04_急務となることは
ひとまず私の状態を確認することができました。
そう、“状態”であり、“状況”ではありません。
端的に述べましょう。
私は死にました。あの目の前が暗転した瞬間に。即ち、テレビカメラの前で私が神隠しにあったあの瞬間に、私は死んだようです。
いえ、もっと正確にいうならば、殺されました。
ここからは推測も含まれますが、いわゆる異世界召喚などというものをやらかした馬鹿者がこの世界にいるようです。
私は不運にもそれに引っ掛かり、召喚されてしまったわけです。
ですが、その召喚術が不完全といいますか、とにかく不出来な失敗作であったため、私は殺された上に、魂? が本来召喚される場所からかけ離れた場所に放り出され、いえ、放り込まれた、というようです。
さて、話は変わりますが、ここはいわゆるダンジョンです。ゲームなどに登場する、迷宮というやつです。
奥深くに安置された宝物。それらを護る凶悪な罠とモンスター。そしてそれをもとめ散り往く冒険者、でおなじみの場所です。
ゲームなどにおいては、単なる建築物や坑道跡、ただの洞穴といったものですが、ラノベや一部のゲームにおけるものではダンジョンコアという管理システムによって運営? されたものであったりします。
それらの情報を踏まえまして、あらためて私が現在いるダンジョン。ここは後者のものとなります。
管理システムたるダンジョンコアと、アドミニストレーターたるダンジョンマスターが運営しているダンジョン、それがここです。
名称は【アビス】というようです。
……これは偶然でしょうか? まさか本当に英語の【abyss】でしょうか? あれ? ラテン語でしたっけ?
いえ、それはどうでもよろしい。
ふむ。私という事例もあるわけですし、私以前にも拉致された地球人がいたのやも知れませんね。このダンジョンを命名した原因たる人物が、英語圏の国から召喚された人間だったのでしょう。きっと。
その【アビス】の管理システムたるダンジョンコア、その中に召喚された私の魂 (?) がぶち込まれたようなのです。
人でいうところの心の中に、私という異物をぶち込まれたダンジョンコアは、当然、私を排除しようとするわけです。
私が真っ暗な中でどつかれまくったのは、こういう事からのようです。
そして私が全力で抵抗したところ、ダンジョンコアはこのままだと自身が完全に乗っ取られる、あるいは破壊されると判断し、私の入り込んだ部分を切り捨てたのです。
伊達に負けん気と腕力は鍛えていませんよ。私の無駄にエロい見てくれに危機感を持った母が、近所の護身術道場へと私をぶち込みましたからね。
護身術とは名ばかりの、やべー技ばっかり仕込まれましたけどね。「刃物を持った暴漢に襲われても大丈夫。こうしてこうしてこうすれば、ほら、刃物は暴漢の胸にグサリと刺さる。暴漢は死ぬ」とかいうのを教え込まれましたよ。
せ、先生、それって殺人術とか暗殺術の類では? と聞いても、おじいちゃん先生はニコニコとしたまま答えてくれませんでしたけど。
と、そんな私がダンジョンコアとの攻防の結果、私はダンジョンの上層、BF1~BF5までの管理権限を有した、召喚された人間の魂、となったわけです。
とはいえ、無形のままでは安定しません。そこで私が奪い取ったダンジョンの部分が私の肉体を生成して、ダンジョン地上部にスポーンしたというわけです。
簡単に云えば、私自身がダンジョンコアと成ったわけです。より正確にいうならば、半分ダンジョンコア、半分ダンジョンマスターという、わけのわからない存在となったわけです。
これが私の現状の状態です。
えぇ、もう。あの壁に入り込んでから、ずっと私になにが起こったのかを理解しようと頑張っていましたよ。
幸い「いったいなにがどうなってるんですか」と、キレ気味にボソリと云ったところ、目の前にウィンドウが沢山開いて腰が抜けるかと思いましたが。
