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彼女は3×8メートルの範囲をモップで磨いでいる。  作者: 和田好弘


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08_孤児院の状況も聞いてみるとしましょう


 少年が孤児仲間……というべきでしょうか? を連れてやってきました。総勢8名。女の子5人に男の子が少年を含めて3人。それに加えて年長と思われる女性……いえ、まだ少女といって差し支えないのでは?


 恐らくは彼女がセルマさんでしょう。年齢は……日本人基準だと18、9と云ったところでしょうか。ですから実年齢は14、5くらいかと思われます。


 そういえば、こちらの成人年齢はいかほどなのでしょうね? 昔の日本でしたら15くらいで元服でしたけれど、あれって確か武家だけの話だったような……。


 まぁ、日本と比べても意味のないことです。


 とにかく、交渉といきましょう。


「はじめまして。セルマと申します。お仕事を頂けると伺いました。どうかよろしくお願いします!」


 ダンジョンから出たところ、第一声がこれです。


 交渉はどこへ? い、いえ、その、そんな簡単に決めてしまって大丈夫ですか?


 色々と心配になって、私が悪党だったらどうするんですかとちょっと話してみたところ、真っ青になっていました。


 えぇ……大丈夫なんでしょうか? ものすごく心配なのですが。


「い、いえ。今回は大丈夫です。だって、そんな問題点をこうして教えてくださる方が悪い人の訳がありません!」


 いえ、まぁ、そうかもしれませんが、私、いろいろと打算塗れですよ。


 ……まぁ、いいでしょう。偽善とすら呼べるようなことではありませんが、彼女たちの一助となるなら問題ないでしょう。そのついでに、地域との交流を得るだけです。


「それでは……っと、自己紹介もしていませんでしたね。昨日、今日の事を取り決めたというのに、あなたの名前も知りませんよ。お互いうっかりしていましたね」


 そういうと、少年が、あっ! と声を上げました。その後ろでセルマさんが、ほんの少し安堵したような表情を見せています。


「私、モリ・オーカと申します。どうぞよろしく」


 もちろん偽名です。この世界で本名を名乗るつもりはありませんよ。


 皆の自己紹介を受けました。男子組3人。人数が少ないのは、男の子は仕事が得やすいようで、馴染みの商店とか冒険者ギルドとかで日雇いの小間使いみたいな仕事を得ているそうです。といってもふたりだけだそうですが。

 あと孤児院で留守番している女の子が3人。こちらは正確には留守番ではなく、まだ2歳と3歳の幼女の子守を13歳の女の子が見ているとのこと。


 総勢13名が、孤児院で保護されている子供たちです。……セルマさんは職員枠なのでしょうかね? それとも最年長の孤児なのでしょうか? 彼女が起きたら確認しておきましょう。


 ここに来ている子の名前は、トミー(昨日の子)、ダン、ヒューゴ。

 女の子は、チェリー、ヘザー、ダリア、メラニー、ケイト。


 年齢は最年長のトニー君12歳から、最年少のケイト5歳となっています。


 サツマイモ掘りは幼稚園などでも行われていますから、大丈夫でしょう。


 皆の紹介を聞き終え、ではお仕事といきましょう。ですがその前に。


「皆さんには、着替えをしてもらいます」

「え、着替えですか?」

「はい。仕事には、その仕事に相応しい恰好……服があるのです。皆さんにしてもらう仕事は、畑に植わっている芋の収穫です。土塗れになること必至ですからね。ちゃんと用意してあります」


 私はみんなを更衣室へと案内します。場所は畑の場所のさらに先。ガツンと崖肌を蹴っ飛ばして扉を開きます。


 その先にあるのは更衣室、もちろん、男女別。更衣室の奥には入浴施設も作ってあります。泥だらけになるでしょうからね。仕事後は汚れを落としてもらわなくては。


 野良着のサイズは問題ありません。少年たちがダンジョンエリア内に入った時点で計測済みです。それぞれに合ったものを用意してあります。


 まぁ、名前がわからなかったものですから、みんながそれぞれ合うものを見つけてもらわなくてはなりませんが。まぁ、問題無いしょう。


 では、みんなが着替えている間に、セルマさんに仕事内容と報酬に関してお話ししましょう。


 一通り話したところ、なぜかセルマさんの顔色がどんどんと悪くなっていきます。

 はて? そんなに酷い条件だとは思いませんが、なにか問題があったのでしょうか?


「あ、あの、服までいただいて良いのですか?」


 どうにもセルマさんが狼狽えています。


「構いませんよ。野良着ですし。とはいっても、そうですね。確かに服装まで雇用側が用意するモノではありませんね。ではこうしましょうか。これも今回のお仕事の報酬のひとつということにしましょう。なにせ報酬が金銭ではなく現物のお芋ですからね。仕事量に対する報酬額としては、些か少ないでしょうから」


 そう私が云うと、なぜかセルマさんは泣き出しそうな顔をしています。なんだか視線がいろいろと……アレなんですけれど。


 ……まさかと思いますけど、そこまで状況は酷く、切迫しているのでしょうか? いえ、これは服が高価であると見ました。服を仕立てるなんてことは、金持ちがすることで、庶民は古着が一般的というもの。かつての日本もそうでしたからね。それこそ重大な祝い事、成人とか結婚などの際に新品の服を誂えるようなものだったと聞いてます。


