エピローグ:静かに残るもの
夜の王城は、静かだった。
昼間の喧騒が嘘のように、長い廊下には足音だけが響く。
レオンは一人、窓際に立っていた。
外には、雪。
白く、静かに降り続いている。
「……寒いな」
誰に言うでもなく、ぽつりと呟く。
吐いた息が、すぐに白くなる。
(終わったか)
視線を少し落とす。
あの中庭。
あの夜。
言葉にしなくても分かる。
(選んだんだな)
苦笑が、わずかに浮かぶ。
「まあ……そうなるか」
不思議と、驚きはなかった。
むしろ、
どこかで分かっていた気がする。
アルトとリリナ。
あの距離。
あの空気。
(あれは、入れる余地じゃない)
肩をすくめる。
「負けた、か」
軽く言う。
でも、
その言葉は思ったよりも重かった。
一度だけ、目を閉じる。
浮かぶのは、
ネクタイを結ぶ指先。
真剣な目。
「ちゃんと考えてるところ」
自然と、笑みが漏れる。
「……いい女だよ」
静かに言う。
そのまま、
少しだけ息を吐く。
胸の奥に、わずかな痛みが残る。
でも、
消そうとはしない。
(これくらいは、残るか)
それでいいと思う。
しばらく沈黙。
やがて、
ゆっくりと顔を上げる。
「さて」
一歩、足を踏み出す。
迷いはない。
「やることは山ほどある」
公爵家次男としての仕事。
王城での役目。
現実は、変わらない。
でも、
少しだけ違う。
(ちゃんと、欲しいと思えた)
それは、無駄じゃない。
窓の外、雪が降り続いている。
その白さを見ながら、
レオンは小さく笑う。
「次は、もう少し早めに動くか」
冗談のように。
でも、
本気で。
そして、
そのまま歩き出す。
背中は、止まらない。
夜の廊下に、
静かな足音が響いていった。
レオンには幸せになって欲しい。




