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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第1章 はじまり
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16話 イーリス家の真実

『お前さ、どう思ってるわけ?』


アベルはティオの部屋に引きずり込まれ、開口一番そう言われた。

傷口が一瞬痛んだけれど、血が出るほどではなさそうであった。


ティオは不機嫌そうに眉を顰めていた。

『どうって?』

『ライナのことに決まってるだろ。おまえ、その、す、す、好きなのか?!』

ティオは顔を真っ赤にしてアベルに尋ねた。


『よくわからない。俺、人を好きになったことなくて。でも、ライナにはすごく感謝してるし、もっと知りたいって思ってます』

アベルがティオに素直に答える。アベルは堂々とティオを見つめた。二人の視線がバチバチとぶつかる。

『俺はお前を認めない。ライナを落ち込ませるようなやつなんか。心当たりあるだろ?』

『ある。申し訳ないことをしたと思ってます』

『仲直りしたみたいだけど、お前にはライナを任せられない』

『すみません。ティオくんは、妹さん思いなんですね』

『はは。それだけならいいんだけどな』

自嘲気味に笑いながら、ティオが答えた。


その言葉に、今度はアベルが眉を顰めた。



それは、まるで。




『それだけじゃ、ない?』

アベルはここに来て、マチルダやティオを見たときの違和感を思い出した。


何か重大なことを、見落としている?


そうわかっていながらも、都合の悪いことは気付かないようにしようとするのが人間である。そして、アベルの心の奥底にもそんな感情が隠れていたことに、本人は気づいていない。いや、気づこうとしなかったのかもしれない。



『だって、君達は兄妹』

『お前、ライナから聞いてないのか』

ティオははぁと小さくため息をついた。

『え?』

『俺たちに血のつながりはない。この家族で血がつながってるのは両親とミリーだ。俺はイズールで、ライナはリズニアで保護されて連れてこられたんだ』


アベルは言葉を失った。



これこそが違和感の正体だった。

マチルダとミリーはどことなく似ていた。

しかし、ライナとティオはマチルダに全く似ていなかった。


容姿だけ見てもイーリス家には多くのちぐはぐが混在していることに、アベルはこのとき初めて気がついたのだ。



『ティオくんは、ライナが、好きなんですか?』

アベルの問いにティオの頬が紅色に染まっていく。


それが答えなのだと、彼の表情が物語っていた。


『そういうんじゃない、俺は、、』

そう否定していても、もはや説得力はなかった。



"ティオくんは、ライナが好き"