 となると、やらかしましたかね、私。でもまぁ、さして問題ないでしょう。なにせ野良着ですし。お洒落な服とはほど遠いですからね。それに新品な状態でありますが、今日の野良仕事でいい塩梅に汚れるでしょうし。


 大丈夫。大丈夫としましょう。


 少々踏み込むようですが、孤児院の状況も聞いてみるとしましょう。


 ……。

 ……。

 ……。


 ……あぁ、なんというか、彼女、限界に近かったようですね。凄い勢いで愚痴と云うか、消えた院長に関しての恨み言がこれでもかと。


 その院長は……あ、女性だったのですね。それなら多少はまだマシだったのでは? 男性であれば、セルマさんも――あ、余計なことを云いましたか。真っ青になって倒れ――あああ、どうしましょうかこれ。


 仕方ありません、更衣室……というかもうぶっちゃけますが、この銭湯の脱衣所手前にあるベンチに寝かせておきましょう。


 さて、知りたいことをすべてを聞き出すことは出できませんでしたが――ふむ、子供たちは一応、多少痩せ気味ではありますが、健康面に問題はなさそうです。


 これなら食糧事情さえどうにか――いえ、院長がお金を持ち逃げしたのなら、それこそ自転車操業の有様となっているということでしょう。年長の子供たちはこれまで通り、町であれこれ日雇い的な仕事を回っているとのことですし。


 食糧事情がどうにかなっても、先立つものは必要です。年長の子たちがどれだけ稼いでいるのは不明ですが、トミー君がダンジョンに入ろうとしたことを考えると……。


 まぁ、私が考えることではないのでしょうが、関わった以上はなにかしら手助けをしたいところですね。“情けは人の為ならず”という言葉は至言であると、父から刷り込まれましたからね。馬鹿をやらかした1年間でなにがあったのかは知りませんが、その言葉の意味を思い知ったとか云っていましたから。


 あぁ、なるほど、いま理解しました。あれほどの馬鹿垂れムーブをかましていても、無闇に人望がありますからね、父。ブラジルで○○王とか呼ばれている御仁からお酒が送られて来た時には唖然としましたから。えぇ、お返しのお酒の入手に駆けずり回ったのは私ですよ。


 本当、なにをやらかして来たんでしょうね、我が父は。私の幼少の頃、ひとりこそこそと【波〇拳】の練習を夜な夜なやっていたのは知っていますが。もちろん、成し得ていません。


 父の事はどうでも……よろしくないですがよろしい。く、お家に帰りたい。あの馬鹿げた賑やかな家に。私をこんな目に合わせた輩は、いずれ絶対に破滅するまでやり返して差し上げましょう。


「お姉さん、着替えて――セルマねぇちゃん!?」

「あぁ、セルマさんですが、疲れていたんでしょうか、急に立ち眩みを起こしましてね。こうして休んでもらっています」


 このまま寝かせておくのもなんですね。確か、番台にバスタオルがあるはず。


 番台からバスタオルを取り出し、彼女にタオルケット代わりに掛けておきましょう。なに、バスタオルはサイズの小さいタオルケットというだけです、問題ありません。


 子供たちに並んでもらい、畑へと向かう前に注意事項を伝達します。ただの芋ほ掘りでも、危険はありますからね。移植ごてでも怪我はするのです。


 おっと、あとトイレに関しても教えておかなくては。適当なところで用を足されても困りますからね。


「それではみなさん、お仕事をはじめましょうか」


 一通りの説明後、銭湯を出て隣の畑へと移動します。


 うーん……位置関係をしくじりましたね。芋掘りが終わったら、銭湯と畑の位置を入れ替えましょう。


 畑を入り、昨日トミー君に説明したことをみんなに話します。


 そして収穫の道具として移植ごてとスコップを渡します。確か、芋掘り特化の道具なんてものがあったような気がしますが、見慣れぬ道具を渡すよりも、こういったシャベル的なものであるなら、見ただけで使い方も分かる事でしょう。


 もちろん、ズルはしないように釘は刺しておきましたよ。云う必要はないと思いますが、云って置くことと置かないことでは意味合いはまるで違ってきますからね。


 ちなみに、ズルというのは、報酬とする一面分の収穫物の山に、別の面の収穫物を加えるということです。


 トミー君の様子と、セルマさんのあの有様を見るに大丈夫だとは思いますが。


 まぁ、直接監視などという無粋な真似はしないでおきましょう。一応、ダンジョンを通しての監視はしますが。


 それじゃ、セルマさんが心配なので見に行きましょう。


 10時にはお茶を出す予定ですから、そのくらいまでは寝かせおいて、その側でダンジョンの戦闘状況を確認しておきましょう。


 あぁ、そういえば、私が子供たちにアレコレ説明しているところを、ダンジョンに入る冒険者さんたちにしっかり目撃されましたね。これはセルマさんにお願いして、冒険者ギルドとお話しできるようにしてもらえるよう、なんとかお願いできないでしょうか?


 そうすれば、ここで細々としたものを販売して小金を稼げるんですけれどね。現金さえ手にあれば、子供たちに適当な仕事を頼んで駄賃を渡せるというものです。


 なんとしても良い人ムーブをして浸透させ、ダンジョンの魔物と誤認されて殺されるような事態にならないようにしなくては。


 帰れるかどうかと云うよりも、私をこんな目に遇わせてくれやがった輩に報復せずに殺されたりするのは我慢なりませんからね。




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