37話 白いもふもふの能力
4の月20日目の朝。
ライナははっとして目が覚めた。額には薄っすらと汗がにじんでいた。
"最近は見なかったんだけどな。ヒースのせいだ、きっと"
ライナは身支度を軽く整え、ダイニングに向かった。ティオとミリーとアベルはもう席についており、食卓にはすでに食事が上がっていた。
アベルは目の下に薄っすらとクマを浮かべていた。ライナはみんなに挨拶するとミリーとアベルの間に座った。ここ最近はミリーとコードの間だったが、コードはもう出勤しているのでそこにはアベルが座っていたのである。ナディアとエマは朝食前に魔力のコントロールの訓練をしているようで庭に出ていた。座席が足りないということもあるが、この時間に訓練するのが日課らしい。
『アベル、眠れなかったの?顔色があんまり良くない』
ライナは心配そうにアベルの顔を覗き込む。
『い、いや。ちょっと周りがうるさくて。そういうライナもあんまり良くない。大丈夫?』
アベルは心配そうにライナの瞳を見つめ返した。
彼の言う周りとはコードとヒースのことのようであった。
―――
昨日判明したのは、コードもヒースの声を聞くことができたということ。残念ながら他の面々はそうではなかったので、ヒースがしゃべることは3人の秘密となった。女性陣はヒースを可愛がり、交代で撫で回した。マチルダは昔インコを飼っていたときのゲージを納屋から引っ張り出してきた。ティオは触れると壊れてしまいそうだといって撫でようともしなかったのだった。
『そんなやわなもんじゃないんだけどな、このウサギ』
とアベルが呟いたが、
《ティオくんは繊細ですね、どこかの金髪と違って》
とヒースに言われてプルプルと怒りに震えていた。
その様子を見てライナとコードは肩を震わせていたのであった。
もう一つ発覚したのは、ヒースは念話が通じる相手であれば、制限をして会話ができるということである。
ライナとヒースだけで心の中で会話する、などということもできてしまうのだ。
この白ウサギ、一体何者だ?と昨晩三人は首を傾げたのだった。
そんな話題の子うさぎヒースは現在リビングの端で野草をたらふく食べている。
彼いわく、念話には結構なエネルギーを使うらしい。
―――
『私は平気だよ今日は畑の手伝いって言ってたっけ?あんまり無理しちゃだめよ』
『大丈夫。体力は自信あるし』
アベルは爽やかに笑った。うっすらうかぶクマが痛々しくはあったけれども。
彼は畑仕事を楽しみにしているようだった。
ライナが聞いたところによると、通っていた学園では野菜を育てる授業があったそうだが、水やりと収穫くらいしかやらせてもらえなかったようで物足りなかったそうだ。
『ライナの家には馬も居るんだよな?世話させてもらえないかな』
イーリス家の馬小屋には今、ハルとルカという二頭の牝馬がいる。先日までいたライとジンがウルマーとともにリズニアに行っているのである。
『じゃあ、お世話お母さんにお願いしようか』
そう言うとライナはマチルダのいるキッチンに顔を出し許可を得て戻ってきた。
アベルが喜ぶのを見て、ライナもほんわかと温かく笑った。
『お姉ちゃん、今日はアンナの家で一緒にお勉強みてくれるの?』
ミリーが目を輝かせてライナに尋ねた。ライナは笑顔で頷いた。
『もちろん。今日は私も行くよ』
『嬉しい!お兄ちゃんったら、ケリーにつきっきりで私達のことみてくれないんだもの』
『ミリー、お前も見てわかっただろ?あれは手に負えないんだって』
ティオはやれやれと肩をすくめた。
昨日ライナとアベルが森に行っている間、ティオとミリーはシルフ家にてケリーとアンナと一緒に勉強会をしていたのだ。
ライナはもちろん、ティオがケリーにつきっきりになった理由――アベルにライナを取られたといじけている――がわかっているので苦笑いを浮かべざるを得ない。
『あんなようすだから"ツェテ推し"なんて単語がしょとうぶまで流れてくるのよ』
ミリーはそう言いながら少々冷ややかな視線をティオに送った。
ライナとティオは固まった。
「「そんな単語、どうして初等部まで?!?!」」
二人は思わずリズニア語で返した。息ぴったりに。
『あのね、お兄ちゃんとお姉ちゃんとケリーちゃんはしょとうぶでも"ゆーめーじん"なの。お兄ちゃんとケリーちゃんがイチャイチャしてるよろこぶの。女子が』
それを聞いてティオは青くなったり赤くなったりと忙しかった。
アベルは首を傾げた。
『ツェテ推しって何だ?ケリーって、二人の幼馴染だよな?』
『アベル、世の中には知らなくていいこともあるんd』
『ティオとケリーが仲良くしてると女子たちが喜ぶのよ。色んな意味で』
隠そうとするティオに対して、ライナは開き直ったようにニヤニヤと答えた。
アベルはそこでようやく言葉の意味をなんとなく悟ったようで、あぁ、と苦笑を浮かべた。
『待て、アベル!お前は色々と誤解をしてる!』
『どうせなら俺もケリーってやつに会ってみたいな。俺も放課後連れてってくr』
くれないか、とアベルが言おうとしたところでティオとライナが全力で止めた。
『今はまだダメだ、もう少し時間をくれ!』
『私がんばるから、ちょっと待ってて!』
二人の勢いに、アベルはわかったと言わざるを得なかった。
『うふふ、さぁ、みんな早くしないと遅刻よ』
そのマチルダの言葉に少年少女たちは急いで朝食を取り終わり、さっと準備をし残る人たちに挨拶をして学校へ向かった。
◇
アベルはマチルダの手伝いでキッチンで食器を洗いはじめた。
マチルダはナディアとエマと自分の分の朝食を食卓に並べる。
『マチルダさん、いつもありがとうございます』
『アベルまでお世話になることになりまして。本当にありがとうございます』
二人は庭から戻りマチルダに頭を下げた。
『いいのよ。お二人も畑とかティオの研究とか夕飯の支度とかお手伝いしてくださってるし助かってるのよ。アベルくんもお皿洗ってくれてるしね』
3人は食卓につき、談話をしながら食事を進めていく。
『アベルさんがお皿洗いというのは、なかなか珍しい光景ですわね、ナディアさん』
エマがアベルの様子をチラリと見て言った。
『ええ。これなら、将来可愛いお嫁さんをもらってもお手伝いできますね』
ナディアはニコニコとしながら言った。
『あら頼もしいわ。早くお婿さんに来てほしいわね』
さらにマチルダが追撃する。
その時、カラランという音がキッチンから響いた。
『や、やめてくれ母さんたち!手元が狂う。金属の食器でよかった、、』
キッチンから声が飛んできた。
3人はその声を聞いてクスクスと笑った。
この日、アベルは畑仕事の大変さと馬の世話の楽しさを学び、充実した時間を過ごしたのだった。




