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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第1章 はじまり
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40話 買い物

『散々な目にあった、、』

アベルがげっそりと疲れた表情を浮かべて言った。夕日が輝く中、二人は商店通りへ向かうために学校の横を通過しているところだった。ライナは学校のディアンドルを、アベルはティオから、最初に借りた服を着ており、二人とも大きめな斜めがけのカバンをかけている。


校庭では数名の初等部の子どもたちがかけっこをして遊んでいる。


『ごめんなさい、うちのお母さんなんてすごく楽しんじゃってたし』

ライナもまた疲れているようだったが、アベルほどのダメージを受けてはいなかった。

『母さん、怒ると怖いんだ。今日のはまだ全然いいほうだ』

アベルが遠い目をして言った。

『そ、そうなの?全然想像がつかない』

たしかに今日のナディアはピリッとした迫力はあったものの、ライナはあの穏やかで上品なナディアがどのようになるのかは想像もできないのであった。


『こんなに遅くなってしまってごめん。なるべく急がないとな!』

『それは私のせいでもあるから。村役場もいかないと行けないから、買い物は1時間以内に終わらせないとね』

日没後1時間半程で帰る約束をした二人に残された時間はそれくらいなのであった。

『こんな夕焼けの中だったよな、コードに背負われてこの村に来たの』

『え、意識なかったんじゃなかったの?!』

ライナは心底驚いた。自分の認識では穏やかに寝息を立ててたはずなのである。

『一瞬、目が覚めたんだ。コードが気持ち悪いこと言ってたあたり』

『あぁ、"アベル様の隣は渡さない"って言ってた時ね。私、本気で誤解しちゃった』

ライナが少し照れながら言った。

『やめてくれ。その時さ、この髪が視界に入ったんだ』

アベルはライナの髪を一束すくい上げる。

『そのさ、すごくキレイだって思ったんだ』

『そうなんだ。私はあんまり好きじゃないの、この髪。まつ毛もだけど、はっきりした色がよかった』

ライナは少し困ったように笑った。

『今はオレンジ色だし、光の当たり方によってキラキラと変わるんだ。すごく素敵だと思う』

『ありがとう。アベルに言われると嬉しい』

ライナははにかみながらお礼をいう。



二人は商店通りに入った。

『さぁ、そろそろ仕立て屋さんだね。アベルの必要なものは服だけ?』

『そうだな。ティオに服のこと謝ったら、あの血まみれの服のほうだけで大丈夫って言ってたしな』

『最初はいらないとまで言ってたね。本当に無頓着だし、研究に没頭しちゃうとひどいのよ。休日なんて服が裏表だったこともあるし』

ふふふ、と笑いながらライナが言う。その様子を見てアベルは少しふてくされる。

『なんか、楽しそうに話すんだな。少し妬ける』

『やめてよ。お兄ちゃんはお兄ちゃんだからね』

『ティオはそう思ってないだろ』

『仮にそうだったとしても、どこかの誰かさんと違って襲ったりしません』

ライナはプイっとそっぽを向く。

『すみませんでした。というかこの前のヒースと同じようなことを言わないでくれ』

『ふふ。あ、ミリーにお土産買いたいから、本屋の方もみたい』

ライナはわざとらしく話をそらす。

ミリーの趣味は絵を描くことであり、最近いくつかの色鉛筆がなくなってきたと言っていたのだ。

『あぁ、そうしよう』

アベルは快諾した。



商店通りの建物は大きさこそ違えどほぼ全て同じデザインのレンガ作りであった。

手前から八百屋、肉屋、魚屋、パン屋と続き、T字路を曲がったところに、仕立て屋、本屋、工務店などと続く。そのさらに先にしばらく歩いていくと村役場につく。


二人は仕立て屋に足を踏み入れた。ちょうど二人以外には客がいなかった。

「あら、ライナ、いらっしゃい!って、まぁ!」

仕立て屋の女店主は声を荒げた。ウルマーやマチルダと同世代のリズニア出身の女性である。

「ライナが!ティオ以外の男の子を!連れてるわ!この前から噂の子ね!」

「そんな反応すると思った。ベスさんはいちいち大きいのよ、リアクションが。こちら、アベルさん。この前から村に来てるお客さんよ」

『この前来たっていうイズールのね!こんな素敵な坊やをゲットするとは、ライナもやるわね。あらでも、ティオが可愛そう』

ベスはアベルがイズールから来たということがわかると言葉を切り替える。

『アベルさんは友達で、ティオは兄だからね。ティオのことは何度も言わせないでよ』

『ふふ。からかうの面白いわ。あら、なんだかイズール語の方も自然になったわね。アベルさん、こんにちは。店主のベスですわ。今日はお召し物で?丈が合ってないようですものね』