それぞれのウィンドウには、私が管理権限を持っているダンジョンの状況とか、私が現状の状況になるまでのログとかが記されていましたから、状況把握にまでさほど時間は掛かりませんでしたが。
そして私の現在の状況ですが。
先ほどBF5まで管理権限を持っているといいましたが、現状ではもはやBF2までしかありません。
BF5とBF4は、本来のダンジョン側に奪還されました。
私が現状把握している間に奪われたわけですから、向こうはかなり迅速に動いています。
BF3へとも浸食を開始されているので、BF3を半ば切り捨て、BF2とBF1を死守すべく、各種護りを展開しています。
私は召喚される際に死んだわけです。そしてその際に体は消失……というか、視認不能なレベルで分解というか、データ化? みたいなことにされたようです。
どうも召喚というのはそういうものらしく、召喚場所で体が再構築されるものなんだとか。いわゆる検疫ため、そしてこちらの世界に適合させるためにそうしているようです。
未知の病原菌の類は、双方にとって最悪の結果しか生み出しませんからね。その対策ととしてみれば、かなり強引というか、力技ではありますが完璧な検疫といえましょう。
転移の際には、肉体はもとより身に着けている物もデータ化されます。服はもちろんのこと、眼鏡やアクセ、そしてスマホも。
スマホにだってセキュリティソフトは入っていますからね。それを元に、ダンジョンコアからの浸食を返り討つセキュリティ構築はさほど難しくありません。
なので、ダンジョン内ネットワークによる浸食対策は完了。あとはモンスターなどによる実効支配対策をするだけです。
やってることがハッカー対策と、リアルでタワーディフェンスをすることになっていますが、敗北は死、冗談じゃなく死ですからね。一切の妥協などしませんとも。
現在、BF3が私とダンジョンとの主戦場となっています。ダンジョン攻略に来ている冒険者さんたちからすると、モンスターが同士討ちをしていると思うかも知れませんね。
ネットワーク対策は付け焼刃ですが、ひとまず完了。こんなことができるとは、向こうは一切考えていなかったようで、完璧に返り討ちに出来ています。
ログの伸びる速度が尋常ではありません。愚直に過ぎます。
ひとまずは、現状のファイアウォールで十分でしょう。その内、ワームでも構築して放り込んでやりましょう。
リアルのほうでは、無機物系のモンスターを配置。罠関連も設置したいところですが、こちらは管理システムにあるデフォルトのものが残念に過ぎるので、あらためて設計するまでは保留とします。
無機物系のモンスターは、いわゆる自動人形というもの。ゴーレムの類は使い捨ての壁役としては優秀ですが、コスパを考えると割に合うものではありません。
幸い、私のいた企業は地元の小さな工業技術系会社(町工場とも云う)で、社長がかなりの趣味人でありました。
いわゆる技術オタクの類です。
パワードスーツを私財を投じて制作するくらいには。
実際の所、軍事用、介護用としての外骨格はすでに実用化されていますから、作ること自体はさほど難しくはありません。
……まさか、その制作を手伝わされた経験が生きることになるとは思いもしませんでしたが。
ダンジョンのデフォルトで用意されていた標準型自動人形に、無動力強化外骨格を装備させ配置させたところ、現状無双状態です。ダンジョン側としては理解できないでしょうね。自動人形に鎧を着せているようなものですから。
実際、この世界では見ないデザインの鎧を纏った騎士? にしか見えませんからね。
もちろん、これらのデータはあちら側と共用できないようにしてありますから、暫くはこれで安泰でしょう。
無動力強化外骨格とはなんぞやと?
