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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第1章 はじまり
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29話 自覚

話し合いの後、アクセルは馬を手配している間に荷物を整理しようと会議室を出た。

荷物を置かせてもらっていた小部屋に向かっている途中で、後ろから呼びかけられた。

『気を付けて行ってこいよ』

アクセルはその声を聞き、驚きながら振り返る。

『アベル!わざわざそれを言いに?!』

アクセルはニヤつく顔を隠しきれずにそう言った。

『ニヤニヤするな。誤解するなよ。お前になんかあると母さんが悲しむから。社交辞令だ、国王様』

『それでも嬉しいさ。ありがとう。なるべく早く戻る』

『ヨハナ様、王妃様のことを考えると、これがベストとは思えない。申し訳ないと思っているんだ。俺さえいなければ』

『それは言わないでくれ。アベルがいたから俺はもう一度ナディアに会えたんだ。君は大切な息子だ。俺が言えたことではないが』

『くれぐれも、王妃様やご子息ご息女に配慮してください、国王様』

アベルはわざとらしく丁寧に言い、深々とお辞儀した。

『まったく、優しく育ったんだな。わかった。いってくる』

アクセルはアベルに返事をし小部屋に入っていった。



◇◆◇



『アベル様。ちょっと廊下でお話しましょう』

会議室に戻ってきたアベルを出迎えたのはコードだった。二人は会議室から離れ、誰もいない廊下の突き当りに移動した。アクセルとカイ以外の人間はまだ会議室に残っており、まだ人が出てくる様子はない。

『コード、すまない、色々巻き込んでしまって』

『いいんです。正直、イズールにいたときより楽しいです。アベル様がいろんなお顔をされるので』

『そうか?俺は全然変わってないと思うが』

『気づいてないんですか?』

コードが心底驚いたように琥珀色の瞳を大きく見開く。

『そりゃ、なんだかんだ色んなことがあってふてくされてる時間が減ったとは思うが』

アベルは腕を組み、真剣に考えていた。その様子を見てコードが吹き出す。

『はは、本当に気づいてないんですね。そんな様子だと、私が奪ってしまうかもしれませんよ?結構仲がいいと思うんです』

コードは右手人差し指で唇に触れた。

『ん?何を?え、まさか!!』

アベル"仲がいい"というところで一つ思い当たることがあり動揺する。

『それはだめだ』 

アベルは即答する。

『なぜ?俺のほうがアベル様より面識が早いですし、年上ですしね』

コードは琥珀色を細め口角を上げた。

『いや、それはなんというか、ほら、あれだ。年の差がありすぎないか?6つも離れてる』

『彼女が適齢期になればそんなの気になりません。ちなみに俺の父も母より6つ上でしたよ』

『それは、、でも、、』

『いい加減自覚なさったらいかがですか?じれったいですね』

『今は自分のことで精一杯で、そんなこと考えてる』

余裕はない、まで言おうとしたが、それはコードの耳打ちによって叶わなかった。

『さっきの話し合いでわかっただろ?どちらにせよ貴方は村を離れることになる。そうすればライナに二度と会えなくなるぞ』

『それは』


アベルの中でコードの言葉が何度も響く。


"二度と、会えなくなる"


アベルは胸が締め付けられる感覚に動揺する。


もっと知りたい

もっと一緒にいたい

彼女の笑顔を見ていたい



その感情の正体を全く知らないわけではなかった。

初等部の時に初めて優しくしてくれた同級生の女子に淡く抱いた感情だった。

それは結局彼女が仲間内とやっていた"遊戯(ゲーム)"の一環で、その後彼女は"私青い目って嫌いなのよね"と冷ややかな笑顔を浮かべアベルに耳打ちしてきたのだ。



この時以来、アベルは"そういう"感情を捨てた。



ちなみに普通ならば不敬罪にあたるものの、アベルは黙っていた。権力で人を黙らせるのは恥ずべきことだと(ナディア)から教わっていたし、言ったところで祖父(ガリオン)の耳に入った段階で『強くなりなさい』しか言われないことがわかっていたからである。



『ようやく気づきましたね?ったく、いくらイズールでそういうことと無縁だったとはいえ、鈍いにも程がある』

コードはアベルの初等部での淡い恋心を知らないので、完全に今回が初めてだと思っているらしかった。アベルは顔を白くして俯いている。

『でも、彼女とは出会ったばっかりで』

アベルは思い出したかのように必死にコードに反論する。

『だから何です?貴方の父上と母上もでしょうが』

『それは刺さるからやめてくれ』

『今回の件が動くのは早くても2週間後。それまでの間に行動に移したらどうですか?』

『いや、でも俺はまだ入院中だし』

『"いや"と"でも"が多いですね、まったく。それは私のほうでゲルデさんに退院の許可を取りました。明日からは自由の身ですよ』

『ほんとに?!』

『ええ。だから、ライナに放課後村を案内してもらったり、ティオくんの服を選んだりできますよ。親交を深めてきてください。ちなみに、明日はライナと森に行ってもらいます』

