05_生活基盤を整えましょう
生活基盤を整えましょう。
壁の中で私は決意しました。
どうせ日本に帰る手立てなど、すぐには見つからないでしょう。いえ、それどころか、方法があるかどうかも分かりません。
恐らくは“ない”と考えて行動するべきと考えます。
大抵の物語ではそれが定番ですし、これが【神隠し】の実体であるならば、帰ることは絶望的とみるべきでしょう。
【神隠し】事件は数多ありますが、帰って来たという話は数えるほどしかありませんからね。私の知っているのは、神社の境内……本殿? で見つかった行方不明となっていた女子中学生だか女子高生だかの話だけです。
だからといって、諦める気はありませんが。ただ躍起になって探すつもりはないだけです。なにごとにも優先順位はあるのです。
さて、確認はしていませんでしたが、私はこの場所、ダンジョンからは移動できるのでしょうか? 私自身がダンジョンの一部にようになってしまったようですが。
壁からにゅるりとはみ出し、踏み固められただけの道を進んでみます。
……ある程度進んだところで、ちっとも進まなくなりました。普通に歩行しているのですが、まるでルームランナーの上にでも乗っているかのようです。
なるほど。恐らくはここまでがダンジョンの範囲なのでしょう。入り口から50メートルくらいですか。思ったよりも広いようですね。左右には……この崖? のある範囲であるようです。かなり左右に距離がありますから、端までは確かめませんが。
まぁ、とにかく、この場所から離れて人里を探すというのは不可能なようです。 仕方ありませんね。ダンジョンの力を使って、身の回りの物を整えるとしましょう。
……家を建てるのは、問題が起こりそうですね。というか、冒険者たちに荒らされるのが目に見えます。絶対にロクなことにならないでしょう。
となると、ダンジョン内に部屋を作るのが無難というもの。
ダンジョンの構造は、いわゆる一階部分は入り口と一本道の通路。そして下へと降りる階段があるだけです。
正しくダンジョンとして機能しているのは地下一階から。そこから迷宮として存在しているのがこのダンジョンです。
さて、地上一階部分は手つかずといっていい状況です。そしてこの崖である岩山――いえ、テーブルマウンテンはかなり大きく、広いようです。
その内、天辺にふつうの家でも建ててやりましょう。ですが、そこまでダンジョン範囲とするには、ダンジョンの――エネルギーとでもいうものがさすがに足りません。
できるだけ節約しつつも、私にとって快適な部屋を作りましょう。寝室とバスルーム、そしてトイレがあればひとまずは十分です。キッチンはどうしましょう? とりあえずは簡易のものでいいでしょう。
と、通路のすぐ隣りが寝室というのはさすがに嫌ですね。部屋の配置を少し変更しましょう。うん。玄関を追加で。
ということで、通路に隣接するように玄関を拵えます。もちろん、出入り口はありません。私は壁抜けができるようですからね。不要です。下手につけると面倒事しかないに違いありません。
いずれこちらの世界の人と交流を持つかもしれませんが、それは今ではありませんからね。
そしてリビング兼寝室。バス、トイレと作ります。水回りもうまいことやっておきます。なんだか宇宙船……スペースシャトルとかに採用されていたようなリサイクル? なシステムがダンジョン機能にあるので、それをそのまま採用です。
ただ、寝室に簡易キッチンを併設したところ、昔のドラマで見た、安アパートの一室みたいになってしまいました。
まぁ、いいでしょう。いまは贅沢はいいませんとも。
このダンジョンの変更やらモンスターや罠の配置やらお宝の生成やらに使用するエネルギーは、やりようによっては無限に得られるみたいですしね。
とりあえず、テーブルマウンテンの天辺までダンジョンのエリアを細ーく繋いで、頂上全体をダンジョンエリアにすることを目標にしましょう。
えぇ、電力もダンジョンのエネルギー源とすることができるようですからね。太陽光発電と風力発電の実装を目指します。
本来は生物が無意識に撒き散らしてる余剰生命力とかいうものやら、感情の振れ幅による――気力? とやらをエネルギーとして吸収しているようですけど。
あ、もちろん命――というか、死体もエネルギーとしているようです。
だから死亡すると一定時間後、ダンジョンに吸収されて遺体は消えてしまいます。
私の支配域では、冒険者の死体からエネルギーを得る機能を切っているようなものですからね。他の手段でエネルギーを得ねば。
あぁ、そういえば下層から攻めて来るモンスターを始末してもエネルギーは得られますね。今後はそちらでどうにかしましょうか。通過する冒険者の落とす余剰エネルギーよりも、死体をエネルギーとするほうが効率は上ですからね。
