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彼女は3×8メートルの範囲をモップで磨いでいる。  作者: 和田好弘


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02_状況を見直しましょう


 蓋となっている硬質ガラスに手を当て、ゆっくりと押し上げます。


 その蓋は私の掛けた圧を感知し、ゆっくりと自動で開いていきます。


 完全に開いたところで、横倒しにした円筒のような培養層から起き上がりました。現状だけを見れば、奇抜な色の入浴剤をぶち込んだ酷いデザインのバスタブから出たところ、でしょうか。


 このファンタジーな世界において、ここはまさにSFな様相をしています。なんでこのように世界間がチグハグな有様となっているのかというと、主に私の主観の結果です。


 どうしても魔法で人を1から造り上げる、という方法が納得いかなかったのですよ。材料やらなんやらはどうしているのかと。疑問がつきませんからね。


 ですがSFであればその辺りはどうとでもできます。某漫画でも似たようなものがありましたしね。ナノマシンだなんだと活用すれば、出来てしまうような気がします。


 そうしたイメージの結果、このダンジョン内に私の復活システムを造り上げた結果がこの有様です。


 ……本当は、なにか適当な魔法陣をらしく描いておけば、そこにリスポーンできたらしいのですが、もはや後の祭りです。とはいえそれに納得ができなかったのですから、私にとってはこれが正義です。えぇ、正義ですとも。


 ひんやりとした床を素足で進み、すぐ隣にあるシャワールームに向かいます。この体に纏わりついている、べたつく培養液をとっとと洗い流してしまいましょう。


 この培養液の微妙な粘性は、肌に感じる感触が非常に気持が悪いのです。生き返る……といいますか、新しい体に乗り換えるのはこれが2度目……いえ、3度目ですね。ですけれども、慣れることはないでしょう。


 やや熱めのシャワーを浴びて培養液を流し、やっと一息をつきます。


 ふぅ……。まったく。さんざん警告はされていたでしょうに、本当にロクなことをしない人たちですね。報復はきっちりとしなくては。


 身だしなみを整え終え、私は白湯を用意しひと口飲み込む。


 復活したばかりは、新しい体の慣らしをしないと酷い状況になりますからね。前回のように、腹痛に呻きながら蹲って床をバシバシ叩くような状況に陥りたくはありません。


 さて、時刻は……8時46分。本来ならのんびりと朝食を摂っているところなのですが、本日は諦めましょう。お昼はスポドリだけにして、夜におかゆでも作って食べましょう。


 さて、私が死亡していた間の状況を確認しないと。


 取り急ぎ、私の死体を最低限人の形に縫い合わせ、【死体(アニメ―テッ)操作(ド・ボディ)】の魔法を用いて冒険者ギルドには連絡。


 後の処理はギルドに丸投げで問題ないでしょう。【竜鱗】のメンバーの遺体は、私が殺された後に、予備の作業用オートマトンが棺桶に収め、適切に保存してあるから問題はありません。


 ただ、傷の修復を行っていないため、教会による復活儀式後も傷痕が残る可能性が高いでしょう。


 まったくもって腹立たしいですね。私の仕事に瑕疵がついたではありませんか。


 えぇ。【天命騎士団】とかいう愚か者どもには、徹底した報復をしましょう。


 それにしても、私が死亡状態になると最低限のことしか出来なくなるのは問題ですね。


 やはり私の補佐となるようなモノを創ることが必要でしょうか?


 ……私を召びつけて殺したあの国を潰すために、自動人形を生成して送り出しましたけれど。

 いまだにあの国は健在なんですよね。もっとも、国の経済を支えていた最大のダンジョンはすでに人間ホイホイに改造したと報告はありましたが。


 なにかトラブルでも起きたのでしょうか? まぁ、この世界であの子をどうにかできる存在はまず居ませんから心配ないでしょうが。……もしかしたら、あの国のダンジョンすべてを壊して回っているのかもしれません。まぁ、気長に待つとしましょう。


 さて、私の方の状況改善ですが――


 ……よし。私の代理としての自動人形を作りましょう。少々コストが張りますが、必要経費と割り切りましょう。後で外見のデザインを考えないと。


 あぁ、それと作業用のオートマトンも修理しないと。遺体運搬しかさせていませんが、いないと大変ですからね。遺体を棺桶に収めるのも、なかなかに重労働なのです。


 まったく、ロクなことをしやがりませんね、あいつら。片っ端から壊すとかロクなもんじゃありません。


 あああ、となると、私の補佐役は後回しになりますね。コストがまるで足りません。懐を空にするわけにはいきませんし、現状だと……制作可能になるのは大分、後になりそうです。やれやれ、今しばらくは、出来るだけ貯蓄に精を出しましょう。


 それにしても、どうしてこうも問題を起こす輩が多いのでしょう?


