18話 思わぬ再会
作業をしていた職員が一斉にコードたちの方を向く。
その気まずさに思わず後ずさりしたくなった。
「みなさん、失礼しました」
声を発したのはカイ・ヴァルムで、ずり落ちそうになる眼鏡を押さえながら頭を下げた。
『ちょっと部屋を変えようか』
ロドルフ校長も二人に気を利かせて空き部屋へ誘導した。
『えっと、コードさんとカイ先生は知り合いだったのか?』
職員室の2つ隣の空き小部屋の扉を締めて、ロドルフが二人に問う。
『はい。コードは私がイズールにいたときの教え子です。もう7年になるか。元気そうにしていて、本当によかった』
カイの言葉に、コードの心がポカポカと温かくなっていった。
自分のことをこんなにも覚えていてくれたことに感動を覚えた。
『先生こそ、お元気そうで良かったです。突然いなくなってしまわれたので心配してたんです』
『実はカイ先生を村に引き抜いたのは俺なんだ』
ロドルフは続けた。
『俺一人で村の子どもたちにイズール語を教えるのは限界で。何名か心当たりがある教員をイズールから引き抜いたんだ。カイ先生は人族への理解もあったし歴史に詳しいしな』
コードはひどく納得した。最適任だと。
『なるほど、そうだったんですね。先生が中等部にそのまま居てくだされば、、』
"アベル様はあんなに苦しまなかったかもしれない"
後半の言葉をぐっと抑え、コードは話題を変える。
『連れの怪我が治るまで数週間ほどここでお世話になることになりました。先生のサポートをしますのでよろしくお願いします』
『あぁ、そういうことか!先週ライナさんが連れてきた魔族って君たちだったのか!僕が行こうとしたらすごい人だかりで見えなかったんだ』
『その節はお騒がせしまして』
『なぁ、僕が学校を辞めたとき、コードはたしか、、』
その時、朝の職員ミーティングを知らせる鐘の音が鳴った。
『じゃあ、二人とも、中等部を頼んだよ!』
ロドルフは二人の背中をトンと押した。
◇◆◇
コードは教室につくまでの間に、カイから授業の仕組みを説明された。中等部では基本的に学年関係なく授業を受ける。語学に関しては講義と演習と会話実践に分かれており、講義は全学年共通で全員で受け、演習は個々の学力に合わせて教材が与えられ、その都度教員に質問するというものだった。会話実践は数グループに分かれてディスカッション形式で行う。コードが必要とされるのは演習と会話実践だった。ちなみにカイは中等部の担任も任されている。
教室につくと15人の生徒たちが席に着いていた。男子と女子はほぼ同数で一人だけ男子が多い。その中にはライナとティオもおり、隣同士に座っている。生徒たちはコードを見るなりざわざわと騒がしくなった。顔を赤らめる者、隣の生徒と会話する者など様々だ。カイは生徒たちにコードを紹介する。
『今日からしばらくの間、イズール語の授業で私のサポートをしてくれることになったコード先生です』
『コードです。先日から村にお世話になっています。イズール語の演習と会話実践でサポートすることになりました。数週間ですが、よろしくお願いします』
コードの挨拶が終わると生徒たちからは拍手が起こる。
「うちらラッキーだわ」
「目の保養だ。。ケリー派なのは変わらないけど!」
「あ、この前村に来た魔族の人だ!俺見に行ったから知ってる!」
女子からの支持が多いようで、キャーキャーと騒いでいる。生徒たちは基本的にリズニア語で会話するが、初等部のときからイズール語も使っているので難なくコードの挨拶を聞き取ることができていた。ライナとティオはこうなることが予測できていたようで、二人は冷静に会話をしている。
「まぁ、こうなることはわかってたね」
「そうだな。若い先生少ないしな」
「キラキラしてて、ほんと苦手だ」
ティオの隣に座る一人がボソッ言った。
"あれがケリーか"
コードはティオの隣に座るその生徒を見た。
プラチナゴールドに黒が交じる髪に、褐色の肌はリズニア人にはない特徴。長い腕を頭の後ろに組み、こちらを睨みつけていた。皆座学用の制服を着ている中、その生徒だけは実習着に身を包み、長ズボンの脚の部分はロールアップしていた。
その存在はライナとティオから聞いていた。
自分たちの幼馴染なんだ、と。
コードはケリーからの敵対するかのような鋭い視線に耐えられず、目をそらした。
「今日は午後から畑の作業もあるから気をつけるようにね。ではこれでホームルームを終わります」
カイはホームルームを締めて、コードと共に教室を出ようとする。が、コードは主に女子からの質問攻めにあい、なかなか教室から出れないでいた。
『先生、好きなタイプは?』
『イズールってどんなとこなんですか?』
『か、彼女は?!』
『どうやって村に来たの?』
コードは驚いて動けないでいた。
それを見かねたカイは助け舟を出す。
『君たち、一時間目はリズニア語演習でしょ?準備しなさい』
カイ先生は優しくもはっきりと生徒たちに告げた。
やばい、準備しないと!と生徒たちはさっと切り上げ授業の準備に入った。
コードはふぅっと息を吐いたのだった。
◇◆◇
『驚いたろ?』
カイは廊下を歩きながらコードに問う。
『はい。こんなに歓迎してもらえると思っていなかったので』
コードが予想していたのは、しんと静まり返りヒソヒソと陰口を言われる姿だった。
『しかも、魔族も人族も関係なく仲良くしているなんて』
コードが見たところ魔族が5人ほどいたが、全く孤立などしていなかった。
『ほんとにさ、魔族と人族って何なんだろうね。悪いのは大人なんだよ。大人が、特に親が悪いといえば子どもも悪いと思ってしまう。その循環を断ち切ればこうやって生活できるもんなんだよ』
カイは少し寂しそうに笑みを浮かべる。
コードは先日村長に村を案内してもらったときにもその雰囲気を感じていた。が、身近に触れ合ってみると今まで味わったことのない温かさを感じたのだった。
しかももう一つ気になることもあった。
『あの、先生。人族のこどもたちの方から個人差はあるものの魔力を感じたのですが、、どういうことですか』
そう。本来であれば魔力を感じるのは魔族の子どもたちのはずである。しかしそうではなかったのだ。
コードは魔力感知に関しては人並み以上の能力を持っている。
『あぁ、村長から聞いてなかったか。それこそがこの村ができた由縁だよ。コードはインバーターって言葉、知ってるかい?』
コードはその言葉をよく知っていた。それはアベルが苦しめられてきた言葉の一つだったのだ。
『ええ。魔族から生まれる魔力を使えない人々ですね』
その言葉は表のものではない。
事情を知る者のみが使う、秘密の言葉。
『そう。インバーターは新月暦990年代頃から発生し始めたと言われているんだ。コンバーターも同時期に発生した、インバーターの逆。つまり、人族から生まれる魔力を使える人々のことさ』
カイが冷静に続ける。
『まさか』
コードのつぶやきに、カイは小さく頷いた。
『この村のこどもたち、もしくはその親たちはほとんどがコンバーターかインバーターなんだ』
カイの言葉は、コードの頭の中を幾度も駆け巡っていった。




