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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第1章 はじまり
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35話 村長への報告

二人と一匹は村役場の入り口についた。

人の出入りの邪魔にならないスペースにつくと、アベルはヒースをゆっくりと下ろした。次に背中に背負っていた麻袋を下ろす。麻袋のは全体的に蛇の血にまみれ、アベルの服にまで染み込んできていた。

『うわ、、生臭いな。これはティオに返せない。明日二着分買わなくちゃな』

アベルは背中の方を確認しながら言った。

『結構べったりね。ごめんなさい、持たせちゃって』

『いや、それは全然かまわないんだ。危ないしライナにはもたせられない。この血にも毒って含まれてたりするのか?』

『ううん、毒は牙とその付近で作られるはずだし、頭はさらに別の袋に入れて二重にしてるから大丈夫だと思うんだけど。普通の蛇なら』

『普通じゃないもんな。この格好で役場に入るのは気が引けるな』

『じゃあ村長を連れてきちゃいましょう。ちょっと二人で待ってて』

そう言うとライナは急いで二階にある村長室へ走っていった。

"ヒースはしばらく黙ってろよ?"

《わかってますよ、言われなくても》

"ほんと、可愛くないウサギだ"

《そんなこと言ってるから巫女様にのらりくらりとかわされるんですよ》

『余計なお世話だ!』

《しーっ!》

"ストレスがたまる、、"


アベルはライナが戻ってくるまでの5分が一時間のように感じられたのであった。




◇◆◇

その後、アベルは村長に村役場の中にある簡易シャワー室を紹介され、入浴に必要なものや村役場用の作業着などを貸してもらった。シャワー室は一人用の小さなもので、一階の奥に設置されている。湯は隣の納屋で沸かしたものを管で引き入れ、水は裏口からすぐの井戸から必要な分を汲んで使うである。桶の中で湯と水を調整してシャワー台に流し込むとシャワーが使える仕組みになっており、リズニアの中では一般的なものである。イズールでも同様の設備だが、火と水の魔法が使える者は自分でできることもあり、家によってはシャワーの設備を持たないということもある。

アベルはシャワーの準備を済ませると、血のついた部分を中心に洗っていく。受け取ったものの中には使い切りサイズの石鹸もあり、蛇の血の生臭さも気にならなくなった。

"本当に、こんなことまでさせてもらえて申し訳ないな。石鹸はイズールでは高価なものだけど、この村の人は普通に使ってる。リズニアではこれが当たり前なのだろうか?後で村長に聞いてみよう"

イズールでは食糧難なこともあり、石鹸の普及まで至らない。石鹸は貴族が使うものであり、平民がやすやすと使えるものではないのだ。

アベルは体を洗いながらふと右上腕の傷を確認する。洗っていても染みないなと思っていたら、傷はキレイに消えていたのだ。

"こんなキレイに治さなくてもよかったのに。もっと力を抑えてればあんなにならずに、、"

ふと先程のライナの姿を思い出してしまう。乱れた銀髪にトロンとした瞳、柔らかい唇の感触、髪から漂うラベンダーの香り、そしてあの言葉。コードに言われて気づいた自分の彼女への感情も相重なり、心臓が高鳴る。

アベルはとっさに頭から桶の水を被った。

"落ち着け、落ち着け。変なことを考えるんじゃない!"

4の月の水はまだ冷たく、せっかく温まった体は一気に冷える。

それでも、アベルの内側の火照りはなかなか消えないのであった。




落ち着きを取り戻したところでアベルはシャワーを終え、身支度をした。




蛇の亡骸は役場の研究担当者によって袋ごと3階にある研究室に持ち込まれることとなった。動物に詳しい担当者が毒に気をつけながら慎重に分析を行うようである。


ライナはそこまで汚れていなかったため、村長室の来客用椅子に座ってアベルがくるのを待っていた。ライナの膝の上でヒースが気持ち良さそうに寝ている。ライナは無意識のうちにヒースを撫で回していた。ヘルムートは自分の椅子に座り、目の前の書類に目を通している。