そう思うと、心が締め付けられそうになった。


わからない。この気持ちの名前が。


アベルは気持ちを落ち着けるために深呼吸した。そして、小さく口を開いた。



『ティオくん、俺は今自分の問題を解決しないと先に進めないんです。ライナは大切な友達です。俺はそう思ってる』


それは、アベルが自分自身に言い聞かせた言葉だった。


そう、今片付けるべきは自身の父親の問題。

それが解決しない限りは今後の方針が立たない。



でも、もしも、もしもこのまま村に居続けられることになったら、そのときは、、、



そこまで考えたところで、ティオがポツリと言葉を漏らした。

『ごめん、俺、すごく女々しいな。悪かった。ティオでいいし、敬語もいらない』

アベルもその言葉に、わかったと答えた。

そして、一つわかったことがあり、口を開いた。

『あ、俺がライナのこと怒らせた原因の一つ、わかったかもしれない』

アベルは一つ思い出したことがあった。

『なんだ?』

『俺、助かったとき自暴自棄になってて、ライナに『魔族でも人族でもない俺は生きている意味がない』って言ってしまったんだ』

それを聞いたティオはうわぁ、、と眉を顰めた。

『それさ、ライナに殴られなかったか?グーで』

『いや、パーだった』

『パーもきついな。俺もさ、実は7年前にミリーが生まれたときに、そんなことライナに言っちゃってガッツリやられたんだ』

ティオは当時を思い出したかのように左頬をさすった。

『うわ、、』

アベルはティオの痛みを思うと同情を禁じ得なかった。


『あいつにとって差別はタブーだからな。昔から。あと、ミリーが大好きなんだ』

『そうか。改めて謝らないとな』

『あと、ライナにあんまりこういう話しないでやってくれ。前のあいつ見たくないんだ、辛そうで』


ティオが苦しそうな表情を浮かべたのを見て、アベルは詳しく聞くことを躊躇った。


『わかった、気をつけるよ。あ、そういえばライナから聞いたんだけど、歓迎してくれたときの光が出る筒、ティオが作ったって』

『そう!あれ新しい発明なんだ。火魔法の威力を最小限に制御するのと発光色を変えるのがなかなか難しくてさ』

『ティオ、すごいな』

『俺、生まれつき魔法が苦手でさ。魔道具の発明で魔族と人族の溝が埋まればいいなって。まぁ、自分が魔法を使いたいっていうあこがれを捨てられないだけなんだけど』

『そう思えるのがすごいよ。魔法が使えないという点だと俺も同じだ』

俺なんてこれっぽっちも使えない、とアベルが言うと、ティオは少々苦い表情をした。何かモゴモゴと言おうとしたけれど、諦めたように見えた。

『ちなみにミリーは風と土の魔法が使える。ハーフのそのへんの違いがもしかしたら魔道具のヒントになるかもな』

『俺が退院したらさ、ティオの研究手伝わせてもらえないか?』

『アベル、村に住むつもりなのか?』

ティオは目を丸くした。

『俺はイズールに戻れないし、戻りたくもない。それにこの村に助けてもらった恩を返したい』

『手伝ってもらえるなら大歓迎だ。アベル、想像してたよりいいやつだな!』

ティオが今日一番の笑顔を見せた。



なんだか、その笑い方が少しライナに似ている気がした。




『ライナにも同じようなこと言われたような。。』

『ちなみに、ライナは渡さない』

『それはライナが決めることだろ?お兄様』

『呼ぶな』

あははは!!と二人同時に笑い出した。



◇◆◇

