小話1 気に入らない
ライナが魔族を助けた。
村はしばらくその話題で持ち切りだった。
貴族らしい4人組だと。
二組の親子で皆素晴らしい容姿なのだと、診療所に運び込むのを手伝ったという警備隊が言っていた。
気に入らない。
何が気に入らないって、ライナがそいつら、ましてや息子の方の見舞いに毎日のように出かけるのだ。
もう卒業まで大して時間があるわけでもないのに、もっと3人で過ごす時間を大切にしたいのに。
そりゃ、ライナは目の前の困っている人を放ってはおけない性格だし、自分の妹も少し前に治してもらったし。
わかってはいるんだ。
「ってわけなんだよ、ティオ!!!」
「わかった、わかった。落ち着け、ケリー」
4の月8日目、夕刻。ここは自分の部屋。
今来ているのはティオ一人。いつもならここにライナもいるはずなのに。
彼女は今日もまた魔族の見舞いに行った。アベルという、自分やティオより一つ上の少年なんだとライナが少しはにかんだように言ったのがまた辛い。
「悔しい」
「相手は怪我人なんだ。しょうがないだろ」
ティオはそんなことを言いながら、テーブルの上のクッキーに手を伸ばした。ん、うまい、と幸せそうにもぐもぐと食べている姿がかわいい幼馴染である。
今日のクッキーはナッツ入りの、少し塩味の効いた彼の好きなやつである。
「しょうがなくない。ライナのこと横取りされた」
「あのな。ただ、リズニア語教えてやって、イズール語教えてもらってるだけらしいぞ」
そんなことを言いながら、ティオがもう一枚、とクッキーに手を伸ばした。
うん、作った甲斐があるというものだ。
いつもならばそんな彼の可愛らしい姿にストレスも吹っ飛んでしまうだろうけれど、今日はそうもいかない。
「いいか、男は狼なんだよ!あんな天使のような子が側にいたら惚れるに決まってるだろ?!虫が、虫がつく!!!しかも二匹も!!!」
「はいはい」
「ってか、ティオ、いいのか?!ライナがどこぞの馬の骨に攫われるかもしれないんだ。お前になら、まだ許せるのに」
この幼馴染は物心がつく頃からライナが好きだった。
彼は"兄妹"という枠に縛られて動けないでいる。
この村の特性上、そんなに意味のないものであるのに。
だから自分がサポートしてやらねば、そう思っていた。
「お前な」
そう言いながらも、ティオは顔を真っ赤にしていた。
照れて可愛いやつだ。
俺だって嫌だけどさ、なんて小さく付け加えるあたりも控えめで可愛い。
そう、ティオは可愛いのだ。
焦げ茶のくせ毛も、琥珀色の瞳も、コロコロと変わる表情も。
背丈こそ自分と同じくらいになってしまったし、男らしい顔立ちになってきたけれど、まだまだ可愛い。
そんな幼馴染のためなら、このケリー、一肌でも二肌でも脱ごうじゃないか。
「よし、これから乗り込もう!診療所に行くぞ」
「待て。いきなり乗り込んでケンカなんかしてみろ?ライナに嫌われるぞ」
それは的を射ていた。
ライナに嫌われるのは嫌だ。
「うぅ、、、」
「たしかにさ、3人で今まで通り過ごせるのはあと数ヶ月だけどさ、一年我慢すればまた」
「嫌だ。彼女が村に居るのはあと4年なんだよ。そのうちの1年を学校の行き帰りだけで我慢しろって?授業に真剣に取り組むあの美しい横顔が見れなくなるんだぞ!?」
「気持ち悪いな。ってか授業に集中しろ」
ティオに言われて気づいた。たしかに、相当気持ち悪い。が、しかし。そう言ってはいられない。
唯一の村立学校は、規模の関係から3学年で一教室利用するのだ。中等部生は全員同じ教室で過ごす。そして自分とティオはこの7の月で中等部を卒業する。そうなると、一つ下の学年であるライナと教室が離れてしまう。繋がってはいるものの、もはや別棟ともいえるほど離れてしまう。
「とにかく。ティオ以外の男は認めない」
「はぁ、、だったらいっそケリーがライナを」
ティオは冗談のつもりでいったのかもしれない。
「それも選択肢にある」
「あるのかよ!」
自分の言葉に偽りはない。
「俺、イケメンじゃん?背もそこそこあるし。ライナの好みではあると思うんだよね」
ライナともずっと一緒に居たい。
できればずっと3人で過ごしていきたい。
先の4年でライナが考えを改めてくれないかと切に願っている。
「俺って。まぁ、無駄にイケメンだからな。ほんとにさ、お前らといると自分の凡人さ加減に嫌気がさす」
ティオは琥珀の瞳を伏せた。
そんな表情もそそられる。
あぁ、やっぱり。
「そんな落ち込んでるティオも可愛いよ」
「お、お前!可愛いとか言うな!そして、その笑顔を俺に向けるな」
ティオが真っ赤になった。
そんな顔が可愛くて、もっといじめたくなる。
「いやー、お前達兄妹から選べる俺って、幸せ者?いや、選べない!一夫多妻制とかマジで憧れるよな。どうせならウェルダの王族に生まれたかった」
ウェルダ王国。それは自分に縁がないわけではない人族の国の一つ。王族は神の血を引いていると言われており、それを絶やさぬようにと一部の王族のみ一夫多妻制が認められている。
「その場合俺は何だ?お前の妻か?」
「ふふ。最っ高だな」
「まぁ、、、いや、遠慮する」
「連れないやつめ。なぁ、ティオ」
なんだよ、とティオが返事をした。
まっすぐに彼を見つめた。
「負けんなよ」
言葉とは裏腹に、心の奥底に何かが刺さった気がした。
気のせいだと、思うようにした。




