

『あ、待って、アベル。ケリーは』

俺はライナの話を聞かずケリーについていく。



その空き地は家が二軒分立ちそうな長方形をしており、土がむき出しになっていた。



『イズール式でいいぞ。お前に合わせてやるよ。10分一本勝負、相手を戦闘不能にするか相手の背中を地面につけたら勝ち。ライナがいる手前、命に関わるようなことはしない。それでいいな?』

ケリーの言葉に頷いた。

『わかった。合図はお前が出せよ』

『だめだよ。いい加減にして!』

ライナは俺たちを止めようとしたが、ここは譲れない。

『ライナ、大丈夫!10分もかからず倒すから』

『ケリー、だめだよ。アベルも今すぐやめて』

『ライナは黙ってて。これは真剣な勝負だ』



俺とケリーは十分な間合いをとる。

ライナは抵抗するのをやめたようで、静かに離れた場所に移動した。



ケリーは真っ直ぐに俺を睨みつけてきた。


一言で表せば、ケリーは中性的な美男子だった。

体の線はやや細いが、まくりあげられた袖や裾から覗く四肢は鍛えられているのがよくわかる。



あいつはどんな魔法を使ってくるのだろうか?俺は色々と考えながらも精神を集中させた。


『いくぞ』

ケリーがそう言うと、真っ直ぐにゆっくりと俺の方に近づいてくる。

俺も間合いを詰めながら前進する。相手がどんな技を使ってくるかわからない。ましてや魔法だった場合どの種類なのかによっても対策が変わる。どれでも大丈夫な距離まで移動した。

『お前は動けないよな。俺がどれで来るかわからないもんな』

『どれでも構わない。早くやれよ。』

『余裕ぶりやがってさ。後悔させてやる』

そういうとケリーはすばやくしゃがみ、左手を地面につけた。

『フェルス』

ケリーがそう唱えると、そこから地面が盛り上がり、柱を立てながら素早い動きで俺の方に進んでくる。巻き込まれると足を取られるだけでなく足を負傷する威力のものである。

地属性の攻撃は基本的に真っ直ぐにしか進まないので対策は容易である。が、ケリーが複数の属性の魔法を使える場合もあるのであまり大きくは動けない。

アベルは攻撃を左側に避け、そのまま左からすばやく間合いをつめようとした。

するとケリーは左人差し指を俺の方に向けた。

『ヴァッサー』

それは小さな水球を銃のように打つ魔法だった。ケリーは容赦なく何発も打ってくる。

当たっても大きな怪我をするような威力ではないが、ティオの服を破いたりはできないので当たらないように避けていく。

『なかなか動けるじゃん。これならどう?』

ケリーが正面からすばやく詰め寄る。その動きはとても身軽であった。

ケリーは何度かパンチを繰り出した後、俺の右脇腹を足で狙ってきた。俺は最後の攻撃を受けつつ、その足を両手で取り、相手の力を使って投げ返す。

思っていたよりもケリーの一撃は威力がなく投げた感じも軽さがあったためか、幸いにも傷は開かなかったようだ。

ケリーはバランスを崩すこともなくさっと地面に降りる。

『結構やれそうだね』

ケリーはまだ余裕そうだった。

『舐めるなよ。お前の攻撃はそんなに重くないな。これならいけそうだ』

俺がそう挑発すると、幸運なことにケリーが顔色を変えた。

『、、うるさい』

ケリーは睨みそういうと俺から距離をとり、左手を空に向け呪文を唱える。

『ネーベル』

あたりには濃い霧が立ち込め、視界が奪われた。


目を閉じ、耳を頼りにケリーの居場所を探る。

右後ろに気配を感じた瞬間に右足首に足払いをかけられた。


俺はとっさに体をひねり、ケリーの襟ぐりを左手で掴みケリーを押し倒した。 



なぜか俺の顔のあたりに柔らかい感触があった。



ライナの声が近づいてきた。

『二人とも、大丈夫?あ、、』

ライナの声が途切れる。

俺は顔を上げ上体を起こすと、胸元が少しはだけたケリーが俺を睨みつけていた。

『くそっ。早くどけよ、いつまで押し倒してるつもり?』

『ちょっと待て!ケリー、お前、』

『だからさっき言おうとしたのよ、ケリーは女だって!!もっと早く気づいて言えばよかった!!』

ライナが腕を組んで俺を見下ろしている。

俺は急いで立ち上がる。ケリーに手を差し伸べると、相変わらず悔しそうな顔をしながら手をとり、すっと身軽に立ち上がった。

『話を聞きなさいよね。ケリーもケリーだよ!俺なんて普段言わないでしょ?!』

『いや、ほら、本気でコイツを潰したかったし。男だと思わせといたほうが手加減されずに済むかなーと』

ケリーはライナから視線をそらす。

『ケリー、アベルは怪我人なんだよ。傷が開いたらどうするの?』

『だって、あたしのライナとティオがこいつに取られたの悔しかったんだもん。二人とも、最近アベルがどーのこーの、コードがどーのこーのって。あたしのわかんない話ばっかりさ。置いてきぼりにされてるのが悲しくて』

ケリーはシュンとして目を伏せた。灰色の瞳から大粒の涙がポタポタと溢れる。


こうやって見ると、不思議と男には見えなかった。


なんで俺は男だと勘違いしていたんだろうか。



『ごめん、ケリー』

ライナが謝ると、ケリーは頬を膨らませた。

『ほんとさ、ライナなんて特にひどいもんだよ。アベルとケンカした時なんて昼食全然食べれてなかったしさ。仲直りしたかと思ったら毎日ニコニコしてるし、最近は放課後すぐいなくなっちゃうし』

ケリーは涙を溢れさせながらライナに言った。

『本当にごめん!そしてすごく恥ずかしいからここで暴露しないで!』

ライナが顔を真っ赤にして、手で顔を覆った。

『あと3ヶ月で校舎変わっちゃうからもっと一緒に遊びたかったのに』

ケリーは悲しそうに言った。俺は二人の会話をただ聞いてることしかできなかった。

『そのことなんだけどね。実は、学年末の飛び級試験、受けるつもりだったの。受かってから二人には伝えるつもりだったんだけどね。ほら、先に言っておいて落ちたら恥ずかしいじゃない?』

ライナは照れながらケリーに伝える。

『そうだったの?!嬉しい。ライナなら受かると思う!』

ケリーはライナに抱きつく。


もう嫉妬心は沸かなかった。

いや、だいぶ羨ましいとは思ったけれども。

『ありがとう。あとね、アベルはあと一週間くらいでで村を出ちゃうの。だから、ちょっと優先しちゃってて』

『あぁ、だから最近ちょっとため息が多かったのか。そんなんじゃ飛び級試験落ちちゃう!アベル、あんたどうにかしなさい!』

いきなり話を振られて俺は驚いた。

『そんなこと言われても』

『ケリー、やめて。さり気なく暴露しないでってば』

あぁ、なんて可愛いんだろう。俺は多分ニヤけてしまっていたと思う。

『ライナ、そんなに俺のことを考えててくれたのか』

思わずそう聞いてしまった。

『うるさい!二人ともきらい!!』

ライナはそっぽを向いてしまった。

『『そんな?!』』

俺とケリーの言葉が完全に一致した。





空き地にマチルダさんが来て、俺たち三人が絞られたのはそれからすぐのことだった。







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