06_情報収集をしましょう
ダンジョンで生活をはじめてより、3週間が過ぎました。
こちらの言語もばっちり習得し、この周辺の大雑把な地理的情報を把握しました。ついでに知識元の魔法使いさんの魔術知識もある程度身に着けてしまいましたが、さしたる問題はないでしょう。暇つぶしにそれらに手を出してみるのも一興というもの。なにせ異世界ですからね、ここ。
私にとって魔法はロマンです。
さて、この辺りの地名やら国名やらは不明ですが、ここ以外にも近隣に大規模ダンジョンが3つ程あることは分かっています。
これらはここのダンジョン中枢から抜き取った情報によるものです。
【デプス】【カズム】【ナラカ】。これ、確実に地球人がこっちに来てますよね。さすがにここまで英語準拠となっていれば、確信しかありません。
これらのダンジョンから得た知識と、魔法使いさんから得た言語情報にある、各種固有名詞情報とを照らし合わせて、あれこれ確認している最中です。
……よく考えたら、なにもこんな面倒なことをせずとも近隣の人里から情報を収集すればいいんですよね。私自身はこのダンジョンから離れられませんが、ドローン的なモンスターでも作って代わりに行かせればいいんですから。
漫画などでは目玉に蝙蝠羽根の生えたモンスターなんかがそういった役割をしていましたが、そんな目立つ怪しい姿にしなければ問題ないでしょうし。
テントウムシとか。
……テントウムシ、いるんですかね?
町中でもいるような、ありふれた虫を確認しておきましょう。もちろん、害虫以外で。トンボとかチョウチョあたりがいれば無難なんですけど。あ、虫にこだわらずとも、小動物でも問題ありませんね。トカゲとかネコとか。
ふむ、ちょっと調べてみましょう。ダンジョンのデータに、そのあたりもこともあるでしょうし。
……。
あ、ネコがいますね。私の知る見慣れた姿のネコではありませんが。マヌルネコみたいにずんぐりとした、丸っこい感じの猫です。
何匹かダンジョンの力で作って町に送り出しましょう。もちろん、見た目はネコですが、中身は普通にモンスターです。当然、知能も人並にしておきます。あぁ、となると、ネコの脳のサイズだと少々足りないかもしれませんね。もう、ネコ型のオートマトンにしてしまいましょう。
文明レベルは冒険者さんたちの装備などで推し量れましたが、文化レベルは不明ですからね。殺し合いや処刑が娯楽な文化レベルだったりしなければいいんですけど。
ということで、ネコ型オートマトンを5体作成しましょう。もちろん毛並みはこちらにいる標準的なもの。よく見かけるものとします。
ふむ。オートマトンは意外に経済的……いえ、経済的と云うと少々違いますが、普通に魔物を生成するよりお得なようです。
ただ、素材となる金属やらなんやらが高いだけで、魔物のように生物を生成するよりは遥かに安価です。
もっとも、これは私の感覚からすればですが。恐らくダンジョンシステムからすると、金属資源を使う方がもったいないのでしょう。
ダンジョンの物品生成機能を十二分に理解してさえいれば、まさに疑似的にではありますが、無から有を生み出すことのできるシステムであると知れます。
えぇ。ですから、陽子と電子を完全に制御できれば、いえいえそれを云ったらクォークから制御できるのであれば、どんな物質でも作り放題といえます。
元とする何かしらの物質を消費することになりますから、目的の代物を造り上げた後には残りカスとも云うべきものがでてきますが、それはダンジョンの糧としてしまえば無駄はありません。それどころか、その残りカスがオートマトン生成するためのエネルギーとして利用できるのです。
これこそまさにエコロジーというもの。無駄がありません。
だというのに、オリジナルであるダンジョンコアは現状存在している物質をもとに加工するか、冗談では無しに無から有を作るかのように、どこぞから魔物なりアイテムなりを召喚して運用しています。
……いったいどこから召喚しているのでしょうね? 私もやろうと思えばできるのですが、得体が知れないので極力避けている状態です。
さて、猫〔オートマトン〕ができあがりました。
命名、ゴエモン(黒)です。
なんでこうなったか? 漫画に登場する猫から名前を拝借しました。
安直すぎますがオートマトンですからね。プログラム通りに動くだけのお人形です。もしこれが付喪神のような自我を持っているのであればともかくも、自我のない道具にそこまで執着にも等しい愛情は持てません。愛着はあるとしても。
本物のペットとペットロボでは、扱いは違うでしょう? そういうことです。
でも一匹だけではさすがに収集できる情報量もたかがしれていますね。
ふむ。名前をゴエモンなんてしてしまった訳ですし、あと4匹作りましょう。
ということで――
イチロウタ(白)、ジロウマル(サバトラ)、サンダユウ(茶トラ)、シノスケ(サビ)
マヌルネコっぽいだけで、こっちのネコはマヌルネコというわけでもないですからね。こっちの世界ににも存在する毛並みで造り上げましたから、町に送り出しても問題ないでしょう。
それでは5匹とも、情報収集に行ってらっしゃい。くれぐれも気を付けるように。もしもの場合は、ステルス機能を使って撤収すること。いいですね。
そう云い含めると、5匹は敬礼して町へと向かって行きました。
……。
……敬礼?
