19話 見え始めた事実
『この村のこどもたち、もしくはその親たちはほとんどがコンバーターかインバーターなんだ』
コードはカイによってさっき使った空き小部屋へ連れて来られた。二人は部屋にあったイスに座る。
『それは、どういうことですか?』
『簡単に言うと、この村のこどもたちの多くは、イズールやリズニア、その他の国から捨てられた子なんだよ。インバーターやコンバーターだというつまらない理由でね。そうじゃない子は村人同士のこどもだけど、その村人たちはほとんどが幼い頃に村に保護された子だ』
『魔力によって捨てられた、こども』
コードは言葉を失った。
ティオやライナ、そしてウルマーやマチルダがそういった捨て子だったことは知っていたが、まさか魔法が絡んでいたなど知る由もなかった。
『この村に保護されなければ、国外追放か物好きな貴族に売られるか、殺されるかだろうね。この村でも世界のそういう子たちを全員保護できるわけじゃないんだ。年間で10人程度が精一杯みたいだね』
カイは続ける。
『もっと詳しいことはヘルムート村長に聞くといいよ。あとさ、さっき言いかけたことなんだけど、いいかな?』
『はい』
『君はたしか、12歳の頃からアベル様の従者をやってたよね。まさか、君と一緒に来たのって、、』
コードはすっかり忘れていた。この人は、自分たちのことを知っているということを。
ここの村人は閉鎖的に過ごしていることがわかり、自分たちのことを知らないと高をくくっていた。
コードは無意識のうちに唇に手を当てていた。
"ここで嘘をついてもいずれバレる。どうすれば、、"
『ごめん、何か事情があるんだね。君は嘘をつこうとすると唇を触る癖があるから』
『そんなことまで覚えてたんですか?!』
『学年の裏ボスのことを忘れるわけないでしょう』
『やめてください、もう忘れたいんです』
コードは頭を抱える。
『事情を話してくれないかな』
コードはカイにまっすぐに見つめられ、観念した。カイはいつだってコードの味方をしてくれた人なのである。
『実は、、』
コードは事の一部始終を話した。カイはそれを静かに聞いていた。
『まさかと思うけど、大事なこと、村長に話してない?』
『、、、はい。ナディア様たちと相談して、変に気を遣わせるのは良くないからと』
『それはまずい。あのお方、ああ見えて相当ナディア様のことが大好きだからね。もしもその容疑が濡れ衣だということにあの人が気づけば、捜索隊とか出して君たちを探し出すんじゃない?』
『そんなはずは。ナディア様のことも、アベル様のことも避けておられて』
『どうしていいかわからなかったんだと思うよ。君たちは知らないと思うけど、ナディア様がお生まれになったときのあの方の溺愛っぷりはすごかったんだから』
『想像もできないですね』
『あれ、でも、きみたちソフィーさんには会ったよね?村長の秘書さん。彼女ならナディア様やアベル様のこと知ってそうなのに。イズールとの行き来してるのは彼女だし』
『ソフィーさん?俺は会ってませんが、、、でも、あのお方の性質上、外部にナディア様とアベル様のことを漏らすことはしないでしょう。先生もご存知のとおり、そもそもイズール全体で彼女らの話は禁忌ですから』
『たしかにあまり口にしてはいけない話題だったね。しかし困った。これは下手すると戦争のきっかけになりうる可能性もある。今日にでも村長に話そう。僕もついていくから。あと、ロドルフ校長にも来てもらおう』
『ナディア様に相談してからでないと。俺一人の判断では決められません』
『そうだね。とりあえず今日の放課後ナディア様たちと話そう』
こうして、コードの学校初日は教育とはかけ離れた思いもよらぬ方向へ進んでいったのであった。
その後ロドルフも交えて話し合い、あまり動けないアベルのことを考えて診療所で話し合いをする計画を立てた。コードがナディアたちを、ロドルフとカイが村長をそれぞれ診療所に誘導することにした。
◇◆◇
放課後、コードはライナの家を経由し、ナディア、エマ、ライナを連れアベルのいる診療所へ向かった。
ライナもアベルたちを助けた張本人として一緒に行くことになったのだった。
朝から広がっていた雲は着実に厚みを増し、今にも雨が降り出しそうである。
診療所の病室には他の患者はおらず、コードがゲルデに頼んで人払いをしておいてもらった。カイとロドルフはヘルムートと秘書のソフィーを連れて診療所に来た。ゲルデにはヘルムートとソフィーと別室に居るようにお願いした。
『ナディア様、アベル様、初めまして。私、カイ・ヴァルムと申します。村で教員をしています。こちらはロドルフ校長。エマさんはお久しぶりでございます』
『カイく、、先生、、その節は大変ご迷惑をおかけしまして!!』
エマはカイに頭を下げる。
『え、先生、どういうことですか?しかも、校長までいるなんて』
ライナは状況が全く飲み込めていない。それはそうである。自分の先生が、つい先日村に来た人たちと知り合いだとは夢にも思っていなかったのだから。しかも校長まで同席している。
『俺も村の創立者の一人だ。村全体に関わってくる話だからな』
『そんな大事なんですか?』
『カイ先生、ロドルフ校長、そのご要件は?』
アベルはカイたちを警戒しているようで冷静に言葉を紡ぐ。
カイは一息つくと、ナディアの方を向いて話し始める。
『コードくんから今回の話を聞きました。村長に身分を明かしてください。王女様』
厚みを増した雲からいよいよ雨粒がこぼれ始めた。




