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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第1章 はじまり
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25話 大男は知る

少しだけ遡る話。

ウルマーはアクセルとともに応接室のイスに座っていた。

「懐かしいな、こうやって二人して村長を待つの」

アクセルがポツリと言った。ウルマーは小さく笑いながら頷いた。

「俺らがまだ10歳の頃だよな。お忍びでお付きの人と村に来てたお前と俺とで、村長の大事なツボに落書きした」

「しかも、インクがなかなか落ちなくてさ。あの説教は特別に長かったな」

二人はくつくつと笑った。

「あれから28年か。お互い色々あったな。お前なんて国王になっちまった」

ウルマーは隣に座る旧友を見つめた。


「変わんねえよ。いつまでたってもガキのままだ。いつまでも過去を引きずってるどうしようもないやつだ」

ウルマーにはそれが何の過去なのかすぐにわかった。

「俺、今回の件は全然聞かされてないんだが、村を立つ前日にライナが怪我をしてた魔族たちを助けてきたんだ。そのうちの一人の女性がさ、」

「やめろよ、期待を持たせるな。彼女はきっとトワナでうまくやってるはずだ。もしかしたらあいつと結婚してるかもしれない。幸せになってくれれば、それでいいんだ」



ウルマーは薄々気づいていた。

臨時でリズニアに行くことは珍しい。そして、そのタイミングはナディアやエマがイーリス家に来たのと一致していた。何よりも、彼女には16になる息子がいると聞き、時期も一致していた。


でも、アクセルには何も言えなかった。

全くの見当違いで友人を傷つけたくはなかったのだ。


「すまない、思い出させてしまった。リズニアにもどってから憔悴してるお前を見るのは俺も辛かったんだ。仕事でリズニアに来るたびにお前のとこに顔出すようにしてたけど、やばい顔してたからな。お前ってばずっと馬の世話ばっかりしててさ」


ウルマーの脳裏には、厩舎で無心に灰色の馬を世話するアクセルの様子が蘇っていた。


「自覚はある。あのときは何も考えられなかった。ニーナの世話をしてる時間だけが人間でいられたんだ」

「王妃様は本当に理解のある方だ。俺ならこんな未練たらたら野郎お断りだ」

「そうだな、ヨハナには本当に感謝してる。今では彼女たちのことを一番に考えられるようになったさ。ちなみに、俺もお前お断りだからな」

二人は小さく笑った。


「俺はマチルダ一筋だ」

「はいはい、知ってますー」

その時、ドアがノックされたのだった。





◇◆◇

ウルマーは応接室を出て、会議室へ向かった。

"なぜ、ライナまで来てるんだ?まぁ、ナディアさんたちを連れてきたのはライナだが、、"


ウルマーはドアをノックして会議室に入った。

そこには重苦しい空気が流れており、一斉に刺さるような視線を感じる。

「なんだ、お父さんか。やけに早いと思ったんだ」

「父親になんだとはなんだ。悲しいぞ」

ウルマーが入ってきて場の空気が少し変わった。

「アベルとナディアさんが心配なの」

ライナは今にも泣きそうな顔をしている。

「やっぱり、ナディアさんがアクセルの相手だったのか!じゃああの金髪少年はアクセルの息子?!たしかに昔のアイツに似てたな」

「ちょっと待って、何でお父さんまで国王様を呼び捨てにするの?!」

そのライナの問いにウルマーが答えようと口を開いたが、それよりも先に言葉が飛んできた。

「国王アクセルは王子だったころからお忍びで村に遊びに来てたんさ。ガキのときからウルマーとマチルダはよくアクセルと遊んでたんだよ。特にコイツらはどうしようのないことばっかりやってた」