「また厄介なものを持ち込んだな、、」

「詳しくは後でアベルが来てから話すよ。ごめんね、わざとおじいちゃんの仕事増やしたいわけじゃないの」

「役場では村長と呼びなさいって言ってるだろ?他の者に示しがつかない」

「今は私達しかいないんだからいいじゃない」

「はぁ。で、今日も説教案件か?」

ヘルムートは書類から目を離し、ライナを見つめる。

「そ、そんなことないよー」

ライナはヘルムートから視線をそらす。

「ふーん、報告が楽しみだ」


ヘルムートはまた書類に目を通し始めた。が、その目は優しく口角も上がっていた。なんだかんだ孫娘には甘々な祖父なのである。



ドアがノックされた。村長が入るようにうながすと、アベルが現れる。黒い作業着に身を包み、肩にはタオルをかけている。まだ髪は乾ききっておらず、普段からまっすぐな髪はさらにストレートになっているように見えた。

普段見るのと違うアベルの姿にライナは顔を赤くする。

さっと目線をアベルから外し、村長に向き直る。

『ヘルムート村長、何から何までありがとうございます。タオルもかけたままですみません』

アベルは村長に頭を下げた。

『いいんだ。風邪を引かないように気をつけてくれ。さ、こっちに座って。二人で説明してくれるか?』

村長はアベルをライナのとなりに座るようにうながした。

自らは二人とテーブルを挟んで向かいのイスに腰掛けた。

『ごめん、待たせてしまって』

『う、ううん。大丈夫』

ライナはとなりに座ったアベルをチラリと見るとまた視線を外した。

『?』

アベルはライナの不可解な行動に疑問を持ちつつ、ヘルムートに蛇の件の自分たちの結論を先に述べ、起こったことなどを整理して伝えていく。ヒースの念話の部分は話がこじれるので後回しにするようである。



"すごくわかりやすい説明。さすが、王国で勉強してただけあるわ"

アベルがライナに傷を治してもらったあたりの話をしている時、ライナはアベルに感心した。


《褒められてよかったですね、アベル》

突然、ヒースが念話を飛ばした。起きたようだ。


『おい、まだ話すなよ!』

『バラさないでよ!』

アベルとライナは二人同時に叫んだ。


その様子にヘルムートはびっくりし、目を見開いた。

『いきなりどうしたんだい?二人して』


そのヘルムートの様子に二人は驚く。

『村長、聞こえてないんですか?』

『ん?なんのことだ?』

『頭の中に聞こえない?』

『頭の中?一体どうしたんだ?』


その様子からして、ヘルムートにはどうやらヒースの声は届いていないらしかった。


"ヒース、なんかしゃべって?"

ライナはヒースにお願いをする。

《巫女様はアベルの湯上がり姿にドキドキしてました》

ヒースは嬉しそうに念話を飛ばした。


『そうなのか?!』

『この、性悪ウサギめっ!』

二人は立ち上がり、また同時に叫んだ。

ヒースはぴょんとライナの膝の上から目の前のテーブルに移動した。

アベルはライナの方を見て、ライナはテーブルの上のヒースの方を見て、顔が赤くなっている。


『お前たちさっきから変だぞ?!このウサギがどうかしたのか?』

ヘルムートは声を少し荒げた。

その声に二人は我を取り戻し、村長に告げる。

『すみませんでした、村長。実は、このウサギしゃべるんです』

『念話で。しかも心も読んできます』

アベルとライナが立ったまま真顔で言った。それに対し、ヘルムートは一瞬の沈黙の後、ぶっと吹き出した。

『何を言い出すかと思えば、、、そんなわけないだろう?どこかで頭でもぶつけたのか?』

ヘルムートは心配そうに尋ねる。

『本当なんです、信じてください』

『そうだ!ねぇ、ヒース。何か村長の考えてること教えて?』

ライナはヒースを抱きかかえお願いをする。

《それがですね。部屋に入ったときから試してるのですが、村長の心は読めないのです》

『そ、そんな?!』

二人は絶望する。

それではヒースがただのウサギでないことを証明できないと。


『で、ウサギは何と?』

ヘルムートはニヤニヤしながら言った。

『村長の心は読めないって』

ライナが絶望しながら伝える。

『お前たちの茶番に付き合ってはいられないぞ?私だって忙しいんだ。蛇が魔法を使ったかもしれないという件はわかった。前代未聞だが、魔素という概念が存在する以上可能性は否めない。こっちの職員で解析を進めよう。また数日後、二人で村役場に寄ってもらえるか?具体的な日にちはシルフ家に伝言してもらう』

