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彼女は3×8メートルの範囲をモップで磨いでいる。  作者: 和田好弘


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11_天辺がどうなっているのか見ておきましょう


 みんなを見送った私は、畑と銭湯の入り口を元通りの岩肌に隠蔽しました。


 おっと、忘れないうちに、畑と銭湯の位置を入れ替えておきましょう。


 ……よし。


 これで左から、私の部屋、ダンジョン入り口通路、銭湯、畑、となりました。


 せっかく作った銭湯ですからね、できれば今後、冒険者相手に運営出来たら御の字です。


 さて、昼間に設定したダンジョン拡張はどうなったでしょう? スマホで確認してみましょう。……うん。きちんと出来上がっていますね。領域の拡張には時間がかかると思っていたのですが、すでにダンジョンの上にある自然物は、半ダンジョンの扱いのようですね。完全なダンジョンの管理区域とするに、さしたる時間はかからないようです。


 これを横に広げるとなると、かなり時間がかかるようですが。


 まだ十分明るいですからね。ここの天辺がどうなっているのか見ておきましょう。


 さて、天辺に来たのですが――おぉ、そこそこ風が強いですね。これなら風力発電機をおいてもいいかもしれません。


 テーブルマウンテンの天辺は、ひざ丈ほどの草が生えた野原となっていました。ところどころに私の腰丈くらいの低木が生えていますね。よく道路わきに植えられているツツジみたいな木です。


 ぐるりを周囲を見回し――なにアレ? ……ひとまず置いておきましょう。


 ものの見事になにもありませんね。草の緑と、低木の濃い緑と、ところどころに白や黄色の小さな花。あと朱色の巨大な塊。


 えぇ、そのあえて見えなかったことにした、朱色のソレに視線を向けます。


 野原の中央あたりに居る、朱色の小山のような存在。


 ……あれ、ドラゴンですよね? 私の目測が確かであるなら、お寺さんの本堂くらいの大きさがあるのでは?


 スマホを介して、ダンジョンから情報を検索します。


 ふむ。あのドラゴンは獣に分類される種ではなく、知的生物に分類すべき種のドラゴンのようです。というか、普通に人類より上位種といっていい存在でしょう。


 雑食のドラゴン……肉食獣じゃないんですね、ドラゴンって。それに獣肉よりは魚肉を好むとあります。


 ふむ。これは、挨拶をしたほうがいいでしょう。ここがあの竜の昼寝場所であるなら、例え端っことはいえ、挨拶もなしに施設を建造したら問題が起こるやもしれません。壊されても困りますし。とりあえず、いつでも逃げられる用意をして、接触してみましょう。


 ここにきて、私がダンジョンと同化していることに感謝ですよ。転移で逃げられますから。……腹立たしいですけれど。


 そうしててくてくと歩き出し――ある一定のところで進まなくなりました。


 そうでした。私はダンジョンの領域から出られないんでした。私がダンジョン領域化したのは、このサッカーコートサイズの場所だけです。


 まったく。地味に厄介ですね。さてどうしましょう? ……しかたありません。イチロウタに接触してきてもらいましょう。ほかの子たちは、今日も周囲の探索に出していて、まだ戻ってきていませんからね。


 白猫を足元に召び出します。


 あぁ、でも、意思疎通をどうしましょうね。イチロウタは人語はもとより、竜語……があるのかは不明ですが、話せませんしね。


 仕方ありません。不躾ではありますが、通信機的なものをイチロウタに運んでもらい、それでなんとかコミュニケーションを取りましょう。


 なんでしょう、挨拶をしたいだけなのに、どうにもおかしな方向に進んでいる気がしてなりませんよ?


 そんなことを思いつつも、スマホでアイテムを検索します。


 あぁ、これがよさそうですね。通話玉。標準版と廉価版とがあるようです。違いは、標準版は音声のほかに映像も送れるというもの。いわゆるテレビ電話です。一方廉価版は、映像送受信機能をオミットした、音声送受信のみの普通の電話です。


 廉価版のほうで十分ですね。必要コストも半分以下ですし。


 私は廉価通話玉を生成し、対となっているそれのひとつを首輪にくっつけました。そしてイチロウタの首に装備。


 なんだか救助犬の猫版みたいになりましたね。救助犬は玉ではなく、ワイン樽がくっついているわけですけど。


 さぁ、イチロウタ、お願いしますよ。ちょっとあのドラゴンさんのところまで行ってきてください。


 命じると、イチロウタはサッと敬礼して軽快に歩いていきました。


 ……いや、だからなんで敬礼? 本当に私は何を間違えたんでしょうね?


