↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女は3×8メートルの範囲をモップで磨いでいる。  作者: 和田好弘


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/27

09_いろいろと心配しかありません


 子供たちに軍手と移植ごてを渡し、芋ほりを開始してもらいます。


 とりあえず、手本代わりに芋を掘り出して見せましたから、多分大丈夫でしょう。


 ではその間に、私は子供たちの服を洗濯をしていまいましょう。あまりに傷んでいるようなら、補修もしておきましょうか。


 子供たちの服は一様に同じようなもの。貫頭衣っぽい感じですね。いえ、あれが一番近いでしょうか。中東の男性が着ている民族衣装。あれの白いものが一番近いでしょうか。もっとも子供たちは腰のところを、帯……いえ、これ、紐ですね。紐を帯代わりにして縛っていますが。

 もちろん、それに加えてズボンもあります。少々ダボっとしたものですが。


 ……どちらも白無地ですね。かなり薄汚れていますけど。


 あ、あれ? とすると、野良着、完全にやらかしましたか? 私。


 シャツにもんぺという、古式ゆかしい野良着を用意したのですが、柄物です。もしかすると染色された布地というのは、孤児には過ぎた代物なのかもしれません。これが原因で変な輩に絡まれたりしなければいいのですが。


 そのあたりは、セルマさんに期待しましょう。


 私は容赦なく洗濯機に放り込んで、スイッチオン。


 あとは待っていればいいですね。名前が刺繍されていましたから、どれが誰の服かわからなくなることもないでしょう。


 さて、みんなのお茶の準備もしておきましょうか。


 茶菓子はサツマイモとして、干し芋、いえ芋ようかんにしましょうか。お茶は……みんなの年齢を考えると、ミルクの方がいいかもしれませんね。小さい子にはお茶は苦すぎるかもしれません。

 お茶菓子で、自分たちの報酬となるお芋がどういったものかを知れば、畑仕事のモチベーションも変わることでしょう。なにしろ食べたのはトミー君とセルマさんだけですからね。


 さて、こうした活動を行っていくとなると、エネルギー問題がでてきますね。ダンジョンが常時吸収している謎なエネルギーに頼っている現状ですが、こうも利用していては、すぐに枯渇しそうです。さすがにそれは私の死を意味しますから、全力で回避しなくては。


 余裕をもってから行うつもりでしたが、ここは少々無理をしましょう。いまやっておかないと、のっぴきならないことになりそうです。


 このテーブルマウンテンの天辺まで、ダンジョンとしてのしっかりとした導線を引き、頂上部を――サッカーコート一面分くらいダンジョンエリアとしましょう。現状は、光を取り入れるためだけに、ほんの少しのエリアだけダンジョン化をしていませんからね。


 そこにソーラーパネルを施設し、電力を生産するとしましょう。どの程度の電力を賄えるかは、やってみなくてはわかりませんが、少なくとも私の生活分は十分に事足りるでしょう。あ、多分天辺は風もそれなりに強そうですし、風力発電機を設置するのもいいかもしれません。余剰電力を私の管理部分のエネルギーに回せるかもしれません。電力→ダンジョンのエネルギーへの変換に関しては、ちょっと実験してみなくてはなりませんが。


 ダンジョンエリアの拡張には少しばかり時間がかかりますから、いまから始めておけば、遅くとも夜には完了するでしょう。明日には発電設備の設置ができるはずです。


 スマホを取り出し、ダンジョン管理画面を呼び出して管理エリアの拡張を指定します。山の天辺と麓を直線的につなぐ様はなんともおかしな感じがしますね。まぁ、外から見えるものでもありませんし、構わないでしょう。


 さて、それではお茶の準備をしておきましょう。といっても、大したことではありませんが。



 ★ ☆ ★



 10時。それでは畑のほうに行くとしましょうか。セルマさんの様子を見て、洗いあがった洗濯ものを干してとやっていたら、10時まであっという間。


 休憩場所は、あまりふさわしいとは言えませんが銭湯の玄関口としましょう。適当な場所がほかにありませんからね。かといって外にテーブルを広げるとなると、冒険者さんたちに無駄な関心を持たれそうですからね。


 自室から出て銭湯に移動。ここを怪しんでたむろしている冒険者の類はいませんね。対象……子供たちとセルマさん、そしてもちろんダンジョンに属している私たち以外を寄せ付けない結界に加え、たんなる岩肌にしか見えないように施術した偽装はうまく働いているようです。


 冒険者の何人かには目撃はされていますが、ここで子供たちを前に何かしら説明している大人ひとり程度と認識されていることでしょう。施設は私たち以外には単なる岩肌にしか見えませんからね。


 いや、思っていた以上に融通の利く仕様で助かりましたね。


 畑では子供たちがもくもくと芋を掘っています。空けてある一面の一角にはまとめられたサツマイモ。収穫が出来ているのは1面の半分――いえ4割くらいでしょうか。


 さすがにこのような作業は慣れていないでしょうし、人数も人数です。進捗状況としては妥当なところでしょう。なにせ道具は移植ごてだけですしね。根菜採取に特化した道具はありますが、そちらは用意しませんでしたからね。多分、あの子たちの体格だと、すこしばかりもてあましそうでしたし。