シルフ家とはライナの幼馴染ケリーの家であり、両親はともに村役場勤めなのである。ただし父親の方は石鹸工場に出向しているので、おのずと伝言は母親のほうから経由することとなる。


『村長、信じて!本当に話せるの』

ライナは食い下がったが、それをアベルが制止する。

『はい、また今度来ます。すみません、お忙しいところご迷惑おかけしました』

アベルは頭を下げた。


『で、力を使ったわけだな、ライナ』

ヘルムートはライナに問う。

『は、はい。解毒は必須で、今回は一刻の猶予もありませんでした』

『ラヴィーネ蛇の毒は猛毒だ。過去には数名の村人がやられて命を落とした。しかも、西の森に行くことは私が許可したということもある。今回は不問としよう。説教はなしだ』

ヘルムートはそうライナに告げた。

ライナの顔がぱっと明るくなった。

『本当っ?!ありがとうございます』

『今回は特別だ。調子に乗って使うなよ。アベルは大切な客人だからな。そもそも怪我人に護衛をさせた我々に非がある。西の森を甘く見ていたようだな』

ヘルムートは腕を組んで何かを考え始めた。



◇◆◇

二人が村役場を出る頃、あたりはすっかり暗くなっており、月明かりが頼りだった。二人と一匹は家路を急いだ。もちろん一匹はアベルの腕の中である。


『早く帰らないと。お母さん心配しちゃう。あと、ヒースのこと許してくれるかしら』

『俺たちのことですら泊めてくれてるんだ、きっと大丈夫じゃないか?』

《ご迷惑をおかけします》

『珍しく素直だな』

《いえ、これはアベルに。排泄の時間です。この感覚は"大"のほうですね》

『えっ?!』

『ちょ、ちょっと待て!今下ろすから(ここ)でするんじゃない!村役場からの借り物が汚れる!』

二人はわたわたとヒースをおろせる場所を探す。

『あそこなら邪魔にならないはず!』

ライナが少し先の地面を指さす。

《もう無理です。生理現象には逆らえません》

『がんばってくれ!』


間一髪のところでライナが指した場所に着き、アベルがヒースをおろした。


ヒースは排泄後、排泄物に自分で土をかけた。

《はぁ、スッキリしました。危なかったですね》

ヒースは何事もなかったかのように二人に話しかけた。

二人はまだ肩で息をしていた。

『他人事のように言うな。コロコロしてるとはいえ服についたら大変だったぞ』

『お願いだから、もう少し早く伝えて?』

ライナがヒースにお願いする。


《次は気をつけます。不慣れですみません。排泄を誰かに伝えなきゃいけないことなんてありませんでしたから》

ヒースは少ししょんぼりとした。


その様子を見てアベルが表情を曇らせた。

『すまない。ちょっと言い過ぎた』

アベルはそっとヒースを抱きかかえた。


《まぁ、村長に怒られるアベルも見てみたかったですけどね》

ヒースはいつもの口調で伝えた。

アベルは無表情になり、腕に力を入れる。

『前言撤回だ!やっぱり鍋にする!マチルダさんに頼もう!』


《ジョークですよ、ウサギジョーク!いててて、巫女様助けてー!》

ヒースはモゾモゾとアベルから抜け出そうとするがうまくいかない。

『少し、反省なさい』

ライナはそう言うと、あははとお腹を抱えて笑い始めた。


『ライナ、そんなに笑わなくても』

『ふふふ、なんか、すごく仲がいいなって』

ライナは笑いすぎて目に涙を浮かべている。


『良くないから!』

《良くないですから!》


誰もいない夜道にアベルの声だけが響いた。




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