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彼女は3×8メートルの範囲をモップで磨いでいる。  作者: 和田好弘


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16_なにをやらかしているんですか、その人


 おいでになられた皆さんを、ひとまず銭湯のロビー? へと誘導。子供たちにはいちご牛乳を渡して、畑へと向かってもらいました。


 本当はお茶の時間をしてから畑仕事の予定でしたが、予想よりも早く来客がありましたからね。


 子供たちは自分の使っていた学習机と椅子を端にきちんと寄せていたので、スペースだけは確保できています。ちなみに、学習机は、学校で使われているものです。ボルトで高さ調整のできる、お馴染みのアレです。


 私が使っていたホワイトボードはそのままですが、まぁ問題ないでしょう。もとより端に置いてありますし。


 とはいえ、これではまともの話し合いもできないので、テーブルと椅子……ソファーを用意します。ちょっと立派なテーブルとソファーにしようかとも思ったのですが、微妙にコストが重い上に、今後も使うかどうか怪しいので、ちょっと質の良い会議机と事務用の椅子にしましょう。


 えぇ、社長が無駄にこだわって選りすぐったあのテーブルとイスを。こだわっただけであって、やたらと座り心地が良かったのですよね、あの椅子。椅子としてはリーズナブルなお値段であったのに、やたらと丈夫で重宝しました。


 それを彼らには知られないように隣室で生成し、ガタゴトと運んでいたら冒険者さんたちが手伝ってくださいました。


 なんというか、大変恐縮です。お客様に手を使わせてしまうとは。


 他の方々は私たちの様子を見守っています。……ただ見ているだけ、ともいえますね。まぁ、これがこの世界の文化的側面なのでしょう。


 ある意味西洋的でしょうか?


 ほら、清掃員などを雇っている場所では、掃除をすることはその仕事を奪うことだからと、一切掃除をしない、というようなことを聞いたことがありませんか? 学校などはそんな感じですね。その上で、きちんと仕事の種を作ってやったんだと云わんばかりに散らかす者もいるとか。


 日本人的感覚からは信じられませんが。


 まぁ、そういった文化的違いがあるため、サッカー観戦などで観客がゴミを集めて持ち帰ったりすると大騒ぎされたりしたわけですが。


 この世界もそういった感じなのでしょう。


 体裁が整ったので、まずは自己紹介をします。もちろん、偽名の“森桜花”で名乗ります。


 相手方は 冒険者ギルドからダンジョン【アビス】支部支部長のブランドンさん。いわゆるギルマス。そしてその【アビス】支部の事務員であるロッティさん。


 天使教からは、ここクルーセの教会を任されているピーターソン司教。そしてサンドラ侍祭と見習い神官のミニー。


 最後に護衛としてついている【栄光なき騎士隊】のみなさん。


 さて、話し合いです。


 ひとまず、私の事情をお話しします。その上で、それが事実かどうかを調べるために、異世界物の定番ともいえる“鑑定”が行われることとなりました。


 “鑑定”には水晶玉? 材質がなんであるのかは不明ですが、見たところは薔薇水晶を球形に磨いたものであるように見えます。


 その水晶に手を置くように云われ、その通りにすると、いわゆる私のステータスが表記されました。


 といっても、表記されたものは性別と年齢、そして状態と能力のみです。


 名前は表記されていません。理由はわかりませんが、そういったものなのでしょう。偽名を名乗っているので助かる仕様ですね。


 ちなみに、こんな感じで表記されました。



+------------------------------------------+

年齢:25 性別:女 位階:---


 状態:召喚魔法未完了 半ダンジョン同化


 技能:護身術(殺法)


+------------------------------------------+



 ……こうして自身の状態を見ると、なんとも微妙な気持ちになりますね。ある意味これまでの努力の結果を見せつけられているようなものですからね。


 あれ? 学問関連は技能には含まれないようですね。私、それなりに資格などを取得しているのですが……まぁ、運転免許とか簿記資格とかは、こっちの世界では意味不明でしょうしね。溶接なんてその最たるものでしょう。


 それにしても、内容をみるに、なんというか、私、凡人ですよねぇ。


 というか、殺法って、おじいちゃん先生、私にいったいなんてものを仕込んでくれたんですか。習っている途中、これを実践したら死ぬんじゃないかとか思っていましたけれど、本当に死んじゃうじゃないですか。


 まさか「なに、悪くとも過剰防衛だ。問題ない問題ない」と笑っていましたけれど、あれ、冗談じゃなかったんですね。


 ……あれ? なんだかみなさん静か――なぜ戸惑ったような表情を一様に浮かべているのでしょう?