……長い目でみれば逆転しますが、ダンジョン内に町をつくるわけでもなし、死体を吸収する方が高効率です。
このダンジョンのシステムは、奪還を諦めていないようですしね。
かなり強力なモンスターを送り込んできているようで、エネルギーの補充が非常に美味しい。私の配下のモンスターは自動人形のみです。装備させている外骨格も出来る限り薄型にして、ちょっとデザインが奇抜な金属鎧としているので、冒険者さんに襲われることはほとんどありません。
友好的に挨拶をしておけば、トラブルはありません。あった場合は、その相手は犯罪者なのでしょうから、速やかに処してエネルギーとしてしまいましょう。
これで、ひとまずは安泰でしょう。
それにしても、ここのダンマスは脳筋と云うか、いわゆる“えげつなさ”というものに欠けているようです。
幸いなことに。
素直なのか考え無しなのか馬鹿なのか。
私ならばダンジョン制圧には、低コストの小型モンスターを大量に用意し、物量で押しつぶしますけどね。数の暴力は防げません。だからこそ、黙示録の世界を滅ぼす災害に蝗害が入っているわけですしね。
少数精鋭で襲ってきているので、私の用意したアクションRPGのボスムーブをかましている自動人形だけで抑え込めています。
こちらの世界の生物であれば、私の知るサブカルチャーに登場するモノはもとより、実際の軍装備を持たせた自動人形でも配備して置けば、それだけで絶対無敵になります。まぁ軍装備品は、人間に知られたら面倒になるので最終手段ですが。
あ、もちろん、数の暴力に対する備えもしてあります。そちらは罠で対応。生物であれば毒、ゴーレム系であれば普通に叩いて潰します。昆虫サイズではなく、中型犬以上のサイズのモノに対しては、罠と、現状通り普通に戦って仕留めます。
私の知る程度の知識だけでも、この世界を滅ぼすことはできますしね。タワーディフェンスはどうとでもできます。もっとも、期せずして手に入れてしまったダンジョンとしての能力、というよりは、無から有を生み出すような能力があることが前提ですけれど。
実際には、エネルギーを物質に変換しているだけですけどね。どういう原理なのかは、そういったものの専門家ではないので不明ですが。
さて、エネルギー問題はどうにかなりそうです。私ひとり生活するくらいは、十分に賄えるでしょう。
ついでに、下層から私を始末するために登って来るモンスターのおかげで、ダンジョンを整備するためのエネルギーも確保できています。これを用いて食糧等を得られますから、まったくもって生活に問題がありませんね。
……あれ? もしかして夢の“食っちゃ寝”生活ができませんか? これ。
まぁ、そんなことが可能となっても退屈なだけなので、なにかしら仕事的なものを見つけなくてはなりませんね。
なんでしたらこのダンジョンを制覇して、完全に私の手中におさめても……。
いえ、ありませんね。この国? の生活に根付いているようですし、それに合わせて私が管理するなんてまっぴらごめんです。現状のまま……いえ、3Fを確保するまででいいでしょう。
モンスターの管理や、出現させる宝物の内容や頻度だの、あれこれ調整するために頭を悩ませるとか、やりたくもないですからね。
そんなこんなで一週間が経過しました。
私の存在はいまだ露見していません。これは運が良いといっていいでしょう。外のダンジョン範囲内の森に入り、適当に採取した植物やキノコ、木の実を集めては確認をしています。
今日は移植ゴテを手に、芋っぽいなにかや、ユリ根のようなものを採取してきました。
とりあえず食用可なものもありましたが、好んで食べるようなものではありませんね。
まぁ、品種改良などがされているものではありませんからね。とはいえ、日本でいえばアケビのようなものもあるかと思ったのですが、残念です。なんだかカラスウリそっくりの果実? はありましたが。割ると中身が納豆的ではなく、ソーメン南瓜みたいな感じでしたが。食用不可。
うーむ。食用不可のものはともかく、食用可であるものは、品種改良なんてものに手を出してみるべきでしょうか? 実際に栽培はせず、シミュレート的な形で品種改良ができるみたいですし。……これは遺伝子改変となにか違うんですかね? まぁ、暇つぶしにはなりそうですが、ある意味、先の見えない沼に落ちそうな予感がしますね。
食糧に関しては、ダンジョンの物品生成能力を使えば日本にいた時と変わらぬものを得られますから、手を出すとするなら本当に暇を持て余した時となるでしょう。
この物品生成においては、どうやら私の記憶に準拠しているようで、私の見知ったモノ、食料品に関しては食したことのあるものしか生成できません。とはいえ、十分すぎるというものです。なにせ終売となってしまった品も手に入れられますからね。これは嬉しい。
さて、そろそろいい時間ですね。今日はなにを夕飯に食べましょうか?




