↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女は3×8メートルの範囲をモップで磨いでいる。  作者: 和田好弘


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/26

22_私は猫型オートマトンである


 私は猫型オートマトンである。名前は五右衛門。


 ご主人に作り出された1号機であるにも関わらず、五右衛門である。


 私が生み出された経緯は、ダンジョンより離れることのできないご主人に成り代わり、街――クレーセの情報を得るためである。


 街の発展状況、人々の気質、文明度合い、政治、宗教などなど。それこそあらゆる情報を。


 クレーセの街は広い。私だけではさすがに時間がかかる。街の隅から隅まで完璧に情報を集める必要はないとはいえ、あまり時間を掛けるわけにはいかない。


 故に、ご主人はさらに4体の猫型オートマトンを生み出した。


 一朗太。二郎丸。三太夫。四之助。の4体だ。


 ……そのため、名に“五”とあるのに、私が猫型オートマトンチームのリーダーとなった。


 ちなみに、数日後にさらに4体、六之進、七之丞、八兵衛、九太郎が生み出されている。


「これで9体。五右衛門は丁度真ん中となるわけですから、右翼4体左翼4体ということ。まさにリーダーに相応しいですね」


 違う。ご主人。それは違う。決定的に何かが違う。


 そう思いはしたが、その時はまだ会話機能が猫のみの状態であったのだ。


「ニャー」


 としか鳴けない。意思疎通はできるものの、それもご主人がそうしないかぎり、コミュニケーションは正しく取れない。なんとしたことだ。


 私のニャーは抗議のニャーではなく、肯定のニャーと誤解されてしまった。


 まぁ、リーダーと云っても、単なる統括役且つ連絡役でしかないので、さしたる問題はなにもないのだが。


 そのコミュニケーションの問題も、こうして発話機能が搭載されたことによって改善されたわけだが。


 話を戻そう。


 こうして生み出された我ら4体は、クレーセへと赴き、それこそ目につくものをすべて記録し、情報として持ち帰った。


 それにより、ご主人が不安視されていたことが緩和され、次の段階へと進んだ。


 つまり、ご主人と異世界人……いや、この場合、ご主人が異世界人とされるべきなのだが、この二者の交流である。


 とはいえ、場所柄接触できるのは冒険者ばかりである。荒事を専門とした、ともすればならず者と混同されるような冒険者との接触は、二の足を踏む。


 それがあるからこそ、ご主人は情報収集のために我らを生み出したのだ。自身がモンスターと誤認されないために。


 安全さえ確保されさえすれば、あとは引きこもって生活するつもりであった筈のご主人であるが、現状は孤児たちの支援をしている。


 これに関してはどう評したものか。


 人々との交流を正しくしていけば、信頼を得られるだろう。それにより、安全性も上がるといえる。だが人間は疑心を抱く生き物だ。これらの行為を悪事を働くためのカムフラージュであると邪推する輩もいるはずだ。

 それどころか、邪推もなにもなく、ご主人に対し悪意を持つものもいるだろう。現状は、そういった輩との接触機会が増える状況となったともいえる。


 安全性を得るために危険性を増やしているというのは、まさに皮肉な事態だ。


 街のほうでも多少噂が立っているが、危険視するほどのことでもないのが幸いだ。とはいえ、警戒している者も多くいるようだが。


 おおむね、予想通りの状況といえるだろう。ご主人はこの報告を聞いて、「ま、このようなモノでしょう。敵対されず、友好寄りの中立でさえあればよいのです。仲良くなりすぎても、面倒ですからね」と云っておられた。


 ご主人は我らが考えているほど、現地民との交流を望んでいるわけではなさそうだ。




 そうして、ご主人がはじめた事業が安定して動き始めたころ――




 私が哨戒任務を終えて戻ってきたとき、まっさきに目についたのは冒険者を投げ飛ばしているご主人の姿だった。


 8対1。手練れの冒険者対一般人(?)。そしてやや離れたところにいる魔法使いらしき男。常識的に見ればご主人が蹂躙されて終わる状況だ。


 だがご主人は無手で冒険者たちを容赦なく投げていく。それも致命となる投げに手加減を加えて。


 ご主人が腕を取り、半端に担ぐように投げる。その際、投げを打つ方向をほぼ垂直に真下に向ける。脳天から地面に落ちるように。そしてそれを直前で手前に引くことで、脳天ではなく、背、およそ首の付け根辺りから地面に叩き落としているのだ。


 このおかげで冒険者共は首を折ることなく、死なずにいる。とはいえ、それなりに重い装備を身に着けた状態で投げを打たれているのだ。その衝撃は見た目以上にダメージを与えているのだろう。