『なんで森?』

『アベルを退院させる条件としてライナの護衛を頼みたいそうです』

『それ、退院直後の人間にさせることじゃないよな。まぁ、わかったよ』

『楽しんできてくださいね』

『え、コードは?』

『俺は学校で仕事ですから』

『そうじゃなくて、なんか、俺が抜け駆けみたいじゃないか』

ポカンとした表情でアベルが言った。コードがまた吹き出した。

『ふふっ、我がご主人様は本当に人が良い』

『?』

『さっきのは、嘘です。ライナは良い子ですがそういう対象じゃないですね。俺は年上の方が好きですし』

『お前、騙したのか?!』

『誰も困ってませんのでノーカンですね』

『ひどい!』

『もっと自分のことを考えたらどうですか?貴方は身内に優しすぎるんですよ。まぁ、そういうところも含め素敵なんですけどね』

『ライナからは嫌われてはないとは思う。だけど、彼女はどこか、線引きしてる感じがするんだ』

『そのへんは私の方でも調べましょう。ちなみに、アベル様が退院したら借家に移動する予定でしたが、事態が変わりましたので、残り2週間イーリス家に居続けることになりました。これはウルマーさんと村長から提案されています。ですから』

再びコードがアベルに耳打ちする。

『色んな姿のライナが見られますよ』

それを聞いた途端、アベルの顔がみるみる赤くなる。

『な、何言ってんだよ!』

アベルがポコポコとコードを叩く。

『部屋着姿とかなかなか可愛いですよ。いやー、年上じゃないのが残念だなー』

『やめろ、そういう目でライナを見るんじゃない。減るだろ』

『楽しみですね、アベル様!』

『話を聞けー!』

アベルの叫びが廊下にこだました。



◇◆◇

「ライナ、聞いてるのか?」

ゲルデがライナに問いかけた。

「え、えっと、何だっけ?」

「両国王が帰るときに持って帰ってもらう薬草についてだよ。焙煎したユキワスレをお土産にしようって」

「う、うん、そうだったね」

「お前さ」

ゲルデは近くに誰もいないのを確認した。他の人は部屋の真ん中や後ろの方におり、前の窓側には二人しかいなかった。

「アベルがいなくなるのが寂しいんだろ?」

ゲルデは小さく囁いた。

「な、なに言ってるの?それはしょうがないことだし。アベルは王族で住む場所が違いすぎるよ」

「ふーん。お前はそれでいいんだな」

「しょうがない、です」

「さっきの話し合いだと、アベルはリズニアかイズールどちらかに引き取られることになる。どちらになったとしても、早いうちに婚約させられるだろうな」

「婚約」

ライナの顔に動揺が生まれる。

「そりゃそうだろうよ。王族なんだから。他国の姫様とか上級貴族と婚約したほうが国のためになる」

「そう、だよね。王族だもの」

「じゃあなんで、お前は泣きそうなんだ?」

ライナの青紫色の瞳には雫が溜まっていた。

「え、嘘!なんで。き、きっと、アベルが殺されずに済みそうなのが嬉しくて」

ライナはとっさにそれを拭う。

「もう一つ聞くぞ。お前のその感情は、ティオに対するものと同じか?」

ゲルデは緑の瞳をまっすぐにライナに向ける。それに対してライナは視線をそらす。

「それは」

「どうなんだい?」

「違う」

「どう違うんだい?」

「ティオとはあくまでも兄妹。いずれ離れることになるってわかってるし、当然だと思ってる。でも、アベルは」

ライナは答えかかってやめた。深呼吸すると再度ゲルデに言う。

「やっぱり同じような感じだよ。アベルは友達で、いつかは離れることになる。それは当然のこと」

「わかった。それがお前の答えなんだな」

「はい。これでいいんです」

ライナはわざと丁寧な言葉で答えた。

「そうやって気持ちを押さえて生きていると、いつかガタが来るぞ。時には欲望に忠実に生きたほうが人生楽しい、きっとな」

「十分に忠実です」

「ある一辺ではな。また何かあったら相談しな。昔話ならいくらでも聞かせるさ」

ゲルデはライナの頭をくしゃくしゃと撫でた。

「ありがとう、おばあちゃん」

「ったく、素直じゃない孫だよ」

二人はクスクスと笑った。

気を取り直してライナが問う。

「じゃあ、薬草は明日取りに行ったほうがいい?」

「そのことなんだが、明日の午後、西の森に行ってきてほしい。そこにたくさん生えているんだ。明日の午後はカイもいないし自習になるんだろう?さっきロドルフから許可を取った」

「なんと用意周到な。でも、西の森は立ち入り禁止だよね?」

「もちろん、一般的にはな。でも、お前らには行く権利がある。ヘルムートには私から話をつけておく」

「ら、って?」

「明日はアベルも同行させる。明日の朝退院するからな」

「え、そんな。ケガ人を私も慣れてない場所に連れて行くのはマズイでしょ。せめて北の森に」

「いや、今回は西だ。それに地下迷路の出入り口には警備隊も配置されてる。なんかあったら彼らに助けを求めな。暗くなる前に戻るんだよ。よろしくな!」

そういうとゲルデはいつものように手をヒラヒラさせて村長のいる方へ去っていった。



「勝手なんだから、もう」

ライナはニヤけてしまっている口元を正して父親の元に戻った。



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