機械式の強化外骨格は、いうなれば電動アシスト自転車のようなものと考えてもらって差し支えありません。人体の動きに対し、電力などの動力を用いた機工によりパワーアシストするわけです。
これを無動力としただけのもの。動力……電力の代わりとなるのは、装備する者の筋力のみです。
それでパワーアシストなどできるのかと? できますとも。油圧だのなんだのを駆使すれば良いだけです。確か、この無動力式強化外骨格も実用化され、介護関連で使われている筈です。
さて、双方とも適宜UPグレードしていけば良いとして、急務となることはこの世界の言語の習得ですね。
自身の安全の確保をするためにも、他者とのコミュニケーションができなくては、文字通り話になりませんからね。
幸い、ダンジョンコア化している私の中に、その言語情報はあるようです。
だからといって、発音だのなんだのが問題ないのかというと、実際の所問題しかありませんが。知識だけでは会話はできないのです。筆談はできるでしょうけれども。
異世界転移だのダンジョンだの、私にとってはもう荒唐無稽のオンパレードなんですから、ついでに言語習得(会話)のスキルとかありませんかね?
ウィンドウを目の前に開きます。
人間、命が掛かるとなんでも慣れるようになるものですね。まさかこんな、近未来AR技術みたいなことを普通に受け入れるばかりか、普通に使っていますからね。
はてさて。物品だの罠だの魔物、さらには魔法だのがあるのは確認しましたが、能力を身に着けることができるような物品はあるのでしょうか?
……。
……。
……。
ありますね。
それも複数。使えそうなものが。
えーっと……。どれが一番良いでしょうか? これが良さそうですね。
【知識拡張】
対象の特定知識を共有し我がものとする能力です。
取捨選択して無条件で知識を得られる、つまりは技術を盗めるのですから、とんでもなく強いですね、これ。
身体能力が必要な知識、技能だとかなり微妙ですが、本来なら身に着けるのに膨大な時間が掛かるような魔法などであれば、その有用性は計り知れません。
あ、これ、アイテムでも存在しますね。アイテムの方にしましょう。使い切りですが、こちらのほうがコストが安いですし。能力として永続的に持つのもアレですしね。……絶対に堕落するでしょうから。
なによりダンジョン運営用のエネルギーは節約するに越したことはないでしょう。
では、【知識拡張】のオーブを錬成しましょう。
……思っていたよりも小さいですね。ピンポン玉サイズです。
あとはこれに対象とした者の言語情報を共有し、私に転写すればいいだけです。知識はもちろんのこと、発話やリスニングの際の身体制御も身につくようです。発話も聴力も身体を鍛える必要はほぼありませんからね。慣れだけでしょう。本当、とんでもないチートっぷりですね、これ。
対象とするのは……魔法使い的な冒険者さんからいただきましょう。
頭の良さを考えると、魔法使いか僧侶が無難といえます。とはいえ僧侶は変な宗教知識も入って来そうなので対象外とするのがいいでしょう。ですので魔法使い一択です。
そんなこんなで3日経過しました。
壁越しに観察をしていたところ、このダンジョンはそれなりに盛況であるようで、多くの冒険者が出入りしています。
もっとも、入ったきり出てこないパーティもありましたが。全滅、ゲームでいうところのハゲるパーティもそれなりにあるようです。
堅実そうなパーティや血気盛んなパーティ、そして切羽詰まったようなパーティと、雰囲気が多種多彩。ただ、ひとつだけなんというか、軍人のような感じの者たちもいました。
国のお抱え、或いは領主お抱えの冒険者――この公務員的な場合は冒険者というのでしょうか? ――なのでしょう。
よし、この軍人らしき者たちに所属している魔法使いから言語知識を頂戴しましょう。丁度女性ですしね。公僕のような立場の者であるならば、言葉遣いもしっかりとしている筈です。
彼らが帰る時に拝借するとしましょう。
あ、その際に探知されたりしないようにしなくてはなりませんね。隠蔽、隠遁、隠密と、とにかくその手の技能を片っ端から確認して、重複しても問題ならないように身に着けておきましょう。
生存率上昇は必須ですとも。
……いえ、どうやら私、死ぬことが出来なくなっているようですけれど、だからといって怖いものは怖いし、痛いものは痛いですからね。それらは避けて通るに越したことはないのです。
リスポーンするということは、死ぬことができないということと同義でいいんでしょうかね?




