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彼女は3×8メートルの範囲をモップで磨いでいる。  作者: 和田好弘


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17_お金を稼ぐためです


 死者蘇生。


 それができることは、私が言語知識を頂戴した魔法使いさんの知識により知っています。“蘇生”という言葉の意味に付随する知識に、それらがあったからです。

 とはいえ、それが現状でも行われているものであるのか、それとも単なる伝説的なことであるのかは不明です。それ故の確認です。


 えぇ、私がやろうとしていることの大前提となるものですからね。確認しておかなければなりません。


「死者を蘇らせることは可能です。もっとも、それを可能とする条件はございますが」

「できましたら、その条件を教えていただけますでしょうか?」

「はい、よろしいですよ」


 ピーターソン司教より、死者を蘇らせるための必要条件を教えていただいた。



 1:遺体があること。欠損があっても、基本問題はないが、欠損部が多いほど蘇生成功率は下がる。


 2:死亡時よりできるだけ時間経過が短いこと。長くなるほど蘇生成功率は下がる。ただし、遺体の腐敗を防ぐ手段(低温保存など)が講じられているのであれば、時間経過による蘇生成功率低下は抑えることができる。



 このふたつのみでした。なんといいますか、実に現実的な条件ですね。


 ひとつ思ったのですけど、頭部を欠損していた場合はどうなるのでしょう? 疑問ではありますが、確認することはやめておきましょう。なんだか怖い話を聞くことになりそうです。


 あ、もちろん、語られはしませんでしたが、もうひとつ条件があります。


 えぇ、お金です。お金。寄進、お布施、どっちの名目になるのかは知りませんが、結構な額がかかるようです。


「ところでモリィ嬢、なぜそのような質問を?」


 ブランドンさんが探るように聞いてきました。まぁ、突拍子もなく私も質問しましたからね。例の女神さまの件もありますし、なにかやらかしはしないかと心配なのでしょう。


 ご安心くださいな。変なことではありませんよ。


「お金を稼ぐためです」


 一番の目的を答えました。皆さん、ぽかんとしてますね。まぁ、そうでしょうねぇ。いかにも俗な返答ですもの。


「私自身は、ダンジョンの力をある程度使えるのでお金は不要なのですが、子供たちのことを考えると必要ですから」

「支援のためですか?」


 サンドラさんが真面目な顔をして聞いてきました。


「支援ではありませんね。子供たちに働いてもらって、その対価としてのお金が必要なのですよ。現状は、芋畑の収穫をしてもらうということで、現物報酬となっていますから。それで食糧の足しにはなるでしょうが、やはり貨幣経済のある社会では、お金が必要というものでしょう?」

「寄付をすればよいのではありませんか?」

「私が信条としているもののひとつに、『働かざる者、食うべからず』というものがあるのですよ。災害などで生活することがままならなくなったという状況であるのならともかく、そうでないのなら、無償の施しというのは害悪にしかならないと私は思っていますからね」


 子供たちを雇うためにも、そのお給金のための資金が必要なのです。トミー君たちと関わって、事情も知ってしまいましたからね。ここで見捨てるという選択肢はないのです。


 そんなことをしたら毎夜どころか、常時私の良心が私を責め立てること請け合いです。そんな状況は願い下げですからね。


「では、モリィ嬢は死者蘇生の事業をされると?」

「いえ、違いますよ。既得権益と戦うつもりはありません。……いえ、既得権益というのは適当ではありませんね。申し訳ありません」


 私はピーターソン司教に頭を下げました。えぇ、教会で行っていることですからね。商売ではないのです。信者への奉仕。えぇ、奉仕ですとも。


「私が行うことは、ダンジョン【アビス】内で死亡した際、その遺体をこの地上にまで運ぶ、という事業です。運ぶといいましたが、転移魔法的なことで行いますので、一瞬ですね。そしてその遺体の保全をします。

 ここを出入りする冒険者さんたちをしばらく見ていましたが、死亡率がかなり高いように見えます。これまで遺体を担いでの撤収する冒険者さんを何度も見ましたから。実際のところ、遺体を担いでの撤収はかなり厳しいのではありませんか?

 【栄光なき騎士隊】の皆さんとしては、こういったサービスの必要性は感じますか? あ、お値段のほうは、月あたり銀貨5枚くらいを考えています」

「月あたりでその値段か? 安すぎやしないか? 利用する側としてはありがたいが」

「儲けることは考えていませんから。それにダンジョン内から地上に運ぶだけですし、なにより当の利用者は教会へのお布施もあるでしょうから、そんなに高額な設定はしません。それにリーズナブルなお値段であれば、利用者も増えるでしょうからね。

 それにサービスを利用することがなかったとしても、返金はしません。ダンジョン内で朽ちることがない、という保証をひと月分販売する事業、と考えていただければよろしいかと」


 【栄光なき騎士隊】の面々は各々が顔を見合わせ、戸惑ったような顔をしています。


 はて? 反応を見るに、値付けが安かったんでしょうか? 形のないものを売るわけですから、これくらいが妥当かと思ったんですけど。騙されてなくしても、さしたる痛手ではないという額のつもりだったのですが。


