20話 イズールの事情
『王女、様?』
ライナがナディアを見てつぶやく。
ライナはナディアたちが裕福な貴族なのだろうとは思っていた。言葉や身のこなし、従者を連れているところからそれは明らかであった。
『こんな歳して王女様っていうのは少し恥ずかしいわよね。でも結婚してないから周りはそう呼ぶしかないの』
ナディアは少し恥ずかしがりながら、そして観念したように答えた。
『わ、わ、私失礼なことばっかり!!!』
ライナは青ざめながらちらりとアベルの方を見た。
ナディアがイズールの王女様ということは、アベルはイズールの王孫にあたるのだ。
"私そうとう失礼なことしか言ってない!"
ライナはアベルとケンカした時やリズニア語のレッスンなどでのことを思い出していた。ライナの顔は赤くなったり青くなったりで忙しい。
アベルはそんなライナを見て、あぁやっぱりと思いながら話す。
『こうなるのがイヤでだまってもらっていたんだ。村の人々には気を遣わせたくなかったから。本当は母さんは俺が目を覚ました時からずっと村長に話そうかとしてたんだけど、俺がわがままを言って黙っててもらったんだ』
アベルはライナを見つめる。その顔は不安の表情に満ちていた。
『その判断も一理ありますが、国王は貴方のことを全力で探すでしょう。コードに聞いたところ、アベル様への濡れ衣は簡単に国王様にバレるでしょうね。あの貴族はさほど頭がよろしくないのでどこかでボロが出るでしょう』
カイはさらりと言ってのけた。
『もしも村が王女を匿ったなどとイズールに知られれば、リズニアと戦争にもなりかねません』
『戦争、、』
ナディアがつぶやく。顔色がどんどん悪くなっていく。
『で、でも先生。アジール村は中立のはずです。そう先生から習いました。それがなぜリズニアとの戦争に?』
ライナがカイヘ疑問をなげかける。
『中立というのは表向きの話です。正確に言うと、リズニア側が数カ月早くここにたどり着いたのでここはリズニア領なのです。ここからは村長も交えた中で話しましょう。あと、できればここからはライナさんは席を外してください』
『なぜ?!』
ライナが声を荒げる。
『ここからは村の範疇を越える話です。こどもには教えられない話もあります』
『そんな…私誰にも言いません』
『カイ先生、ライナも同席させよう。俺から村長に頼む』
そう口を挟んだのはロドルフだった。
『校長、でも、、』
カイは抵抗する。自分のクラスの生徒のためを思って。
『ライナは村でも異端の存在。イズール側もアベルさんの傷を治したのが人族の少女と知れば黙ってないだろう。彼女も知っておくべきだ』
『校長先生、ありがとうございます』
ライナはロドルフに頭を下げた。
『では、皆さん、村長に話しましょう』
ロドルフが全員に声をかける。反対するものはもはやいなかった。
カイが村長たちを呼んでくる間、ライナとアベルが話をする。
『アベルは偉い人だったんだね。私全然知らなくて、失礼なことばっかり、、』
ライナはショックを隠せていなかった。恥ずかしいような悲しいようなよくわからない感情が頭を埋めていく。
『偉くもなんともない。少なくとも今は亡命してるわけだから身分なんてない。お願いだから、今まで通りでいてほしい』
『でも、王族、なんでしょ。こんな村人が近づいていい人じゃない』
ライナは泣きそうな顔をしていた。
『ごめん。ライナにそんな顔させたくなかったんだ』
アベルも辛そうに顔を歪めた。
その時、ドアがノックされてヘルムートとゲルデが入ってきた。
『皆さんお揃いで』
ヘルムートが声をかける。
それに答えたのはロドルフだった。
『ヘルムート、まずいことになっているかもしれない。実は、、』
『知っておる。アベルのことだろう?』
『えっ、』
校長は思いがけない村長の言葉に続きを言うことができなかった。村長が続ける。
『そのうち話をしようと思っていたんだが、実は、』
村長が続けた言葉は一同の想像の斜め上をいくものだった。




