26話 村ができるまで
一同は会議室の椅子に腰かけていた。カイ、エマ、コード、ライナ、ウルマー、ゲルデの順でコの字型に座り、ロドルフだけは席を立ち、コの字の前に置かれた黒板に柔らかい石灰石でラヴィーネ山脈の断面図を描いていた。ロドルフはイズール語で説明を始める。
『エマさん、コードさんにわかるように説明をする。何かあれば他の人達も補足してほしい。ライナ、この村ができたきっかけは?』
ロドルフがライナに問う。
『リズニアでコンバーターが迫害されたことです』
『そう。人族同士の子どもでありながら魔法を使える素質を持つ者、それがコンバーターだ。約50年前から人族の国々で毎年生まれている。正確な統計があるわけではないが、各国で十数名ずつは確認されているようだ。彼らは親族によって殺されたり、物好きな貴族に売られたり、見世物になったりしていた』
ロドルフは眉をひそめながら話し始めた。
ライナは一瞬顔色を変えうつむいた。が、ウルマーがすっとライナの手を握ったことで落ち着きを取り戻した。
"ありがとう、お父さん"
ライナは心の中で父親にお礼を言った。
『コンバーターになる理由はわかっていない。家系に関係なく生まれるらしい。リズニアの前国王チャールズはコンバーターの存在に頭を悩まされていた。同じ人族として救いたいが、大々的に国が救おうとすれば魔法を使える者の肩を持つのかと言われてしまう。そこで彼らが暮らせる場所がないかと、特別調査隊を組んで密かに探し始めた』
『その隊長がヘルムート村長だったんですね』
ライナが答えた。
『そうだ。この辺まではコードくんもエマさんも大丈夫かい?』
コードとエマは小さく頷いた。その表情はやや呆気にとられていた。
『では、ライナに復習問題だ。その後どのようになった?』
『ふふ。なんだか授業みたいですね。調査隊が今の村の場所を見つけて、そこにイズール側のロドルフ校長などが合流してどちらの国にも属さない村が作られた、と習っています。イズールでも同じ頃からインバーターと呼ばれる魔族同士の間に生まれた魔素を変換できない子どもが生まれ始め、国外追放された子どもたちを連れてロドルフ校長が村にたどり着いたのも知ってます』
『ここからが、まだコードやエマさんが知らないであろう話です』
カイが続けた。
『ヘルムート村長やロドルフ校長たちが、どうやってこの村の場所に辿り着いたか。それが、地下迷路の存在なんです』
『地下迷路?』
コードが復唱するかのように聞き返した。
『そう。校長が書いてくださった図を借りますね』
そう言いながら、カイが石灰石で"道"を書き加えていく。それはリズニア側から山を突き抜けて村へ、そして、イズール側からも同じく山を突き抜けて村へ繋がっていく。
『そんなことが』
エマとコードは目を見開いている。
『どちらの迷路も古い煉瓦造りで、崩れないように結界まで張られているんだ。道は複雑に入り組んでいて、慣れていない者が入れば出て来られない可能性もある。我々は何かの遺跡だと推測している』
僕は案内がないと踏破はできないよ、とカイは続けた。
ここでコードがカイやロドルフに疑問をぶつける。
『では、その遺跡は一体誰かつくったものなんでしょうか?』
『それは今もわかっていない。人を雇って調査すれば色々わかるのかもしれないが、この村の存在自体秘密にされているんだ。人を雇うリスクは負えない。村の警備隊はそこまで人数を割けないしな』
ロドルフが残念そうに答えた。
『たしかに、この村のことはイズールでも聞いたことはありませんでしたね。ナディア様はアクセル様から聞いたようでしたし』
エマが思い出しながら言う。
『この村と地下迷路の存在が明らかになれば、両国の行き来が従来より明らかに楽になる。しかしそれは今の両国の関係ではお互いデメリットにしかならないですからね』
カイが補足する。
ロドルフが追加して話をする。
『村を出ていった村人もたくさんいるが、口をつぐんでもらっているし、彼らが村を出るときは眠らせて荷車で移動するんだ。だから、彼らは村に戻ってこられない』
『だから村を出ていった人たちは戻ってこないのね。里帰りしないなんて親不孝だって思ってた』
ライナは知らなかった、と呟いた。
『村を出る人はその覚悟で村を出るんだ。そのへんは高等部に行ってから教えるんだけどな』
ロドルフが付け加える。
『カイ先生から教えてもらいましたが、この村の住民のほとんどが他国で捨てられ村で保護された子どもたちであると』
コードが気になっていたことを口に出す。
『そうだ。原則としてはインバーター、コンバーターの子達だけだけどな。もっと違う理由で捨てられる子達もたくさんいるのはわかっているが、そこまで保護しようとすると村のキャパシティを超えてしまう。リズニアとイズールに関しては国が極秘で保護した子どもを引き取ってるんだ。シェルドントとウィルダは情報が入り次第に、トワナはそもそも情報が入ってこないから引き取ったことはないが』
『じゃあ、ガリオン様、イズール国王はこの村の存在を知ってるということですか?』
エマが驚きながら疑問を投げかける。
『あぁ、国王は知ってる。ここに直接来たことはないがな。村ができてしばらくしてから、俺とヘルムートで向こうに出向いて、国王に直々にインバーターを保護できないかと打診したんだ。ガリオンは最初は渋ってたが、最終的には乗ってくれたよ。気難しいやつだが根は優しいからな』
『え、まさか、校長もイズール国王と知り合い、なんてことはないですよね?』
ライナがまさかと思い恐る恐る尋ねる。
『俺は国王が王子だったときに教育係だっただけだ』
ロドルフはガハハと豪快に笑った。
『も、もう驚かないですよ、この村の人たちのスペックの高さには』
コードはライナとともに大人たちをジロジロと見てため息をついた。
『そう考えると、あたしが一番まともだよな。村の初期メンでは』
ゲルデが真面目な顔でさらりと言った。
『なぜだろう、貴女からその言葉を聞きたくない。たとえそうだだったとしても』
コードが頭を抱えてツッコミを入れる。
『ありがとよ、がきんちょ。今度こそは塗り薬なしだ』
『すみませんでしたっ!!!』
コードが光の速さで謝罪をした。
カイが笑いを堪えられずに吹き出す。
『あのコードが、こんなに丸くなるとは。エマさんのおかげですかね?』
『いえ、ナディア様とアベル様のおかげですわ。あぁ、二人が心配です。どんな話し合いをしているのやら。。』
エマは二人がいるであろう部屋の方を見つめた。
それに促されるように他の面々も静かに同じ方を見つめたのだった。




