42話 贈り物
村役場からの帰り、暗くなった道を二人で歩いていた。薄い月明かりのおかげで道は歩ける程度ではあった。
『また遅くなっちゃったね』
『あぁ。あのさ、』
そういうとアベルが立ち止まる。
『これ、受け取ってほしいんだ』
そういうとアベルがカバンからラベンダー色の包装紙に包まれた長方形の小箱をとりだす。
『えっ、いつの間に?』
『ライナが本屋に行ってる間に』
『そ、そうだったんだ。ありがとう!何だろう?』
ライナがゆっくりと包装紙をとると、銀色の金属製の箱が出てきた。それをゆっくりと開けると、光沢が美しいリボンが2本顔を出す。青紫色とターコイズブルーが対比的な美しさを醸し出していた。
『キレイ。髪結い用だよね?』
『あぁ。その、今までのお礼に。たまにでいいから俺のこと思い出してもらえるといいなって。どれくらいで会いに来れるかわからないから』
『ありがとう。すごく嬉しい。毎日とはいかないかもだけど、身につけたい。あ、今つけてみようかな』
ライナは心底嬉しそうに目を輝かせた。
『いいのか?』
『すごく気に入ったの』
ライナはなれた手付きで髪を三つ編みにし、2本のリボンを重ねてつけた。
『どうかな?』
『すごく似合う。よかった、どっちも似合うな。薄紫よりずっといい』
アベルは満足そうに微笑みながら言った。
『薄紫と迷ってたの?』
ライナがさり気なくそう尋ねると、アベルは少し言いにくそうにしている。
『いや、迷ってはなかったんだけど、ベスさんから色々と聞いて。ライナが嫌がったらどうしようかと思ってて。その様子だと、気づいてないみたいだからいいかなって』
『ん?何のこと?』
ライナはなんのことかわからずに聞き返した。
『ベスさんが、村の古い習慣で"異性に相手の瞳の色の物をプレゼントするのは付き合ってくださいの意味になる"って』
アベルは顔を赤らめた。一方ライナはどんどん青ざめていく。
『、、、忘れてた』
『だよな。気づいてたら受け取るの拒否しそうだし』
アベルは諦めたように笑った。
『あ、、、あぁ、どうしよう!!』
ライナが慌てだす。
『いきなりどうしたんだ?』
『ちがうの、本当に忘れてたの』
『わかってる。古い習慣なんだろ?俺はライナが気に入ってくれたならそれでいいんだ。贈り物ってそういうものだと思うし』
『いや、それもそうなんだけど。あのね、本当に忘れてたんだからね?』
そういうとライナはカバンから、縦が手のひらほどの大きさの細長く白い箱を取り出す。紺色のリボンで上品に結ばれている。
『これは?』
『あと少しでお別れだし、これからの勉強にも役立ててほしいなって思って、、』
アベルが丁寧にリボンをほどき箱をあけると、そこにはターコイズブルーの美しい栞が入っていた。
『あぁ、そういうことか!そんなに目をそらさなくても』
『だ、だって。恥ずかしい。なんで忘れてたんだろう?』
ライナは自問自答した。アベルは栞を手に取り裏にしたり表にしたりした。
『それにしてもキレイな栞だ。ん?これイルカか?』
『そうなの。凹凸で表現するなんてオシャレだなって思って。さっき部屋で見たアベルの使ってたやつ、結構年季が入ってそうだったから。』
『よく見えたな。そろそろ買い換えようかって思ってたんだ』
『アベルの瞳の色に似てキレイだったからつい選んじゃった。嫌だった?』
『君にもらって嫌なわけがないだろ?それに、前はえぐり出したいほど嫌いだったけど、ここに来てからは受け入れ始めたって言うか』
『よかった。やっぱり、アベルのお父さんとの大切な繋がりだから、嫌ってほしくなくて』
『気遣ってくれてありがとう。大切に使うよ。これでどこにいてもライナと一緒に居られるな』
『や、やめて。恥ずかしいこと言わないで』
『あぁ、離れたくない。あと少ししか村に居られないなんて』
『私も寂しい』
『珍しく素直だな?』
『と、友達としてだから!深い意味はない!』
『わかってるよ。それにしても』
アベルがライナの三つ編みを優しく手に取る。2色のリボンが銀髪にアクセントを与えている。
『本当に似合う』
アベルが髪にそっと口づけする。
『ちょっと、本当に恥ずかしいよ』
『ついでにもう一つ教えるとさ、イズールでは好きな人に自分の瞳の色の物を贈るんだ』
ライナはもう一本のリボンの意味にさらに頬を赤くした。
そしてアベルの手元の栞を見て口をパクパクさせた。
『し、栞のリボンはデフォルトでその色だったんだよ!』
アベルは栞に結ばれているリボンを見てまた微笑んだ。
そこには青紫色が控えめに佇んでいた。
『やっぱりふたりはお似合いってことだな』
『は、はずかしい!!ねぇ、そろそろ髪から手を離して?』
『これで我慢してるんだから許して。それとももう一度、する?』
ターコイズブルーがライナの瞳を捕らえて離さない。
『ライナから離れろ』
突然のその声は静かな夕闇に響いた。