『あ、えっと。ティオくん用のと、自分用のと2着買おうと思っていまして。ティオくんのサイズは今の服と同じでいいと言ってたんですが、、』

『わかりましたわ。んー、ティオも伸び盛りですから、思い切ってアベルさんと同じくらいの丈にしておきましょうか。体型もだいたい同じで、丈も数センチしか変わらないですし。』

『そうね。いざとなればまくっておけば大丈夫よ』

ライナの適当な発言に、ベスは苦笑した。

『相変わらず兄の扱いが雑ね』

『いえ、あの人は服への執着がないのよ』

『ふふ。好きな服を選んで。微調整はものによるけどニ十分くらいで終わるから』


『こうなったら蛍光色とかにしようかな』

服を選びながらライナが楽しそうに言う。

『ライナはティオに恨みがあるのか?』

『反応を見るのが楽しみなの』

『うわ。ティオに同情する』

『冗談はここまでにして、こんなのどうかしら?前回のとあまり変わらないデザインだし、素材も良さそう』

選んだ服は一般的なものと同様にリネンでできており、通気性が良さそうであった。

『そうしようか。やっぱり女性用の服のほうがデザインが多いんだな。ライナの服もここで?』

ティオの服を選んだあと、アベルは店内を見渡して言った。

『そうね。というか村のほとんどの人がここで買うの。ベスさんは村人のスリーサイズをほぼ完璧に把握してるわ。恐ろしいことに』

ライナは少し遠い目をした。

するとライナの後ろからいきなりベスがメジャーを持って現れ、彼女の胸囲を測り始める。

アベルはとっさに視線を外した。顔はもちろん赤くなっている。

『ちょっとベスさん?!お客さんいるんだからいきなりはやめて!』

『ごめんなさいね、いつもの癖で。思春期の女子はサイズがすぐ変わっちゃうからこまめに把握しとかないと』

ベスはすぐに耳打ちする。

「大丈夫よ、この前より2センチ増えたわ」

ライナは顔を赤くする。

「いちいち言わなくていいから!」

ベスはそんなライナの反応を見て満足そうに裏に消えていった。



会計を済ませたアベルは出来上がりを待つ間にベスと話していた。仕上げの作業は他の従業員がやってくれるとのことだった。ライナはその間に隣の本店兼文房具屋に行っている。


『あの、髪飾りなどは扱ってますか?あんまり持ち合わせはないんですけど』

『あるわ。こっちよ。うふふ、ライナに?』

ベスが案内しながら尋ねる。

『ええ、すごくお世話になったのでそのお礼に』

『いつまで村にいるの?』

『多分あと一週間日程かと』

『そうなのね、残念だわ。あの子がティオとケリー以外と一緒にいてあんなに楽しそうにしてるのは初めてだわ』

『あの、ケリーって二人の幼馴染ですよね?』

『ええ。せっかく友達が増えたと思ったのに残念ね』

『僕も本当はもっと村に居たかったんですけど、残念です』

『ライナも寂しがるんじゃないかしら?あんなふうにしてるけど繊細でしょ?』

『ええ、本当に』

『これなんてどうかしら?彼女も持ってないわ』

アベルが勧められたのは、青紫色のシルクのリボンだった。

『素敵な色ですね。彼女の瞳の色によく似てます』

『でしょ。髪にも映えるしいいと思うわ。あぁ、でもちょっと待ってね、、』

ベスは少し考え、困った表情を浮かべた。

『やっぱりこっちにしましょうか』

彼女は同じ生地で薄紫色のリボンを勧めた。

『さっきのだと何か問題でも?』

『村の昔の風習で、異性に対してその人の瞳の色の物を贈るのは、"自分と付き合ってください"の意味になるのよ。まぁ、今となっては古い風習だから気にしない人は気にしないのだけど。あまりに二人がお似合いだから勧めてしまったけれど、良くなかったわね』