ライナの心配をよそに、ティオとアベルは二人でリビングに仲良さそうに降りてきて、エマとナディア、コードとミリーも巻き込んで魔道具の新作について話し合い始めた。


ライナはそれをキッチンから確認すると安堵のため息をついた。

隣りにいるマチルダがニヤニヤと視線を送ってきているのを無視し続けて。



『ねぇ、ライナ。どっちを選ぶの?』

『ミリーかな』

『もう、はぐらかさないでよ。ティオとアベルくんよ』

『何もないよ、お母さん。私はそんな余裕ないの』

『私はライナが幸せになれるのが一番だからね』

『私、ミリーになりたかった。そしたら余計なこと考えずに恋愛できたのかも』

『ミリーはミリー。ライナはライナよ』

『私ね、アベルとケンカしたとき『俺なんか生まれてこなければ』って言われたときにはっとしたの。私もそうだったんじゃないかって』

『ライナ?いい加減になさい』

マチルダはライナに強い口調で言った。

『ごめん、私何言ってるんだろ?今はすごく感謝してるの、お母さんにもお父さんにも、この家族にも、村のみんなにも。私もみんなのとこに行くね!』

ライナはニコッと笑顔をつくると、仕事を終えリビングへ向かった。


『ライナ。あれはあなたのせいじゃないわ』

マチルダは小さくつぶやくと、ぎゅっと拳を握った。



◇◆◇


『アベル、傷はどう?』

皆で談笑しているときライナから尋ねられ、アベルは傷を確認した。大した痛みもなければ出血した様子もなかった。

それを伝えるとライナはよかったと安堵のため息をついたのだった。




呼び鈴が鳴った。


ライナが応対しに行き、それに次いでマチルダもリビングを出ていった。


『誰だろう?』

アベルが呟くと、コードも首を傾げた。

一方でティオとミリーはニヤリと悪戯な笑みを浮かべた。


誰が来たんだ?そう聞こうとした瞬間、その声が聞こえてきた。



『ふふ、小僧。元気そうで何よりだ』



そう言って現れたのは、まさかのゲルデ女医だった。



まさかの登場にアベルとコードの目が点になる。

さらに驚くことに、その後ろからヘルムート村長が顔を出した。

二人がセットであらわれるのは夫妻だからわかるのだが、なぜこの二人がイーリス家に来るのかが理解できなかった。



『デザートも食ったんだろうけど、レモンとチーズのケーキも焼いてきたんだ。ありがたく食べな、小僧たち、孫たち(・・・)よ。』


その言葉にアベルとコードはまたもや目が点になった。



孫?

孫と言ったよ、この人。


アベルとコードは顔を見合わせ、普段は出来ないテレパシーで会話したかのように頷いた。


『ま、ご?』

『そうさ、孫。なんだライナ、まだ言ってなかったのかい?』


『だってそのほうがびっくりするかなって思って』

ケーキの入っていると思われる大きな箱を持ってライナが現れた。

その顔には悪戯な笑みが浮かんでいた。




『『先に言ってよ!!!』』



アベルとコードの言葉がイーリス家中に響いたのは言うまでもない。




アベルはここで驚愕の事実を知ることになった。

まずは、ヘルムートとゲルデがライナたちの祖父母であること。そして、マチルダとウルマーが姉弟であったことである。


『姉弟?!』

『血の繋がりはないさ。この村は他国の捨て子を保護することも多くてね。ウルマーはリズニア人、マチルダはイズール人で、歳も一つ違い。姉弟ってよりは同じ屋根に住む幼馴染って感じだったんだ』

そのゲルデの言葉に、アベルの心臓は少し鼓動を速めた。


"幼馴染に近い"