ゲルデは昔を懐かしむように笑みを浮かべながら答えた。もちろん、ウルマーの方を向きながら。



「いろいろとご迷惑おかけしました、はい」

大男のウルマーだが、ゲルデの前ではその大きさがよくわからなくなる。

昔から母親には頭が上がらないいたずら坊主なのであった。





ウルマーが来て数分もしない内に、再びドアがノックされた。ウルマーがドアを開けるとカイが息を切らして立っていた。

「あ、ウルマーさん。お疲れ様でした」

カイは息を整えるとウルマーに挨拶をした。

『先生、旅の準備してたのでは?!』

黒髪の青年が驚いてカイに声をかける。誰だろうと考えたが、消去法で考えて、彼がエマの息子コードであることが予想できた。

ナディアやエマとは何度か食卓を囲んだが、コードは入院していたためウルマーと顔を合わせたことはなかった。


『独身で身軽ですから。それに村役場と診療所の中間あたりに家がありますし』

カイはニッコリと答えた。

『それにしても早すぎるような。まぁ、先生だからなんでもありか』

青年がボソッとつぶやいた。

カイは首をかしげるのであった。



それと同時にウルマーも首を傾げた。なぜライナたちの担任であるカイがコードと親しく話しているのか、不思議で仕方がなかった。



『ライナ、ウルマーさんにご挨拶しても?』

そうだ、挨拶がまだだった。そう思ったウルマーは、コードの言葉が聞こえるとすぐに青年に向き合った。


ライナはイズール語で返した。

『はい。父のウルマーです。お父さん、こちらがアベルのご友人のコードさん。お父さんが帰ってきた日に入院してた』

『君がコードくんか、はじめまして』

ウルマーもイズール語に切り替えて話す。

『はじめまして。マチルダさんたちにも本当にお世話になってます。早くお会いしたいと思っていました。なんとお礼を言ったら良いか。本当にありがとうございます』

コードは優雅にお辞儀した。

その動作は貴族のようで、母親であるエマに引けを取っていなかった。



『困ったときはお互い様だよ。怪我をしてたんだよな?傷はもう平気かい?』

『はい、私は軽傷でしたので。今は村の学校でイズール語のサポートをさせてもらっています。といっても今日からなんですが』

『私とティオの先生なんだよ。教え方も上手だし、クラスメートからも人気なの』

ライナがコードを褒め、コードは少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。



ん?まさか、娘のやつ、このコードという青年に気があるんじゃないだろうな?!



ウルマーが笑顔の下でそんなことを思っていたのは秘密である。



『そうだったんだな!こんな好青年に教わっておまえたちも幸せだな』

ウルマーがそういうと、後ろから咳払いが2つ聞こえてきた。


それはエマとカイだった。



『先生、聞きました?あのコードが好青年だなんて言っていただいております』

エマはハンカチで涙を拭くマネをしながら言った。

『えぇ、嬉しいですね。7年前の僕にも聞かせてあげたい、切実に』

カイは本気で少し目を潤ませて泣きそうになっており、眼鏡を外して目頭を押さえた。



『ちょ、やめてくれ。本当に、すみませんでした』

コードが二人に頭を下げた。よくわからないな、とウルマーは思った。






「ウルマー、ヘルムートから何か言われたか?」

ロドルフがウルマーに問う。

「あ、そうだった。こっちの部屋の人達に村のことを教えてやってくれって言われたんです」

ウルマーは躊躇していた。村の秘密を村外の人間に話すことにリスクを感じていたのだ。

その戸惑いを感じとったロドルフは心配ない、と言った。

「エマさんやコードくんはナディア様とアベル様と共にある存在。知る権利はある」

ウルマーはロドルフの言葉に違和感を覚えた。

「ナディア様?アベル様?一体どういうことです?」

なぜこの二人は様付けなのか。アクセルと関わりがあるからだとしても、昔から国王アクセルに様をつけない校長の言動としては不可解であった。


ウルマーの問いにロドルフはああそうか、と言った。


「お前はまだ聞いていないんだな。ざっくりいうと、ナディア様はイズールの王女様だ。つまり、アベル様はリズニア国の王子でイズール国の王孫でもある」



「えーーーっ?!?!」

ウルマーの大声が会議室いっぱいに響いた。




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