「みなさんご苦労様です。手を休めてください。お茶にしましょう!」


 私が声をかけると、子供たちは手を止め、一斉に視線をこちらに向けました。


「おちゃ?」


 トミー君が目をぱちくりとさせて聞いてきます。


「はい。お茶の時間ですよ。私のいたところでは、こういった作業をお願いするときは10時のお茶、12時の昼食、3時のお茶と休憩をとるものなのですよ。

 ですからみなさん、しばし休憩の時間です」


 畑に行き、作業中の子供たちにそう声をかけると、みんなきょとんとした様子で私に視線を向けてきました。


 ……なるほど。やらかしましたか。


 おそらくはこちらの労働基準とは違うのでしょう。ですが私は日本の常識で突き進みます。

 すでにお茶(麦茶)と芋ようかんを用意してしまいましたからね。


 私は皆を追い立てるように銭湯へと誘導し、玄関口に併設してあるトイレの洗面台でみんなの手を洗わせます。


 その間に、いい加減セルマさんを起こしましょう。






「たいへんご迷惑をおかけしました」


 目を覚ましたセルマさんが非常に恐縮したように謝っています。


 別に私は気にしていないのですけれど。


「お疲れのようでしたからね。少しでも休めたのならなによりです。

 ささ、どうぞお召し上がりください。お茶の時間、などといいましたが、単なる休憩時間ですから」


 子供たちは目の前に出されたものに目を輝かせていますし、そうそうにいただくとしましょう。


 準備したものは、麦茶と芋ようかん。水分補給を兼ねた休憩時間なのですから、利尿作用のある緑茶の類は避けるのが吉というもの。

 麦茶にはそういった作用がありませんし、こちらの文明レベルでも十分作ることができるものですから問題ないでしょう。


 麦を炒って煮出すなんておかしなことをした人がいないだけで。


 そして芋ようかん。こちらは報酬として渡すお芋の加工例としての一品です。某老舗の芋ようかんを見真似たものですが、どうにか形になりました。色味がちょっと悪くなりましたが。あのお店の芋ようかんは、芋100パーセントで余計なものを添加していないというこだわりの一品ですからね。

 シンプルですから簡単だろうと思って再現しようとしたら、とんでもない難度で驚きましたが。なるほど、他の有名店の品では、いろいろと添加して形を整えている理由が僅かながらも理解しました。


 やはり物造りは、自身の手を動かしてみないと理解できない点が多いですね。


 ……まぁ、だからといって、私に溶接技術を片っ端から身に着けさせた社長に思うところが多々あるのは変わりませんが。


 こうなることがわかっていたなら、尻を蹴とばすくらいのことはしておいたのに。


 まぁ、いいでしょう。こうなったら社長の尻を蹴とばすという目標を、お家に帰る方法を構築するための原動力としましょう。


 さて、このお茶の時間も、私にとっては情報収集の時間です。些細な会話の中にも、得られるものはあるものです。


 といいますが、得られるものしかありません。この世界の常識やらなんやらが片っ端からありませんからね。学ばねばならないのです。


 とりあえず、文化的には地球さほど変わらないと見ていいようです。……地球の数百年前の、という但し書きは必要ですが。


 そうこう雑談をしていたのですが、途中でおかしな方に話題が転がりました。


 それはダン君が報酬に関して誤解……いえ、勘違いというべきですかね、していたのが原因です。

 簡単にいうと、1+1は2ではない理論が炸裂しました。


 要は、小さいサツマイモと大きいサツマイモは=じゃないということです。


 報酬はひと畑分としていたわけですが、ひとつの畑で採れた数分と思ったらしく、小さなサツマイモばかりを渡されると勘違いしたようです。


 きっと、そんな感じの理不尽なことが町であったんでしょうねぇ。


 その誤解はすぐに解けたのですが、その際に気が付いたことがありました。


 この子たち、計算ができない? ダン君は多少わかっているものの、ほかの子がかなり怪しいです。まさにチンプンカンプンという表情をしている子もいますし、指折り数えて首をかしげている子もいます。


 まぁ、時代的なことを考えれば、平民が学習できているとは思えません。学を得る暇があるなら働け、な時代です。それほどまでに生活に困窮しているともいえます。


 ですが、計算のひとつもできないと、商人に足を見られるのは世の常です。なにより、学のあるなしでは人生の選択肢なんてないようなものでしょう。


 どうしましょうね。個人的には教育を施したいところですが。


 ふむ。休憩後、セルマさんと相談しましょう。恐縮されるやもしれませんが、縁もできたことですしね。なにより『みんなで幸せになろうよ』がモットーの宮城家の一員としては見過ごすという行為が酷く気持ち悪いです。


 ……なにより暇つぶしになります。えぇ。


 そんなことを考えながら、少々見栄えの悪い芋ようかんを口にします。


 十分においしい。


 子供たちも嬉しそうに頬張っていますし、お仕事へのモチベーションも上がることでしょう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。