 明らかに冒険者たちの動きは鈍くなっていた。


 剣を振り降ろされる。躱す。もしくは距離を詰め腕を掴む。それが叶わぬなら近くの冒険者を盾代わりに使う。


 この状況に私はただただ驚いていた。そして下手に介入できないとも分かった。


 ご主人のリズムを乱入によりくずせば、それで終了してしまうかもしれない。そもそも私は、私たちは戦闘用ではない。爪と牙はあるが、モデルとなった猫と大差ないのだ。


 さらに云えば、ご主人よりの命もある。たとえ自身が死に瀕するような状況にあっても、決して手を出すなと。


 故に、私は気が気でない状態で見守ることしかできないのだ。


『さすがに減らさないと面倒くさいですね。本格的に制圧しましょう』


 ご主人が母国語で云った言葉が聞こえた。と同時に投げられた冒険者から、異様な音が聞こえてきた。


 そして響く悲鳴。にもかかわらず、銭湯や畑から誰もでてこないのは、この周辺が隠蔽されているからだろう。恐らくは、あの離れたところにいる魔法使いが原因だ。


 投げられた冒険者が立ち上がった。だがその右腕が、肘からおかしな具合にぶら下がっていた。


 あぁ、ご主人。あの投げで完全に相手の腕を破壊しましたね。恐らく、腱を数本引きちぎったのではないですか? 音がここまで聞こえてきましたし。


 たちまちの内に3人が行動不能になる。


 ご主人、どうみても一般人ではありませんよね? もしそれを信じるとするなら、故郷である日本という国はどんな魔境なのですか!?


「ちっ。さすがは神人ということか」


 魔法使いの声が聞こえた。


 その声に反応し、ご主人が魔法使いに視線だけ向ける。だが担いでいた冒険者はそのまま地面に叩きつけられた。


 魔法使いが呪文の詠唱を開始する。


「――【拘束】」


 対象の動きを封じる魔法。いわゆる魔法麻痺と呼ばれる魔法だ。


 ご主人の動きが目に見えて鈍った。鈍っただけで、動けている。魔法使いにとってはまさに異常な状況なのだろう。目玉がこぼれ落ちそうなほどに目を見開いている。


 そしてご主人は首を刎ねられた。それに対し、魔法使いが慌てて魔法を放ち、ご主人の首の落下を止めた。






 ご主人の首が落とされてから約4時間後。


 私はご主人の遺体の肩……いや、首のあった位置に座り、クルーセへと向かっていた。


 ご主人の体は首を落とされた後、冒険者たちの攻撃を受けたためにかなり酷い状態だ。

 ひとまず動ける程度に傷を繋ぎ合わせただけという有様だ。


 さすがに服装だけはボロボロのままだと問題であるため、簡単に縫い合わせた。その上血塗れである。新調した方が良いのではないと進言したところ、「この方がなにがあったか分かりやすいでしょう」と、なぜかご主人は得意気な顔をされていた。


 ……いや、ご主人。それはギルドをパニックにさせるのでは?


 私の首には通話玉。会話に関しては、ご主人が自身で行われる。では私はなぜいるのかというと、目の代わりだ。


 マスターは変なところで抜けている。


『よくよく考えたら、私は遠見の類は使えませんし、五右衛門はまだ日本語しか話せませんからね。いやぁ、実にうっかりです。仕方ないので、会話は通話玉を使いましょう。一回使ったきりでオブジェになっていますしね。五右衛門には目の代わりになってもらいましょう。通信に映像を乗せるくらいでしたら、さしたる調整でもありませんから』


 という結果が現状だ。


 さて、問題は街へと入るための門を抜けられるかだ。


 今にして思えば、子供たちの誰かに一緒に来てもらえば良かったのではないだろうか。


 だがもう、いまさらだ。






 案の定、門で止められた。問答無用で攻撃されなかったことは幸いだ。どうしたものかと困っていると、ちょうどアンディ君がやってきた。


 孤児院の年長組。普段は街で日雇いの仕事をアレコレと受けている少年だ。だがこのところは、時間が空くと畑仕事のほうにも顔を出すようになった。


 丁度良いので、彼を呼び止め、メッセンジャーになってもらった。冒険者ギルドへと向かい、ロッティ嬢に伝言を頼んだのだ。


 現在、ギルドと我々の窓口はロッティ嬢が受け持っている。


 10分後。アンディ少年とロッティ嬢が慌てたように走ってくるのが見えた。


 ロッティ嬢は転ぶのではないかと、ハラハラする走り方をしていた。恐らくはギルドの制服同様、あの靴も支給品なのだろうが、走るのにはまったく向いていないのだろう。


 さて、これがらが本番だ。本番なのだが――






 ロッティ嬢がこの遺体を見て、取り乱さないことを祈るばかりだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。