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有能侍女は幼馴染に囲われていることに気づかない  作者: HANABI


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23/25

後日談:隠してるつもりの二人

短編3話です

■侍女たちの朝■

■アルトの両親■

■同僚&取引先■

■侍女たちの朝■


朝の控え室には、淡い光が差し込んでいた。

大きな窓の外には、白く積もった雪。反射した光が室内を柔らかく照らしている。


その中で、リリナは一人の侍女の髪に手を入れていた。


「そのリボン、少し下げて」


「えっ?」


若い侍女が鏡越しに目を瞬かせる。


「今の位置だと、顔が重く見えるわ」


指先で、結び目をほんの少しだけ下げる。


「ほら、これで」


鏡の中の印象が変わる。

輪郭がすっきりして、表情が明るくなる。


「あ……本当だ」


「今日のお茶会は昼だから、光が上から入るでしょ」


さらりと言う。


「影が出やすい位置は避けた方がいいの」


迷いがない。

別の侍女がドレスを抱えて近づく。


「リリナ様、この組み合わせでよろしいでしょうか」


淡いクリーム色のドレスに、金の装飾。

リリナは一瞬だけ全体を見る。


「靴はそれじゃないわね」


即答。


「え?」


「その色だと足元が浮くわ」


クローゼットに歩き、迷わず一足を取り出す。


「こっち」


落ち着いたベージュ。

並べた瞬間、全体が馴染む。


「……全然違う」


「視線は下からも来るのよ」


さらりと付け足す。

その横で、別の侍女が困った顔をしていた。


「どうしたの?」


「このイヤリング、どちらにするか迷っていて……」


二つの選択肢。

リリナは少しだけ近づく。

顔立ちを見る。

ドレスを見る。

光の入り方を確認する。


「今日はこっち」


迷いなく指す。


「理由、聞いてもいいですか?」


「動いた時に揺れるでしょ」


軽くイヤリングを指で揺らす。


「今日の席だと、横から見られる時間が長いから」


一瞬で判断している。


「……そこまで考えてるんですか」


「考えるのが仕事だから」


さらっと返す。

その時。


「リリナ様!」


別の侍女が駆け込んでくる。


「奥様の手袋が一組見当たらなくて……!」


「昨日の外出用?」


「はい!」


「じゃあ、南側の収納の二段目」


即答。


「左奥にまとめてあるはず」


侍女が走っていく。

リリナは一度だけ周囲を見渡す。


(……問題なし)


