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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第1章 はじまり
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33話 小さな声

《やめてよ、こないで!》



それはライナの心の声、ではなかった。

『何、今の?聞こえた?』

『聞こえた。なんか頭に直接響いてくる声だった』

二人が聞いた小さくて高いその声はここから少し奥の岩場近くから聞こえた気がした。

『あっちは蛇が向かったほうだ。とりあえずいってみよう。ライナは危ないから待ってても』

『一緒に行く。行かなくちゃいけない気がするの』

ライナの左手はピリピリと痛みを放っていた。この感覚を彼女は知っている。

『わかった。くれぐれも気をつけて』


二人が岩場近くの木陰まで来ると、蛇の後ろ姿越しに睨まれている小さな白い塊が目に入った。蛇は2メートルを超える茶と黄と赤の縞模様の大蛇で、今にもその塊に襲いかかろうとしていた。二人は木陰からそっと近づく。

"う、うさぎ?!"

そこにいたのは小さな真っ白いウサギだった。



《僕おいしくないですよ!》


赤い目をうるうるさせて必死に蛇から逃げようとするが、蛇はウサギから目を離さない。



『あれはラヴィーネ毒蛇ね。あんな大きいの見たことないけど、、本来であれば自然の摂理だから放っておくんだけど、あの子』

『あきらかに念話だよな。普通じゃない』

『助けてもいい?』

『俺もそう思ってた。ライナはここにいて』

そういうとアベルは長剣を抜き静かに蛇に近づく。


《あ!!金髪のお兄さん、逃げて!コイツやばいですから!》


ウサギが念話を飛ばしてくる。それはアベルにもライナにも聞こえた。ライナは試しに念話を試みる。


"ウサギさん、何がやばいの?"


《僕の言葉わかるのですか?!コイツはただの蛇ではないのです!離れて!》


"アベルにも聞こえてるかな、私とアベルは念話なんて使えないから伝えられないよ!"


その時、蛇はウサギに襲いかかろうと口を大きく開けた。

そこにアベルが蛇の頭に長剣を振り下ろしたが、予想以上の速さでかわされ、長剣は蛇の胴体をかすった。

ギャーと暴れまわる蛇は今度はアベルをターゲットにし、目を見開いた。



その瞬間、蛇の牙から鋭い風が生まれ、アベルの右上腕部をかする。


そこからピッと小さく血しぶきがあがり、みるみるうちに服が赤く染まっていく。

『うっ、何だ?!』

思わずアベルは長剣から手を離し、左手で傷口を押さえる。剣は蛇の胴体から抜けてしまった。


『風魔法を、使った?』

ライナは目を疑った。魔法は魔族にしか使えないはずである。それを蛇が使えるなど聞いたことがなかった。蛇はライナの声を聞くとすばやく方向転換しライナに向かって動き出した。


『ライナ、危ない!』

アベルは短剣を左手で抜くと蛇の胴体を足で踏みつけ、真上から頭に短剣を突き刺した。血しぶきがアベルの左頬に少しかかった。


蛇は断末魔の叫びをあげ、次第に動かなくなった。

アベルはすばやくライナに駆け寄る。

『ライナ!怪我はないか?!すまない、一発で仕留められなくて』

『ううん、私は大丈夫。アベルの怪我は?』

『俺のは、かすり傷だか、ら、』

その時、アベルは右腕を押さえたままライナの方へ倒れかかってしまった。

ライナはそれを支えきれず、二人で地面に倒れてしまう。その拍子にライナのスカーフがはずれ、地面に落ちた。

『アベルっ?!どうしたの?!』

『ごめ、ん、なんか、うまく体が、動かなくな、って、』

アベルは額に汗を浮べ、苦しそうにしている。

『まさか、さっきの傷から毒が?』

ライナはすぐにアベルの傷口を調べる。

"やっぱり!化膿してきてる"

ライナは自分の膝にアベルの頭をのせ、右腕が上になるように体を傾ける。左手の手袋を外し、全神経を左手に集める。


"解毒のイメージ。神経系、筋肉系へのダメージ修復を、、"

左手から仄かな白い光が溢れ出す。


時とともに次第にアベルの表情が和らぐ。

『ライナ、俺はもう平気だから、もう力使わないで』

『だめよ。毒が残ってると後遺症になったりするから』

『でも、あれは俺のミスだ。君に負担をかけたくない』

『アベルがいなかったら私がやられてたわ。さ、大人しくしてて』

ライナはアベルに微笑む。

『でも、、』

ライナはアベルを無視して光を注ぎ続ける。



しばらくして光は弱まり、アベルの傷口は完全に塞がった。



『よかっ、た、ごめん、よろしく、ね』

そういうとライナは意識を失い横に倒れた。




アベルがライナを抱えあげ、カバンから小箱を取り出した。

『ライナ、大丈夫か?!』

アベルは干しぶどうをライナの口に入れるが、彼女はうまく飲み込めず、ポロッと出てきてしまう。ライナの顔色はますます悪くなっていき唇が赤みを失っていく。

"まずい、どうすればいい、、?"


《水で流し込んでください》


それはさっきの小ウサギが発したものだった。


『そうか!それしかないよな』

アベルは干しぶどうを咀嚼し、水袋の中身を自らの口に少し含むと、ライナに口づけをした。そこから水をゆっくりと流し込む。


『んっ、』

ライナが少し反応を示した。

『ライナ?!これなら飲めそうか?』

『ん、、』

ライナは目を閉じたまま頷いた。

アベルは同じことをもう一度繰り返し、ライナの反応を見た。

ライナの顔色は少しずつ回復し、薄く目を開けた。

『ごめ、ん、アベル、もっと、ほしい』

ライナはそういうとまた目を閉じた。


『あ、ああ!待ってて!』

一瞬ひるんだアベルは気を取り直し、再度ライナに飲ませる。そしてゆっくりと顔を離し、ライナの顔色を見る。

ライナの唇に色が戻り、顔色もいつもどおりになった。ライナは目をゆっくりと開け、アベルに告げる。

『あ、りがとう、もう大丈夫。自分でできるから』

ライナはゆっくりとアベルの腕から起き上がると、残りの干しぶどうを食べた。



ライナは立ち上がるとふーっと大きく深呼吸した。

『ごめん、もう復活した!』

大きく伸びをして言った。

『あ、ああ、良かった』

アベルは座ったままさっとライナから視線を外した。顔が今までにないくらい赤くなっている。

『ん?アベル、大丈夫?まだどこか悪い?』

『いや、その、、』

アベルは相変わらず視線を合わせようとしない。

ライナアベルの隣に腰を下ろして熱がないかと心配して額に手を触れようとした。



《お熱いことで》


その声は二人の頭に響いた。



さっと二人が座りながら振り向くと、赤い目の真っ白な小ウサギが二人の目の前にぴょこぴょことやってきた。心なしか小ウサギがニヤニヤしているようにも見えた。ライナははっとしてアベルに問う。


『、、ねぇ、私どうやって水飲んだ?』

『それは、、いや、ほら、しょうがなかったというか、』

アベルはモゴモゴとして答えようとしない。


《それは、マウス トゥ マウスですよ!銀髪のお嬢さん》

小ウサギのその声はさっきよりもトーンが上がっている。


『きゃーーーー!!!!』


ライナの悲鳴が西の森にこだました。



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