11話 お守り作り①
6の月23日目の夕方前。
学年末と飛び級試験を月末に控えている中、ライナは学校の放課後にゲルデの遣いで北の森で薬草の採集をしていた。息抜きにと思いライナも快諾した。この日は護衛として村長秘書であるソフィーが一緒だった。今回は警備隊の一員として護衛という立場であるそうだ。いつもならティオやケリーがついてくるのだが、今日は外せない用事があるとのことだった。
「あぁ、久しぶりにライナとデートできるなんて、幸せだわ」
ソフィーはピンクブラウンのサラサラとした長髪を耳にかけながら言った。その仕草にライナは少しドキドキしてしまった。ソフィーは二十代半ばの女性で容姿端麗であり、村の男たちの憧れ的な存在なのだ。そんな人が自分に良くしてくれるのが未だに信じられない。
「ありがとうございます。ソフィーさんがいると心強いです」
ソフィーは村長の秘書であり、イズールとの貿易の取り仕切りをも任されており、そして村の警備隊の男たちから姐御と言われるほどの実力者なのである。まず間違いなく村の女性の中では群を抜いて強く、男性でもトレーニングを積んでいない人は一瞬で投げ飛ばされてしまうほどであった。
「最初はギルがライナの護衛に回るところだったのだけど、村長を説得して正解だったわ。ふふ、少し見ない間にまた麗しくなって。あ、今回はお土産なくてごめんなさいね」
「いいえ。ティオがいつもソフィーさんに申し訳ないって言ってて。今回はほっとしてるみたいです」
「私としてはイズールのお土産でライナとのデートの権利を買ってるようなものよ。ティオくんとウィンウィンの関係のはずなんだけど」
そう、実はティオの魔法道具づくりに必要な材料はイズールでしか手に入らないものも少なくなく、かといってティオの小遣いだけでどうにかなるようなものではなかったのだ。そこに目をつけたのがソフィーで、彼女はティオに材料を提供する代わりにライナとデートさせてくれと頼んだのであった。ティオはライナに相談し、ライナも快諾したのでこの妙な関係が出来上がっているのであった。かれこれ3年前からの話である。そんなことが可能であったのはソフィーやその友人達がライナ達と十年来の付き合いであることも大きい。彼らはイーリス家と家族ぐるみの付き合いなのであった。ライナたちを罠にはめようとしたスタンも実はその一人であったが、彼は就職したと同時に研究で忙しくなってしまい疎遠になっていたのだった。
「もう。そんなこと言ってても何も出ないですよ」
「幸せだわ。でも、あいつが潜んでる可能性もなくはないからさっさと採集してしまいましょう。デートの時間が短くなるのは嫌だけれどね」
「すみません。本当に」
「貴女は悪くないわ。うちのバカ兄貴がやらかしただけよ。まさかよりにもよって私のライナに手を出そうとするとは。今度見つけたら八つ裂きよ」
「いや、監禁されていただけみたいですし」
八つ裂きという言葉に少し引いたライナがソフィーをなだめた。ライナはソフィーが八つ裂きといえば本当にやりかねないことを知っているのであった。
「体に傷はない?服を破かれてたりとか」
「そういうのは一切ないです。蛇の毒にはやられてたみたいで、おばあちゃんが解毒してくれましたけど」
「それ立派な殺人未遂よ。あんなに優しいと思っていたのに、私も騙されていたのね」
ソフィーは少し寂しそうな顔をした。ライナはその理由に気づいていた。
「ソフィーさん」
「あの人ね、私が10歳の時、囚われてたところを保護してくれたの。言われてみればあのときも無詠唱で雷撃を連発してたわ」
「そう、だったんですね」
ライナはそれを知っていたもののあえて知らなかったものとしてやりすごした。村は狭いので、誰がどんな目にあって村に来たのかというのはだいたい耳に入ってくるのであった。特にソフィーの扱われ方はひどいものだったこともあり、オブラートに何重にも包まれながらも少年少女たちの耳にまで入ってきてしまったのだ。
「まぁ、人には色んな面があるってことよね」
ソフィーは少し寂しそうに笑った。
ライナは何も言えず、ただただ申し訳なさでいっぱいになってしまった。
「ごめんなさいね、ライナにそんな顔させたいわけじゃないのよ」
「でも」
「兄はたしかに命の恩人だけど、私とは8個も離れてて、一緒に暮らしたのも一年くらいだからほとんど他人みたいなもんよ」
「それでも、私さえいなければ」