「どうされました?」


 訊いてみましょう。


「あー……端的に云う。読めん」

「は?」

「おそらくですが、モリィさんのネイティブ言語で表記されているのではないでしょうか?」


 ロッティさんが困ったように答えた。


「あぁ、なるほど。確かに日本語で表記されていますね」

「“日本語”……ですか?」


 ピーターソン司教が真っ青な顔で訊きました。


「はい、日本語で表記されています」

「つまり、あなたは日本の方、ということですか?」

「えぇ。そうなりますね」


 ピーターソン司教が頭を掛かてテーブルに突っ伏しました。


「どうしました、司教!?」

「ブランドン殿、こちらのモリィ殿は、女神さまと同郷の方にございます」

「はぁっ!?」


 支部長さんが椅子を蹴倒す勢いで立ち上がりました。


 というかですね、なんだか嫌な単語が聞こえたのですが?


 女神様? 同郷?


 地球人がこの世界になんらかの事情で転移だか召喚だかされたと私は予想しています。ですが、その人物が女神と呼ばれていて、おまけに日本人というのは想定していませんよ!?


「その、“女神さまと同郷”というのはどういうことでしょう?」


 ピーターソン司教に訊いて見ましょう。


 司教さんはいまにも泣き出しそうな勢いで、この世界の神話ともいえる千年前の話を聞かせてくれました。


 ……。


「いや、なにをやらかしているんですか、その人」


 それが真っ先にでた感想です。文明を滅ぼしているじゃないですか。ノアの箱舟の大洪水じみたことを引き起こすとか。


 ……いや、一体、どうやったのでしょうね? まぁ、だからこそ女神様と称されているのでしょうけれど。


 あれ? 女神様?


「審判執行者なるドラゴン……ヴァーミリオンさんも、女神さまの配下のような――」

「赤竜様と会われたのですか!?」


 ピーターソン司教が興奮したように身を乗り出し私に問いました。


 びっくりした。思わず仰け反りましたよ。


「え、えぇ。ここの天辺。頂上に住んでいるようです。私の事情を話したところ、【ジッグラト】へと行けば、帰るための知識を得られると助言してもらいました」

「あぁ、なんてことだ。確定だ。世界がまた……」


 崩れ落ちる世に司教さんが椅子に座りなおしました。その顔色は真っ青です。隣に座るブランドンさんも顔色がよろしくありません。


 うーん。またしても神罰? が下されると思っているのでしょうか? 多分、それはないと思いますが。


「その千年前のようなことにはならないと思いますよ」

「その根拠は?」

「多分、滅ぼされるにしても、私を召喚してこんな目に合わせた輩のいる国くらいかと。破棄したはずの異世界召喚魔法を復活させた阿呆に対する罰として。

 もしかしたら余波で周辺国にも少しばかり被害がでるかもしれませんが。

 まぁ、事の発端は私を召喚したこと、となるでしょうから、被害者である私がヴァーミリオンさんに無関係な者を巻き込まないようにお願いすれば、どうにかなるんじゃないでしょうか?」


 ブランドンさんと司教さんが顔を見合わせています。女性陣は……まだ顔を青くしていますね。


「私は教会本部へと報告をします。信じてもらえるかは不明ですが。おそらくは、誰かしら確認のために送られてくるでしょう。その上で元凶を探すことになる思います。

 モリィさん、その時はまたお話を伺うこととなりますが――」

「はい。問題ありませんよ。むしろよろしくお願いします。私としても、その元凶については知りたいですから。えぇ、少なくとも10倍返しで落とし前をつけていただく予定ですので」

「10倍返し?」

「我が家の家訓です。

 それでギルドの方は、問題ないでしょうか?」


 ブランドンさんに確認をします。するとブランドンさんはしっかりと頷きました。まだ顔色は悪いですけれども。


「モリィ殿に危害を加えないように周知する。周知するが、馬鹿をやらかす者がいないとも限らん。どうか身の安全には気を付けてくれ」

「はい。それはもちろん」


 どこの世にも、犯罪者というのはいますからね。とはいえ、周知さえしてもらえれば、誰も彼もが危険因子とはなりませんから、それだけ安全は確保できるでしょう。


 と、そうだ。確認したいことと、お願いしたいことがあったんでした。


 これもしっかりと聞いておきましょう。


 まずは教会の方。


「ピーターソン司教、ひとつ確認をさせてください。教会には、死者を蘇らせる奇蹟は存在しているのですか?」


 私のその問いに、ピーターソン司教はまだ赤みの戻らない顔のまま、怪訝な表情を浮かべた。




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