ベスはごめんなさいね、と謝った。

アベルはなんの迷いもなく最初のリボンを買いたいと申し出る。

『問題、ありませんから』

アベルははにかみながら笑顔で答える。

『あら、まぁ!!うふふふ、ラッピングがんばっちゃうわ!』

『あ、待ってください。こっちも、もらえますか?』

アベルはまた別の色のリボンを指差した。


『やだ、もう!!イズールではそうなの?!重ね付けしても別々に結いてもかわいいわね、もう!!!』

ベスはアベルから代金を受け取ると、気合を入れてラッピングを始めたのだった。



◇◆◇

ライナは隣の本屋で、ミリーへのお土産を探していた。彼女の好きな色鉛筆のうち黒赤青が短くなってしまったのを知っているのでそれを買い足すつもりなのであった。

「ねぇ、ルーさん、一つお願いがあるのだけど、、」

ライナは店主の男に話しかける。

「なんだい、ライナ」

ルーは眼鏡をかけ直しながら言った。ルーもまたウルマー達と同世代のイズール出身者である。

「キレイな栞を探しているんだけど、いいものあるかしら」

「ミリーちゃんへかい?それともティオ?ケリーか」

「いえ。別の人です」

「ほー、それは珍しい。あー、ついに男か。昨日何人かがお前が男と歩いているのを見かけたって言ってたぞ」

ルーがニヤリと笑った。

「ったく、さっきからそればっかり!」

ライナは少し膨れる。ベスにも同じような反応をされたことをルーに告げる。

「そりゃそうだろう。事実なんだから」

「ちゃんと他の子たちとも良好な関係だからね!アデリナとも仲いいでしょ?」

「わかってるよ。ほれほれ、ムキにならない」

はははとルーが笑った。

ルーは栞の入っている引き出しから数枚テーブルに並べた。

ライナの目を引いたのは、ターコイズブルーに染色されたシンプルな紙製で青紫色のリボンがついているものだった。栞を手にとってよく見てみると右下に2匹のイルカの模様が紙の凹凸によって表現されている。

「これ、すごくキレイ」

「お目が高いね。少し前にウルマーさんに仕入れてもらったやつで、トワナ製のものだ。鮮やかな色だが本に色落ちしないように加工されているらしい」

「あ、、でも」

ライナは一瞬ためらった。


"アベルはあんまり目のこと言われたくないんだよね。でも、やっぱり好きになってほしい。親との大切な繋がりだもの"


「どうしたんだ?値引き交渉なら応じるよ?」

ルーは金額のことかと思って声をかけたが、ライナは首を横にふる。

「ちがうの。やっぱりこれにする。ちゃんと定額で買うよ。この店が潰れちゃったら好きな本買えなくなっちゃうし」

「勝手に潰すな。村に一軒しかないからそこそこ儲けは出るんだ。端数を引いて、色鉛筆3本と栞で500リアな」

「ありがとう。あの、栞は少しラッピングしてもらえたりするかな?」

ライナは代金を渡してルーにお願いをする。

「あいよ。この色を見ると、昔よくリズニアから遊びに来てたやつを思い出すな。こんなキレイな瞳をしてた」

栞をラッピングをしながらルーが言った。

「えっ?!あっ、知り合いなんですか?」

ライナは思わずどぎまぎしてしまう。

「なんでも村長のリズニア時代の知り合いの子供で、避暑目的で来てたとか。俺も何度か遊んだが、やんちゃなやつだった。ウルマーとマチルダと遊んでることが多かったな」

ふふふ、とルーは微笑んだ。


"それ、今のリズニアの国王様だけどね"