 イチロウタはすいすいと草原を進んで……あ、草でよく見えなくなりましたね。草丈のほうが高いですからね。


 まぁ、到着したら知らせてくれるでしょう。通話玉は起動してありますし。


 通話玉からは草の擦れる音が聞こえてきます。


 これは、あとでイチロウタを洗ってあげなくてはいけませんね。そういえば、オートマトンでもダニの類はつくのでしょうか?


「ニャー」


 とりとめのないことを考えていると、通話玉からイチロウタの声が聞こえてきました。どうやら到着したようです。


 さて、挨拶をするわけですが……第一声はどうしましょう? そもそも言葉が通じればよいのですけど。


「お寛ぎのところ失礼します。私、モリ・オーカと申します。本来なれば、直接ご挨拶申し上げるところ、私は不明な事情によりダンジョンの範囲より離れることができません。どうぞこの無礼、ご容赦を願います」


 ……あ、あれ? 緊張のあまり、私、なにかおかしな言い回しというか、間違った言葉選びをしていませんか?


「……暫し待て」

「ニャー」


 やたらと低い声が通話玉から響き、次いで返事をするようにイチロウタの声が聞こえて来ました。


 向こうの朱色の小山が動いています。やがて大きな翼……蝙蝠羽は翼って云っていいんでしょうかね? とにかくそれを大きく広げ羽ばたいています。


 おぉ、浮いた!


 どうみても物理法則を無視しているようにしかみえませんが。あの巨体を浮き上がらせるほどの能力を有しているようには見えませんよ、あの蝙蝠羽。


 胴体と羽根のサイズを考えると、大きいといえど、羽根のサイズが足りないような気がします。


 ある意味、クマンバチを彷彿とさせますね。でもクマンバチは目にも止まらぬ速さで羽ばたいていますが、ドラゴンはゆったりとしたもの。


 どういう原理で飛んでいるんでしょうねぇ。


 そんなことをぼんやりと考えていると、ドラゴンが私の目の前に着地しました。ドシンと。ちょっぴり地面が揺れたような気がします。なるほど、結構な重量な模様。


 それを考えると、大きいとはいえあのサイズの羽根で空を飛べるのは不思議としかいいようがありません。


 ……蝙蝠羽根。実家周辺では、夕方になると蝙蝠が餌の虫を求めて飛んでいたりしました。その飛んでいる姿はなんというか、かなりジタバタした雰囲気のものでした。鳥の翼と、翼膜の張られただけの蝙蝠羽根とではその性能はまるで違います。


 いや、本当に、ドラゴンはどういう原理で飛んでいるのでしょうね? やはり魔法でしょうか? とすると、あの羽根は単なる飾り!?


 とりとめもないことを考えます。えぇ、現実逃避ですとも。すぐ目の前にでっかいドラゴン。……怖い。


 ドラゴンがにゅぅっと私に向けて首を伸ばしました。その金色の目がじっと私を見つめています。


「娘、お主――ぅん?」


 ドラゴンが私から空へと視線を向けました。つられて私も空を見ます。


 空は暗さを増し、ぽつぽつと星が瞬いていました。


 あぁ。そういえば夜空を見上げるのなんて、いつぶりでしょう? 夜道を歩くことはちょくちょくありましたけれど、こんな風に眺める目的で見たのはいつのことだったか。……下手すると中学の頃にまで戻るかもしれません。


 ドラゴンの動く気配を感じ、視線を空からドラゴンに向けました。


 おぉ、奇麗ですねぇ。


 私の怖気た気持ちも諦めが――いえ、落ち着いたのか、冷静にドラゴンの姿を見ることができました。


 私は爬虫類の美しさを理解できているわけではありませんが、嫌悪しているわけでもありません。蛇とかも、毒さえなければ平気ですからね。


 この朱色のドラゴンさんは、いろいろといかつい感じですね。あれです、ネットで見たことがあるあのトカゲ。鎧トカゲ、でしたっけ? あれを大きくして角を生やした感じでしょうか。


 ドラゴンはひとしきり私を見た後、こう云いました。


「繋がっておるな……」


 そういって再度ドラゴンは空を見上げた。


 ……繋がってる?


「繋がってるというのは?」

「お主の元居た場所とだ。まだ切れてはおらんということだ。術式が完了しておらん」

「では、帰ることのできる可能性はあるということですね」

「そうだが……お主はここに送り込まれて来たのではないのか?」


 ドラゴンの問いに、私は事情を話しました。


 話を聞き終えたドラゴンが唸りました。


 やはりかつて召喚が行われていたようです。そしてそれに激怒した女神さま? が、それらを破壊したのでしょう。どうやらこのドラゴンさんは、その破壊側として関わったようです。


 えぇ。でしたらお友達。お友達ですよ。ぜひとも友誼を結びたいですね。そして私をダンジョンにぶち込んでこんな有様にした輩に、落とし前を一緒につけさせて欲しいものです。




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