ライナが朝そんなことを言ってたのを思い出したのだ。


それはつまり、二人もウルマーやマチルダのようになる可能性が高いのでは。


そう考えたらなぜだか苦しくなった。



そんなアベルをコードが優しく見守っていたことに、アベル本人は気づいていなかった。




ゲルデが持ってきたケーキはしっとりとしていて、爽やかな甘みが口いっぱいに広がるものだった。

沈む気持ちが少しばかり浮き上がり、アベルは元気を取り戻した。

『美味しい』

『でしょう?おばあちゃんは料理上手なのよ。医者だけあって手先が器用なのね、やっぱり』

ライナは誇らしげに言った。

『お前は料理のイロハから覚えないとな。健康効果にこだわりすぎて味に無頓着すぎるんだよ』

ティオが遠い目をしながら言い、イーリスの人たちも激しく首肯した。

『うるさいわね、ティオ。あれは、その、失敗したのよ少し』

『少し?!』

『悪かったわね!どうせ私よりもケリーの方が料理上手ですよー』

『あいつは見た目によらずきっちり分量計って作るタイプだからな。お前の"目分量"とは違うんだよ』

『ふん、ティオは心配性すぎて何でも焼きすぎるくせに』

『それは、生焼けで腹壊したくないからだ!少し焦げてるくらいどうってことないだろ?』

『少し?!』

二人のやり取りが漫才のようで、アベルは吹き出してしまった。コードも隣でお腹を抱えて笑っている。


ケリーとは何者なのか、聞きそびれてしまうくらいに、二人は笑い続けた。





夕方になり、アベルが帰る時間になった。玄関先でみんなが見送る。コードとライナは診療所まで送っていくことになった。

『また来いよ!今日は楽しかった』

『俺も。また話そう』

ティオとアベルはすっかり打ち解けたようであれからずっと話していた。

『コード、ライナさん、アベルをお願いします』

ナディアが二人に頼む。

『道覚えたし、一人でも大丈夫だぞ?』

アベルが二人に申し訳なさそうに言う。

『いえ、俺が行きたいから』

『石に躓いて転ぶかもしれないし』

コードとライナが即答する。

『そうならないと信じたいな。ありがとう。皆さん、ありがとうございました』

アベルはみんなに頭を下げて出発した。




夕焼けの中、来たときのように3人で並んで歩く。

『まさか、ティオとあんなに仲良くなるとは』

信じられない、と付け加えながら言ったのはライナだった。ティオが初対面の人と仲良くなることは今までなかったらしい。

『ちょっと妬いちゃいますね。どんなこと話したんですか、二人で』

コードがニヤニヤしながら聞いてきた。

『別に、あれだよ、世間話』

『ふーん』

ライナはアベルが連れ去られるシーンを見ているので未だに全然信じられずにいた。

『気が合うっていうか、好みが合うっていうか』

『好み、ねぇ』

意味深に更にニヤニヤするコードを見て、アベルは少し頬を赤らめた。

『そ、そうだよ!そういえば、ライナもルロの実食べてなかったな』

ルロの実とは、果樹から採れる赤い実のことで、甘酸っぱく爽やかな味がする。が、アベルの口には合わなかった。

『私もダメなの。蕁麻疹でちゃうのよ』

『そのレベルで?!俺のは単純な好き嫌いだから』

『けっこう美味しいですけどね。イズールでは貴重な栄養源ですから本当は積極的に食べてもらいたかったんですけど』

『冷夏で作物が全然だめだった年は流石に食べたさ。食べなくてもちゃんと背も伸びてるし、文句ないだろ?』

『早く俺のこと抜かしてくださいね』

コードの挑発に、アベルはふっと鼻で笑った。

『後2年もあれば抜く。あと5センチなんて余裕だ』

『いいなぁ。身長ほしい』

ライナはアベルよりも10センチ以上小さい。

『ライナはそれくらいで十分だと思うけどな』

『背が高ければ舐められないじゃない、何かと。将来はおばあちゃんみたいになりたいの』

ライナは瞳をキラキラさせて言う。


『『それはやめようか!!!』』


アベルとコードの声が揃う。二人の頭の中ではゲルデが高笑いしていた。

コードにいたっては顔が青くなっている。

『コード、お前、何かされたのか?』

『未遂でしたけどね。あの方には逆らえません、絶対に』

『?』

アベルとライナは首をかしげた。



『まぁ、とりあえず、今は治療に専念する。早く村の中を見てみたい』

『案内ならまかせて。あ、それともティオにお願いしようか?』

『ライナがいい。嫌なのか?』

『ううん、お兄ちゃんとのほうが楽しいかなって思って』

『もしかして、嫉妬』

アベルが心なしか目を輝かせて尋ねた。

『あー、急に予定が入りそうな気がするなー』

『すみませんでした。ライナ様がいいです。よろしくお願いします』

アベルが頭を下げると、ライナがふふっと楽しそうに笑った。

『そんなに言うなら』

はははと二人で笑い合う。


『青春、ですね』

コードは二人に聞こえないようにボソッとつぶやく。その瞳は嬉しそうに二人を見つめていた。




こうして休日は終わりを迎えたのだった。




◇◆◇

夕日が沈みかけた道を、ヘルムート夫妻が歩いていた。


「そう言えば、アベルたちはわかってるんだろうか?」

「何を?」

ヘルムートの問いにゲルデは問いで返した。



「村の人々の秘密を」



「んー、どうだろうな?何か思ったら聞いてくるだろ。あたしから説明する義理はないね」

「それもそうか。彼らがここに永住することになるなら知らねばならないだろうがな」

「どうだろうね。アイツのことだ、リズニアに連れて行こうとするかもしれんよ」

「しかし、それは色々とマズいな」

「あぁ、マズい。ったく、村を巻き込まんで欲しいな」


二人はその後、言葉少なく家路を辿った。




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