 ……まだこのあたりの相場というものを分かり切っていませんからね。もしかすると、命に関わるようなことに関する事業は高額であるのが常識なのかもしれませんね。

 そういえば、海外では救急車は有料でしたか。それを考えると、日本の常識は微妙に世界の常識とズレているのかもしれません。


 まぁ、いいでしょう。これで大儲けするつもりはないのです。子供たちへのお給金分さえ稼げれば問題ありません。それに、銭湯がうまく商売として回ってくれれば、そこで十分に子供たちへの給金分は稼げるでしょうし。


 初期運転資金さえ調達できれば、あとは何とかなるのです。……多分。


「モリィ殿、孤児たちを働かせるということだが、どういった仕事を与えるので?」

「ここの店番、です。ここでお風呂屋さんを運営しようと思うのですよ。すでに施設もこうして出来上がっていますから。

 店番としてやってもらうのは、施設の使用料の授受。それと商品の販売――そちらにある冷蔵庫内の飲料をはじめ、入浴の際に必要な石鹸や手ぬぐいの販売となります。

 衣服の洗濯も請け負っても良いのですが、革製品や鎧の類はちょっと難しいので検討中です」

「あのぅ、それは少し難しいのでは~? 孤児の子たちは勘定ができないと思いますよぉ」


 ロッティさんが首を傾げています。顔色は……大分良くなりましたね。一安心です。さて、金勘定のことですが――


「大丈夫ですよ。そのために、というわけでもありませんが、本日から子供たちに算数を教えていますから。少なくとも四則演算程度ができるようになれば、簡単なお金のやり取り程度は問題ありません」


 と、答えたところ、細い目をクワっと見開いてロッティさんが身を乗り出しました。


「それは、そちらの白い板に書かれているものですか!?」

「はい。そうですよ」


 そしてアラビア数字やらなんやらについて簡単に説明をすることになりました。まぁ、こっちの数字での計算は苦痛でしかありませんでしたからね。

 ロッティさん、事務方ということですから、きっと経理関係では大変な思いをしていたのでしょう。


 実際、私がローマ数字で経理をやれなどと云われたら、即座に社長を蹴り飛ばして会社を辞めますとも。


 ついでに子供たちが使っていた筆記具についても聞かれました。


 これはこっちの世界でも簡単に作れるものです。木の板に枠をつけたもの。非常に浅い木箱、といってもいいでしょうか? いえ、木箱の蓋と云った方が近いですね。それに砂を敷き詰めたモノです。


 これに木の棒で字を書き、消すときは砂を均すだけ。昔読んだ小説に登場した簡易筆記具です。名称は『砂盤』。コストを考えると、これほど良いものはないでしょう。

 帆布と炭でもいいのですが、洗って使うにしてもどんどん黒くなりますし、当然炭も消費します。黒板とチョークも同様。となるとこの砂板、馬鹿みたいにコスパが優秀なのです。


 それらを説明したところ――


「この砂盤、商業ギルドに登録しましょう! 商売を始めるのであれば、商業ギルドの会員になっておかねばなりませんし。ご安心ください、身元保証人には私がなります。こう見えてもリッピンコット伯爵家の端くれ、お任せください!」


 え、ちょっ――


 ロッティさんのあまりの豹変ぶりに、私は思わずブランドンさんに視線で助けを求めました。さすがに砂盤は、商品とするほどのものではないでしょう!? だって、地面に棒きれで字を書くのと一緒ですよコレ。


 あ、ブランドンさんもびっくりして目をかっ開いてますね。大丈夫でしょうか?


「ろ、ロッティ、落ち着け。つかお前、そんなテキパキ喋れたのかよ!?」

「切羽詰まれば喋れますよ! いいですか、いまちょっとモリィさんからお聞きしただけでも、ギルドの仕事効率がはるかに上がることは簡単に予測がつきます。こと経理だけなら、処理速度が倍になりましょう! えぇ、このアラビア数字なるもの、本当に素晴らしい!」

「おま――泣くほどなのかよ!?」

「スペアのスペアでしかなかった脳筋王子様にはわからんのです!」

「酷いことを言うな!?」


 は? 王子様!? スペアのスペアということは、第3王子ということでしょうか?

 いや、なんでそんな方が一ダンジョンの管理責任者なんてやってるんです? 立場的には、この街の4ダンジョンの統括責任者とかでしょう、最低でも。


 そんな疑問が顔にでていたのでしょう、ピーターソン司教が教えてくれました。

 立場的には支部長的な位置づけですが、そもそもここの4ダンジョンの統括という立場の者は存在せず、4ダンジョンの管理責任者からひとりが代表となっているとのこと。


 なので、より正確にいうと、ブランドンさんは【アビス】ダンジョン担当冒険者ギルド長件、クルーセ――もとい、アデカーナ自治領区冒険者ギルド長とのこと。

 いや、街どころか自治領区全体とか、大物じゃないですか。……あれ? 王子っていうことは、もしかしてアデカーナの領主様でもあるんじゃないですか?


 あ、そうなんですね。あぁ、伝統的に、ここは王族が管理する場となっていると。……えっ、ここって女神さまが殺された場所なんですか?