あ、あれ? なにか間違えましたか? なんだか自我っぽいのがありません? ま、まぁ、喋ることが出来るわけでもなし、問題を起こしたりはしないでしょう。
早朝に町へと向かった諜報部隊が戻ってきました。
映像記録もありますが、それを5体分すべてを見るのは時間がかかります。ひとまずはこちらの指定した映像をだしてもらいましょう。
まずは町並みからです。
壁面に映像が映し出されます。ゴエモンの左目から映し出されているのは少々シュールですね。もうちょっと考えて設計した方が良かったかもしれません。
それはさておいて、映像をじっくりと見ましょう。
……。
……。
……。
……ふむ。
大昔のヨーロッパの方の建築様式でしょうか。木製の骨組みに煉瓦や石造りの建築物。表面には漆喰が塗られ、全体的に白を基調とした町並みです。
建物は地面にベタ付のもの。いわゆる床下がない建物が殆どです。
この感じからして、この辺りでは地震の類は殆どないのでしょう。雨もそれほど激しく降ることが無いのかもしれません。
それとも排水面がしっかりとしているのでしょうか?
水に関しては……あぁ、ローマの水道橋みたいなものがありますね。現代では再現不能と云われているあの水道橋のようなものがあります。
もっとも私の知るのような3段になったものではありませんが。
文明水準はどの程度なのでしょうね?
「硬貨などの映像はありませんか?」
尋ねると、シノスケがゴエモンと入れ替わりました。
八百屋さんでしょうか? ちょうど商品の受け渡しが行われています。同時にお金のやり取りも行われていますが……。
ふむ。少しばかり歪な感じですね。鋳造技術はそこまで精巧ではないようです。それとも手作業による圧延加工でしょうか? 大昔はそうして硬貨を作っていたのでしたっけ?
まぁ、現代日本のように、プレスして模様を打ち出して作っているわけではありませんからね。素材の硬度の関係上、仕方ないのかもしれません。
ローマ時代の硬貨を見たことがありますけど、かなり歪でしたからね。もっとも、アレは保存状態が悪かったからかもしれませんが。
映像を確認したところ、技術的にはまだまだ未熟な段階のようです。
冶金技術は残念そのもの……というか、ダンジョンなんてものがあるために、そこまで発展していないのかもしれません。武具以外にも発掘されているようですし。先日見かけた冒険者たちはテーブルを運んでいましたしね。
さて、となると――う~ん……。
地球と同様として考えると、21世紀に生きている私などでは適応できないのではないでしょうか? 文明の利器にどっぷり漬かって生きていたわけですし。
江戸時代はほのぼのとして平和だった、なんて阿呆なことを云っていた人がいましたが、実体は現代日本と比べたら無法もいい世界でしたからね。
鬼平で有名なあの方が火付盗賊改方に就任した途端、最初の一年で盗賊だのなんだのが2500人以上も捕えられたといいますし。これはつまり、それ以前は賄賂等で見逃された犯罪者が大量にいたということを示していますしね。
そういえば、海外でも警吏は賄賂で犯罪者を簡単に見逃すため、市民の嫌われ者であったと聞いたことがありますね。もちろん昔の話ですけど。
まぁ、現在でも、警察機構は腐敗しているところは腐敗していますか。
ひとまずは、こっちもその程度と考えておいた方が良さそうです。
そもそも武装しているのが普通であるのですから、世間の危険度の高さが伺えるというものです。
これ、私がダンジョンから出られないというこの状況は、却って良かったことなのでは?
のほほんと人里へ行こうものなら、あっというまに殺されるか売り飛ばされるかしていたんじゃないでしょうかね?
可能性としては前者の方が高いでしょうね。こちらの方々は顔立ちが西洋人的ですから、美的感覚的にアジア系の顔が好まれるとは思えません。
そう考えると、安易に現地人との接触は避けた方がいいのかもしれません。かといって、ここにこうしていることで、モンスターの類と一緒くたにされて殺される未来もチラホラ見えるのも事実。
どうしたものでしょうね。
……。
おや?
なにやらダンジョン入り口のあたりを、冒険者らしからぬ者がちょろちょろしていますね。
みたところ、まだ子供という感じです。
10歳くらいでしょうか?
まさかと思いますけど、ダンジョンに入る気なのでは?
さすがになんの装備もなしに入るのはお薦めできません。
どうしましょう?
……。
ま、まぁ、子供であるならば、そこまで危険性はないでしょう。
声を掛けてみましょうか。