ライナは心の中でツッコミを入れた。


「そうだったんだ。今度お父さんに聞いてみようかな。じゃあ、また来ます!」


ライナは商品を受け取るとカバンに入れ本屋を後にし、仕立て屋へと戻った。

ちょうど服が出来上がった頃でアベルとともに服を受け取ると仕立て屋を後にした。


『なんか、ベスさんやたらニヤニヤしてたけど何かあったの?』

『そうか?何もなかったけど』

アベルは少し目線をそらしながら言った。

『何か余計なこと言ったんじゃないよね?』

『ない。安心してくれ』

『言っておくけど、あそこの息子、っていっても血縁関係はないけどね、中等部にいて親子揃ってスピーカーなんだから。きっと今日のことも明日には広まってるわ』

『へ、へぇー』

アベルは視線を大きくずらした。

『やっぱり何かしたのね?正直にいいなさい?』

『じゃあ村役場の帰りに』

『もう、わかった。あ、急がなくちゃね!』



その時、二人の目の前をまた肉屋のおばちゃんことデリカが通る。

『あら、お二人さん!今日もデート?ふふふ』

デリカもまたウルマーたちと同世代のふくよかなリズニア出身者である。

『もう!なんでこんなにおばちゃんと出くわすのよ』

『今の時間は旦那が店番で、私は夕飯のための買い出しよ。子どもたちがお腹すかせてるわ』

『一番下の子は元気?この前も風邪引いたってジェイから聞いたけど』

ジェイとはライナの同級生のことで、デリカの長男である。

『ありがとう。ええ、もう平気だわ。村に来てまだ一年経ってないんだもの、色々と慣れないのね。私達が愛情を持って育てるからきっと大丈夫よ』

デリカがどーんと豪快に胸をたたく。

『さすがデリカさん。あ、こちらアベルさん、この前村に来た、』

『あぁ、この前のね!こんなイケメンゲットするなんて、ライナもやるわね』

デリカがライナにウインクする。ライナは無表情になる。

『デリカです。山道は大変だったでしょう?ゆっくりされていってくださいな』

デリカがアベルと挨拶を交わす。

『アベルです。お気遣いありがとうございます。あ、この前のウサギすごく美味しかったです。マチルダさんに調理してもらってみんなで食べたんです』

アベルがお礼を言う。

『あぁ、あのウサギね。珍しく手に入ったのよ』

『オデが仕留めたの?』

ライナが尋ねる。オデはデリカの旦那の名前である。

『いえ、いつもの仕入先からよ。一匹手に入ったからって買い取らせてもらったのよ。じゃあまたね、お二人さん』

デリカは大きな買い物かごを揺らしながら歩いていった。


『なんか、すごいな』

アベルが村役場への道すがらポツリと言った。

『でしょ。あそこは5人も子供がいるの。実子は二人ね。肝っ玉母さんってきっとあんな人のことを言うのね』

『それもそうなんだけど、ライナは細かいところまで目配りができるんだなって。あとはここの雰囲気。すべてがイズールになくて新鮮だ』

アベルは目を輝かせている。

『みんな生き生きしてるし、なんと言っても魔族と人族の垣根がない。魔法が使えなくても機械を使ってできることをやる。魔法が使える者は自慢するわけでも隠すわけでもなく普通に発揮する。お互いに蔑むわけでもなく妬むわけでもなく、それが普通かのように』

さっきの店でも、従業員同士でうまく仕事分担をしていた。裁縫が得意な店員は機械でこなし、他の店員は高いところの服の上げ下げを風魔法で器用にこなしていた。

そんな光景がこの商店通りでは至るところで見られるのである。


『みんなコンバーターかインバーターだからね。いがみ合ってても利益がないもの。村ができた当初はそういうのもあったみたいだけど』

『そうなのか。想像がつかないな』

『そうだよね。私も詳しくは知らないんだけど、負傷者が出たこともあるんだって』

ライナは昔習ったことを思い出して言った。

『色々とあったんだな。イズールとリズニアもさ、アジール村を見習わないといけないと思う。もちろん規模が違うからできることとできないことがあるけど。お互いのいいところを認めあっていく必要があると思うんだ』

アベルが力強く語った。ライナはそうね、と言ったあと続ける。

『難しい問題ね。両者の因縁は根が深いもの』

彼女は眉をひそめながら言った。

『そうだよな。でも、先に進まなくちゃいけない。現にイズールはもう限界が近づいている。そのへんも含めて、しっかりと話し合いができればいいな』

『そうだね』

二人は夕日が山に沈みかけているのを横目に、足早に村役場に向かった。



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