 詳しく聞いたところ、なんというか、その女神さまと呼ばれる日本人女性は、ヘネシス教とやらに極地核兵器的な魔法を撃ち込まれて、ここにあった街もろとも殺されたそうです。


 ヘネシス教、イカレてませんか? それが原因で文明崩壊したわけですから、現状、多くの人々から忌避されているそうです。


 ……まだ生き残って活動を続けてるらしいですよ、ヘネシス教。さすが宗教、しぶといですね。というか、よく信者が集まっているものです。


 あ、ブランドンさんとロッティさんの話し合いがついたようですね。……なぜブランドンさんの頬に赤い手形がついているのかは、聞かないほうがいいでしょう。


 ……いえ、なんで算術教室のことで暴力沙汰になっているのですか? とういうか、王子様ですよね? 臣籍降下して――いえ、していても問題ですよね?


 え? どうなっているんです?


 ……ロッティさん、強い。


「モリィ殿、すまないが明日からの孤児たちの算術の勉強に、ロッティも参加させてもらえないだろうか?」

「それは構いませんよ。時間は朝9時から昼の12時までの3時間……と、この時間の区切りだと分かりませんよね? これを差し上げます」


 こっちは教会が鐘の音で時刻を教えていますが、6時起点の4時間ごとで、基本日時計からの時報となっています。


 なので、懐中時計をひとつ渡しました。私は腕時計ではなく、懐中時計派です。どうも手首になにかを巻くのがダメなんですよね。

 機械式の時計ですから、定期的にゼンマイを巻いてもらわなくてはなりませんが、そこは手間をかけてもらいましょう。時計の読み方を教えてと。


 はて、ロッティさんの手が震えていますが?


「こ、ここここのような高価なものを――」

「いえ、安物ですよ。秋葉で3800円で買ったものですし」


 秋葉を散策しているときに目について、思わず買ってしまったんですよね。3つ程。ひとつは真鍮製の金ぴかスケルトン仕様。もうひとつは木製で時間に合わせて文字盤が昼夜仕様に変わるもの。もうひとつが今渡した、いかもな蓋つきの懐中時計(前者のふたつは蓋のないデザインだった)。


「こちらの値段だと、金貨1枚にも満ちません。銀貨でいいとこ6枚くらいでしょうかね?」


 そうして少々雑談をして、話し合いも終了となりました。明日、ロッティさんが商業ギルドの方をひとり連れてきてくださるそうです。


 いや、助かりますね。私、ここから動けませんからね


 そして天使教会からサンドラさん、【栄光なき騎士隊】からは魔法使いのアーチさんが算数教室に参加することになりました。


 いや、なんで?


 なんだか面倒なことになりそうな予感がしますが――いえ、そこに王子様がいますね。もし本当に面倒うなことになったら、王子様に丸投げしましょう。私は子供たちにだけ算数教室をして、それで終わりです。


 それらの知識を周囲に広げるかどうかは子供たちにお任せです。……あと追加の三名と王子様に。

 面倒ごとを押し付けるだけというのも申し訳ありませんね。献上品として王子様にも懐中時計を差し上げましょう。なんだか物欲しそうにチラチラとロッティさんに渡した懐中時計見ていますし。王家用の献上品ですし、家紋……というか、こっちだと紋章でしょうか? それを蓋の部分に掘り込めばいい感じになるでしょう。個人的には成金趣味みたいで嫌いなのですが、金時計仕様で作りましょうか。文字盤に宝石をあしらえば尚よしというものです。なぜかピンクダイヤが頭に浮かびましたから、それを使いましょう。


 あとで王家の紋章について訊ねるとしましょう。勝手に紋章を彫るのが問題ならば、象徴とする動物なり植物なりを彫ればいいだけですしね。


 そして話は戻り、再度、銭湯の話に。


 とはいえ、もう話せることは話し終えているのですが。


 ふむ。実のところ、ちょっと気になっていることはあるのですよね。主に入浴料についてですが。妥当な値段がさっぱりです。基本銅貨5枚といいましたが、ここにいる皆さんでしたらいい値段を示してくれることでしょう。その値段から、いくらか引いた値をつければ、いい感じになるはずです。


 ということで、彼らにもデモンストレーション、いえアピール? をしておきましょうか。


「みなさん、折角ですし、お風呂に入っていかれますか? こういってはなんですが、そちらの冒険者のみなさんは今朝方【アビス】から上がってから、そのままこちらに護衛として来られたのでは? まだまともに汚れも落としていないでしょう? 今日のところは宣伝も兼ねたお試しということで、無料で構いませんよ」


 一部の貴族でもない限り、お風呂に入る習慣がないことは調査済みです。川などで水浴びする、あるいは行水みたいな感じで体を洗っています。もしくは濡らした手ぬぐいで身体を拭く程度であるようです。


 それでは、皆さんに施設の説明をするとしましょうか。そうだ、ヒューゴ君を呼んで、男性陣に入浴の仕方をレクチャーしてもらいましょう。


 私は五右衛門にヒューゴ君を呼んでくるように向かわせました。




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