「それ以上は言わせないわ。ふふ。今度美味しいパンをごちそうするわ。エリーゼのところで新作ができたんですって。一緒に食べに行きましょう?」
「はい、ありがとうございます。楽しみです」
ライナは笑顔を作った。
二人はその後もしばらく森で採集を続けた。
◇◆◇
同じ頃、診療所のゲルデの元をティオとケリーが訪れていた。二人は普段着を着ている。ちなみにケリーの普段着は男物の服をである。スカートのスーっとする感覚が苦手だという理由であった。学校でも滅多なことで座学用のディアンドルは着ないほどであった。
「おや、二人きりでこっそり来たってことは、、おめでたか。ティオもなかなか隅にに置けないやつだな」
「違う!ばあちゃんまでからかうんじゃない!そしてまだそんな歳じゃない!」
「ゲルデ先生、今日はライナのことで来たんだ」
二人の顔は真っ赤になっていた。
「ふふ、青春だな。で、話を聞くよ」
「ライナが少し思い出してるみたいだ。思っていたよりも早く思い出せるかもしれない」
「焦ってはだめだ。下手をして精神に支障が出たり、記憶がもどらなくなることもあるらしいからな。とにかく聞かせな」
ティオとケリーはライナの現状について説明した。
ゲルデは腕を組み、んーと唸っている。
「まだ弱いな。タイミングとしてはやつの外見的特徴とか言動、行動などをある程度思い出してからだな」
「そうか」
「さっきも言ったが、焦りは一番よくない。本によると、無理に思い出そうとしてうつ状態になって突発的に自殺した例もあるらしい」
「自殺」
「そんなことは絶対にさけなくちゃいけない。あいつも辛いとは思うが、優先順位はライナの心だからな」
「わかった」
「何かあったらまた相談しに来ます」
「違う件でもいいからな。まぁ、責任が取れるようになってからのほうがいいとは思うが。どっかのアクセルみたいになるのもなぁ」
ゲルデは二人を交互に見てニヤついた。
「「ないから!そして伏せられてないから!」」
二人は声を揃えて言った。
ゲルデは大笑いした。
二人は診療所を後にした。
「ばあちゃん、ひでえ。悪かったな、なんか」
ティオはさっきの内容を思い出し赤面した。
「いや、大丈夫。ってか国王様のことなめすぎだよな」
二人は少し顔を青ざめさせた。
「ほんとだよ。本国だったら不敬罪とかで捕まるレベルだ」
「この村は昔から国王様のこと知ってる人が多かったんだな。マチルダさんやウルマーさんだけでなくルーさんとかも昔一緒に遊んでたらしいし」
「ここの村人こわっ。なんだかんだでナディア様がイズールの王女様でリズニアの第二妃になったこととか、アベルが王子になったことだってみんな知っちゃったしな。いつライナの耳にいろんなことが入ってしまうかヒヤヒヤする」
「村長の口止めが効いてくれることを祈るだけだ。いやぁ、アベルが王族だったなんてあたしも驚いた。それこそ不敬罪で殺されるのかもって一晩眠れなかったからな」
ケリーはそんな内容を感じさせない涼しい笑顔で言った。ケリーの指すそれは、アベルとの決闘だの顔に蹴りを入れたことなど多岐にわたる。
「あれはケリーのおかげで俺もスッキリした。ありがと」
「負けたけどな。今度来たときは全力で潰す。王子だろうがなんだろうが関係なく」
「さっきと言ってること違わないか?なぁ、このあとなんだけどさ、俺の部屋来ないか?」
「え、あ、え?」
ケリーは突然の提案にどぎまぎしてしまった。さっきのゲルデの言葉もあり、顔を赤らめた。
「変に動揺するな。俺まで恥ずかしくなるだろ。ライナにさ、お守りでも作ってやろうかと。ケリーが協力してくれたら、ちょっと魔法的な工夫もできるし。あいつも喜ぶと思うし、さ」
ティオもまた顔を赤らめていた。ティオは右手の人差指で頬をポリポリとかいていた。
「そうだな!そりゃいい。どんなもの作る?」
ケリーは目を輝かせて言った。その様子にティオはほっと安心したような顔を見せた。二人は会話を続けた。
「カバンにつけられるような、鈴みたいなものはどうかなって。父さんが昔買ってきたトワナの鈴がすごくいい音がするんだ。試作品は何個か作ってみたんだ」
「鈴か。オシャレでいいじゃん。金属加工ならティオの得意分野だしね」
「でさ、ケリー土魔法つかえるだろ?それを応用して音がなったり、ならなかったりを調整できるやつにしたい」
「とたんに高度な感じになったな。楽しそうじゃん。やろう」
ケリーは満面の笑みを浮かべ、ティオも自ずと笑顔になった。
こうして二人はイーリス家へ向かったのだった。