 ……それとも私に問題があるのでしょうか? いえ、私が問題を起こしている、ということではなく、単に私が舐められている、ということですが。


 ふむ。子供たちが来るまで今少し時間があることですし、この腹立たしい状況に放り込まれてからのことを思い返してみましょうか。



★ ☆ ★




 宮城千世(みやぎちよ)。


 これが私の名前です。


 元々は“千世”ではなく、“千代”であったそうです。


 ですが、父は役所に届け出る直前で思ったのです。


 宮城千代では、いじめられることになるのではないかと。


 千代は“せんだい”とも読めます。宮城千代 → 宮城仙台。


 父はこのことに気付き、“代”を“世”と変更したのです。


 この話を聞いた時には、英断であると思ったものです。


 だってそうでしょう? 子供というのは、かくもくだらないことであれやこれや揶揄うもの。そしてそれが増長すればいじめに発展します。


 おかげで私は平穏な学生時代を過ごす――ことができませんでした。


 名前は問題ありません。えぇ、問題なかったのです。“ちよ”ではなく、“ちせ”と読み間違えられることの方が非常に多くありましたが、そんなのは些細なこと。


 問題となったのは私の見た目。


 長身痩躯に無駄な巨乳というのが私のスタイル。そして顏はというと、それなりに整った細面にたれ目なおっとり顏。


 簡単にいえば胸が目立つだけの、そこそこ綺麗な娘、というのが私のみてくれなのですが、致命的なことがひとつ。


 ……エロいのです。


 私がどうこうしているわけではありません。どちらかというと、私の行動原理はかなり男性的でしょう。男所帯で育った結果です。


 父と母、そして兄三人に私という六人家族。圧倒的に男が多いというのに加えて、母は元ヤンでやたらと口が悪いという有様。


 私が男っぽく育つというのは道理というものです。


 なので、なにかしらの活動中は妙に男性的でエロさは欠片もありません。が、黙って大人しく座っていたりすると、無駄に色気を振りまくただのエロい女にしか見えないのです。


 どこぞのソシャゲのキャラクターの声をあてていた声優さんが、担当キャラのことを、「外見がどうこうじゃないんだよ。存在がエロいの!」と力説していたのを知っていますが、どうやら私はそのキャラクターと同類のようなのです。


 実際、証明写真などで自身を客観視すると、確かにエロいなとしか思えませんしね。自覚してドン引きするレベルである分、もはや頭を抱えるしかありません。


 微妙に気怠気に見える、泣き黒子つきのこの目が悪いのでしょうか? それとも口元の黒子?


 おかげで学生時代は無駄なトラブルに巻き込まれたものです。知らないうちに、私が誰かと付き合ってることにされたりとかしましたし。制裁しましたけど。


 もちろん暴力で。


 えぇ、学生時代であるならば、やりすぎなければお咎めなんてありません。せいぜい注意で済みます。悪くても停学になるだけです。


 私の場合、私が報復した相手が停学なり退学になりましたけれど。私が婦女暴行の被害者であって、必死に抵抗したということに何故かなりましたからね。


 そんななかば苦行となった学生時代も終え、私も社会人となって3年目。


 地元小企業の秘書兼経理として問題なく働いていました。いえ、社長の趣味のせいで、溶接などもできるようにさまざまな資格をとったりもしましたけれど。溶接の資格が幾つもあるなんて、それまで欠片も知りませんでしたよ。


 外見のことで厄介なことは多少ありましたが、勘違いで粉をかけて来る輩をあしらうのは慣れたものです。


 こんなもの、本当は慣れるものじゃないのでしょうけど。


 ……ハァ。


 私の勤めている会社では、毎朝の朝礼の時、社員持ち回りでひとりが前にでて訓示を述べ、皆が復唱するということを行っています。


 訓示と云っても大層なものではなく、ごくごく当たり前の仕事の心得です。“ほうれんそう”とか“1mは一命取る”というような、事故防止のための教訓などのアレです。


 そしてその日は私が前に出るよう、急遽、社長より指名されたのです。地元地方テレビ局が取材に来るため、見栄えのする社員を表に出したいとのこと。


 思わず顔が引き攣りますが、さしたる頼み事でもありません。


 社長のいうように、確かに私の姿は無駄に映えるのです。ただ、その方向性がエロく見えるというものが問題ではあるのですが。


 そうしていつもの風景の背後にテレビカメラがあるという状況で、私は皆の前に立ったところで――


 世界が暗転しました。




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