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有能侍女は幼馴染に囲われていることに気づかない  作者: HANABI


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第2話:夜会の光と、見えない危うさ

公爵家の大広間は、まるで別世界のように煌めいていた。

シャンデリアの光、音楽、笑い声、香水の香り。

そのすべてを――

「西側テーブル、ワイン補充を優先。厨房に追加要請済み。あと、第三控室の灯りが弱い、すぐ替えて」

リリアは、すべて把握していた。

「は、はいっ!」

侍女たちが慌ただしく動く。

その中心で、小柄な体をぴんと伸ばし、次々と指示を出す姿は――

まるで戦場の指揮官のようだった。

「さすがだな」

背後から低い声。

振り向かずとも分かる。

「アルト、東側は?」

「問題なし。……って言いたいところだが」

「何かあったの?」

「いや、“何もないのが不自然なくらい順調”って意味だ」

「それが一番いいのよ」

リリアはさらりと答え、次の指示を飛ばす。

その様子を、少し離れた場所から見ている人物がいた。

金の髪を揺らしながら、グラスを傾ける――レオン。

「……へぇ」

ぽつりと呟く。

「本当に、“別人”みたいだね」

幼い頃、泣き虫で自分の後ろに隠れていた少女が、

今ではこの場を回している。

その変化に、目を細めた。

その頃。

「失礼、君ちょっと」

背後から、ぬるりとした声がかかる。

リリアが振り向くと、見知らぬ青年――子爵家の三男だった。

少しお酒の香りが彼を纏っている。

「少し、話さないか。」

「申し訳ございません、仕事中ですので」

にこり、と営業用の笑顔。

完璧な断り方。

――のはずだった。

「少しくらい構わないだろう?」

男は距離を詰める。

「この家の侍女にしては、随分可愛らしい」

その視線が、露骨に体をなぞる。

リリアの背筋に、ぞわりとしたものが走った。

(……嫌な感じ)

それでも顔には出さない。

「恐れ入りますが――」

「いいから」

ぐい、と腕を掴まれる。

「っ……!」

「空いてる部屋がある。静かに話そう」

「離してください」

声は冷静。けれど力は強い。

周囲は賑やかで、気づく者はいない。

(まずい……)


一瞬、過去がよぎる。

――優しかった声。

――差し出された手。

――そして、あの言葉。

『お前、結構稼いでるんだろ?』


胸が、ぎゅっと締まる。

「やめてください」

今度は、はっきり拒絶する。

それでも男は笑った。

「つれないなぁ」

そのまま、半ば引きずるようにして廊下へ。

そして――

人気のない小部屋の扉に手をかけた、その瞬間。

「――その手、離せ」

低く、鋭い声。

男の手首が、横から掴まれた。

「……誰だ」

「この家の執事だよ」

アルトだった。

眼鏡の奥の目が、冷たく光る。

「勤務中の侍女に手を出すとか、頭湧いてんのか?」

「貴様……口の利き方を」

「聞いてねぇよ」

ぎり、と力が込められる。

男の顔が歪んだ。

「っ……離せ!」

「じゃあまずお前が離せ」

一瞬の睨み合い。

そして、男は舌打ちして手を離した。

「……覚えておけ」

捨て台詞を吐いて去っていく。


静寂。

リリアの腕から力が抜けた。

「……大丈夫か」

「……ええ」

そう答えたけれど、

少しだけ、呼吸が乱れている。

アルトはそれを見逃さない。

「お前な」

声が、少し強くなる。

「油断するからだろ」

「……してないわ」

「してる」

「してない」

「してるって」

いつもの言い合い――のはずなのに。

今日は違う。

「一人で動きすぎなんだよ」

「仕事よ」

「だからって限度があるだろ」

「私は侍女よ、これくらい――」

「無理すんなって言ってんだ」

ぴたり、と言葉が止まる。

アルトの声は、苛立ちと――ほんの少しの焦りが混ざっていた。

「……別に、平気よ」

少しだけ目を逸らすリリア。

その瞬間。

「――アルト、そんなに怖い顔しないで」

柔らかな声が割って入る。

レオンだった。

いつの間にか、すぐ後ろに立っている。

「見てたのかよ」

「途中からね」

レオンはリリアの前に立つ。

さりげなく、庇うように。

「リリア、怪我は?」

「……ございません」

「よかった」

その一言が、妙に優しい。

アルトが小さく舌打ちする。

「お前、タイミングいいな」

「でしょ?」

「気に入らない」

「知ってる」

レオンは軽く笑い、そしてリリアを見る。

「でもね、アルトの言ってることも間違いじゃないよ」

「……」

「君、有能すぎて自分のこと後回しにする癖あるから」

図星だった。

リリアは何も言えない。

「昔からそうだよね」

レオンは少しだけ目を細める。

「泣いてても、“大丈夫”って言う子だった」

その言葉に、胸がちくりとする。

「……今は泣きません」

「うん、知ってる」

「強くなったので」

「それも知ってる」

一歩、近づく。

「でもね」

声が、少し低くなる。

「守られるのが下手なのは、昔のまま」

リリアは息を呑む。

アルトが顔をしかめる。

「……お前さ」

「何?」

「美味しいとこ持ってくな」

「努力の成果だよ」

「うるせぇ」

レオンはくすっと笑って、軽く手を上げる。

「まぁいいや。とりあえず」

リリアに向かって、にこりと。

「今夜は、僕の視界に入る範囲で働いてくれる?」

「……それは」

「命令じゃない。お願い」

少しだけ、真面目な顔。

リリアは迷う。

けれど――

「……承知しました」

小さく頷いた。

アルトがため息をつく。

「結局聞くのかよ」

「仕事の効率を考えただけよ」

「はいはい」

「何よその顔」

「別に」

また始まる、いつもの調子。

でも。

さっきより、ほんの少しだけ――

距離が、近くなっていた。


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