表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
有能侍女は幼馴染に囲われていることに気づかない  作者: HANABI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/29

番外編:それぞれの距離、その先にあるもの

短編2話

■王城にて■

■二人の距離■

■王城にて■


王城の回廊は、冬の光に静かに照らされていた。

高い天井から差し込む白い光が、磨き上げられた床に淡く反射している。


人の往来はある。

だが、どこか音を抑えたような空気。

公の場特有の、張り詰めた静けさがあった。


「……この書類はここでよろしいですか?」


リリナが丁寧に書類を差し出す。


「うん、ありがとう」


レオンがそれを受け取る。

視線が、ほんの一瞬だけ重なる。


「久しぶりだね」


「はい」


短い会話。

それだけのはずなのに、

空気は以前とは少し違っていた。

距離は変わらない。

声も変わらない。

でも、

どこか一歩引いたような、

静かな整い方。


「屋敷の方はどう?」


「問題なく回っています」


「そっか」


それ以上は踏み込まない。

レオンは自然に話題を変える。


「この後、王妃様のところに行くんだよね」


「はい」


「忙しそうだ」


「いつも通りです」


リリナが軽く微笑む。

その表情を見て、

レオンはほんの少しだけ目を細めた。


(……変わったな)


柔らかい。

前よりも、少しだけ。

無理をしていない笑顔。

その理由を、レオンはもう知っている。

視線が、自然と横に流れる。


少し離れた柱の影。

アルトが立っていた。

腕を組み、壁に軽くもたれている。

こちらを見ている。


一瞬だけ、

視線が交わる。

何も言わない。

でも、それで十分だった。


(……なるほど)


レオンは小さく息を吐く。

そして、リリナに視線を戻す。


「いい顔してる」


「え?」


「前より、余裕ある」


さらりと言う。

リリナは少しだけ戸惑ったように瞬きをする。


「そう、ですか?」


「うん」


レオンは軽く笑う。


「いいと思う」


それ以上は言わない。

余計な言葉は、必要ない。

リリナは一瞬だけ何か言いかけて、


「……ありがとうございます」


そう返すだけにした。

それでいい。

それ以上踏み込まないことが、今の距離だった。


「じゃあ、また」


レオンは自然に一歩引く。


「はい」


軽く一礼。それで終わる。

振り返らずに歩き出す。

足音が、回廊に静かに響く。


(……終わったな)


胸の奥に、ほんの少しだけ残るもの。

消えはしない。

でも、引きずるものでもない。


(ちゃんと、好きだった)


それだけで十分だと思えた。

窓の外、雪が静かに降っている。

レオンはそのまま、足を止めずに歩き続けた。



■二人の距離■


屋敷の廊下。

夕方の光が差し込み、長い影が床に伸びている。


「リリナ」


呼ばれて振り返る。

アルトが立っていた。

いつもの距離。いつもの顔。


「何よ」


「今日、遅くなる」


「仕事でしょ」


「分かってるならいい」


会話はいつも通り。

でも、足は止まったまま。

アルトが一歩近づく。


「近い」


「気のせいだ」


「気のせいじゃない」


リリナが軽く押す。

でも、アルトは動かない。


「仕事中だから」


「はいはい」


返事は軽い。

でも、離れない。

そのまま、さらに半歩だけ距離を詰める。


「……ねえ」


リリナが少しだけ視線を上げる。

身長差。見上げる形。

自然と首が上を向く。


「ちゃんと、いるわよね」


一瞬だけ、間。


アルトがわずかに目を細める。


「どこにも行かねぇよ」


短い。でも、

揺れない。リリナの指先が、ほんの少しだけ動く。

無意識に、アルトの袖を掴む。


「……ならいい」


小さく言う。

アルトが息を吐くように笑う。


「ほんと分かりやすいな」


「うるさい」


でも、声は柔らかい。

アルトがそのまま手を伸ばす。

今度は迷わず。

リリナの頭に触れる。

軽く撫でる。


「やめてよ。髪が乱れるじゃない」


「嫌だ」


「もー、子供じゃないんだから」


「知ってる」


でも、やめない。

むしろ、少しだけ距離を詰める。


「こういうとこ、昔と変わんねぇな」


「どこがよ」


「そのままのとこ」


視線が合う。

逃げない。

もう、逃げない。

アルトが少しだけ顔を近づける。

触れるか、触れないかの距離。


「……誰もいないな」


「いるかもしれないでしょ」


「いねぇよ」


言い切る。


そのまま、軽く額を合わせる。

ほんの一瞬だけ。

触れる温度。

すぐに離れる。


「……仕事戻るぞ」


「……うん」


自然に歩き出す。

二人並んで。

距離は、近いまま。

無理に詰めるわけでもなく、離れるわけでもなく、

ただ、そこにある距離。


それがもう、

当たり前になっていた。


夕暮れの光の中、

二人の影が並んで伸びていく。


その間には、

もう迷いはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