全体が整っている。

無駄な動きも、迷いもない。

その時、

後ろから声。


「……で?」


振り返らなくても分かる。


「で、じゃないわよ」


アルトが壁にもたれたまま、こちらを見ている。


「今日も完璧だな」


「仕事だから」


「はいはい」


軽く返しながら、

アルトが一歩近づく。


「でもさ」


書類を覗き込むふりをして、

少しだけ顔を寄せる。


「最近、ちょっと違うよな」


「何が」


「空気」


リリナは一瞬だけ手を止める。

でも、

すぐに動かす。


「気のせいよ」


「そうか?」


アルトが少しだけ笑う。

そのまま、何事もなかったように離れる。

……つもり。


「…………」


侍女たちが無言で目を合わせる。


侍女A「……今の」

侍女B「……今のですね」

侍女A「完全に」

侍女B「完全に」


小さく頷く。

「隠す気、あります?」

誰も否定しなかった。



■アルトの両親■


執事室は、他の部屋よりも静かだった。

分厚い扉が外の音を遮り、整然と並べられた書類棚と机が、無駄のない空間を作っている。


窓の外には、薄く積もった雪。

白い光が、控えめに差し込んでいた。


「……最近、騒がしくありませんね」


執事である父が、書類から目を離さずに言う。

ペン先が紙の上を滑る音だけが、しばらく続く。

向かいで紅茶を飲んでいた侍女長の母が、カップを静かにソーサーへ戻した。


「ええ」


一拍。


「無駄な騒ぎが減ったわ」


その言い方に、父が小さく口元を緩める。


「“無駄な”ですか」


「ええ。“無駄な”よ」


即答だった。

少しだけ、視線を横に流す。


「その代わり、分かりやすくなったけど」


父はようやくペンを置く。


「やっと、ですね」


「遅いくらいよ」


母はため息まじりに言う。


「昔から、あの子」


言葉を選ぶようにして、


「分かりやすすぎるのよ」


父が軽く肩をすくめる。


「隠しているつもりではいるようですが」


「隠せてないわ」


即答。

そのまま、少しだけ目を細める。


「小さい頃から、ずっと同じ」


記憶を辿るように、ゆっくりと続ける。


「誰より先にあの子に気づいて」


「誰より先に手を出して」


「誰より先に怒られてた」


父が小さく笑う。


「確かに」


「庭で泣かせたこともあったわね」


「あれは、アルトが悪いでしょう」


「ええ、完全に」


二人とも、迷いなく頷く。

でも、

その空気は柔らかい。


「それでも」


母が少しだけ声を落とす。


「いつも、最後はあの子の隣に戻ってた」


静かな言葉。


「怒られても」


「突き放されても」


「結局、離れなかった」


父はその言葉を黙って聞く。


「……今回も、同じでしょうか」


母は少しだけ考える。

それから、

小さく頷く。


「ええ」


迷いはない。


「今回は、離れる理由がないもの」


父が少しだけ視線を上げる。


「理由があったことも?」


「ええ」


母は静かに笑う。


「あの子、昔は自分の立場を分かってたから」


一拍。


「踏み込まなかったのよ」


父の表情が、わずかに変わる。


「……なるほど」


「でも、今は違う」


母は紅茶をもう一口飲む。


「自分の場所も、役割も」


「ちゃんと持ってる」


カップを置く。


「だから、止まらない」


父はそれを聞いて、

ゆっくりと頷く。


「では、リリナは」


その問いに、

母は少しだけ柔らかくなる。


「あの子も同じよ」


「え?」


「ずっと、気づいてなかっただけ」


窓の外を見る。


「でも、気づいたら」


少しだけ微笑む。


「逃げない子よ」


静かな確信。

しばらく沈黙が続く。

やがて、父がふと息を吐く。


「……問題はなさそうですね」


「ええ」


母も頷く。


「むしろ」


少しだけ、楽しそうに。


「落ち着くわ」


父が苦笑する。


「屋敷としても、ですか」


「ええ」


即答。


「無駄な遠回りが減るもの」


一拍。


「ようやく、あるべき場所に収まっただけよ」


静かに言い切る。

父はそれを聞いて、

深く頷く。


「……では」


再びペンを取る。


「今後はその前提で動きましょう」


「ええ」


母も静かに立ち上がる。

扉へ向かうその背中に、

父がふと声をかける。


「奥様は、気づいておられますか」


母は足を止める。

少しだけ振り返る。


「とっくに」


微笑む。


「だから何も言わないのよ」


そのまま、扉を開ける。

廊下の向こうにも、同じ雪の光が広がっていた。



■同僚&取引先■


昼下がりの応接室。

暖炉の火が静かに揺れ、外の雪の白さとは対照的に、室内は柔らかな暖かさに包まれている。


「こちらが本日の納品書になります」


リリナが書類を受け取る。

姿勢はまっすぐ。

声は落ち着いている。


「ありがとうございます」


取引先の男から受け取りながら、ふと目を細める。


「いつもながら、隙がないですね」


「当然のことをしているだけです」


さらりと返す。

でも、

その言い方は柔らかい。


「それでも、なかなかできることではありませんよ」


少しだけ距離を詰める。


「……最近、雰囲気も変わられましたよね」


リリナは一瞬だけコトリと首を傾げる。


「そうですか?」


「ええ。以前よりも……」


言葉を選ぶようにして、


「親しみやすい、と言いますか」


視線が、少しだけ長く留まる。


「話しかけやすくなりました」


(……?)


リリナは気づかない。ただ、


「そう言っていただけるなら、嬉しいです」


無防備で、少しの距離、軽く微笑む。

男の視線が、わずかに変わる。


「もしよろしければ、今度――」


その瞬間。


「それ、もう確認済み」


低い声。

横から、アルトがいつの間にか立っている。

書類を指先で軽く叩く。


「昨日の時点で問題なしって報告上がってる」


男が一瞬止まる。


「あ……そうでしたか」


「聞いてねぇの?」


言い方は軽い。

でも、

逃がさない。

リリナが少しだけ眉をひそめる。


「……言い方」


「事実だろ」


アルトは肩をすくめる。

そのまま、

自然に一歩前へ出る。

リリナと男の間。

わずかに位置が変わる。

気づかないくらい自然に。

でも、

完全に遮る形。

男はそれを見て、理解する。


(……ああ)

「失礼しました」


それ以上は踏み込まない。


「では、本日はこれで」


頭を下げる。

去っていく足音。

静かに扉が閉まる。

沈黙。


「……何なのよ」


リリナが振り返る。


「何って」


「今の言い方、必要あった?」


アルトは少しだけ目を細める。


「あるだろ」


一歩、近づく。

さっきと同じ距離。

でも、

今度は逃げない。


「お前、自覚ねぇの?」


「何のよ」


「今の」


視線が落ちる。


「その顔で笑って」

「普通に距離詰めて」

「誘ってんのと変わんねぇぞ」


「は?」


本気で分かっていない顔。

アルトが小さく息を吐く。


「……ほんとに分かってねぇな」


手が伸びる。

リリナの顎に触れる寸前で、

止まる。

一瞬の距離。


「他のやつに、ああいう顔すんな」


低く言う。


「……してないわよ」


「してる」


即答。

そのまま、

軽く距離を詰める。


「さっきのやつ、完全に勘違いしてたぞ」


「してないってば」


「してる」


同じやり取り。

でも、

距離は変わらない。


「……仕事だから」


「仕事なら余計だろ」


一瞬だけ、間。

アルトが少しだけ目を逸らす。


「……ああいうの、見ててムカつく」


ぽつりと落とす。

リリナが止まる。


「……何それ」


アルトはすぐに戻る。


「別に」


いつもの調子。

でも、そのまま一歩だけ近づく。


「とにかく」


視線を合わせる。


「気をつけろ」


「何を」


「全部」


短い。

でも、意味は重い。

リリナは少しだけ言葉に詰まる。

アルトはそれ以上何も言わず、

そのまま背を向ける。


「……ほんと分かってねぇな」


小さく呟いて、去っていく。

残されたリリナは、

その場に立ったまま。


「……意味分かんない」


そう言いながら、

頬が少しだけ熱かった。


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