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有能侍女は幼馴染に囲われていることに気づかない  作者: HANABI


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第14話 : 踏み込んだ一歩

王城を出た馬車は、冬支度を始めた街並みをガラガラと石畳鳴らしながら進んでいた。


窓の外、夕暮れの光が流れていく。

リリナは向かいの席に座ったまま、手帳を閉じたまま動かない。

指先だけが、少しだけ強く紙の端を押している。


(……近かった)


ふと、思い出す。

ネクタイを結んだ時の距離。


ほんの少し背伸びしただけで、視線の高さが揃ったあの瞬間。

動けば触れそうな距離。


――近くにいてくれると助かる


(……あれは、仕事の話)


そう思い直す。でも――


(……それだけ?)


胸の奥が、わずかに揺れる。

褒められたのは嬉しかった。


それは間違いない。

でも――


(あの言い方……)


仕事としての評価にしては、

少しだけ、距離が近い。


「……気のせい」


小さく呟く。

馬車が止まる。

屋敷に着いた。


「リリナ、次の準備を」


「はい、すぐに」


考える時間を切り捨てるように、立ち上がる。


廊下を足早に進む。指示を出す。確認する。

動線を整える。いつもの仕事。いつもの自分。

なのに。


「……リリナ様?」


同僚の侍女が、少し不思議そうに声をかける。


「今日、なんか違いません?」


足が一瞬止まる。


「何が?」


「うーん……」


少し考えてから、


「雰囲気、ですかね」


「少し、柔らかいというか……」


「そんなことないわよ」


すぐに動く。

それ以上言わせないように。


(……何それ)


自分では分からない。

ただ――さっきの“距離”が、まだ残っているだけなのに。


中庭で少し外の風に当たろうとドアを出た時だった。


「――おい」


低い声。ぴたりと足が止まる。

振り向く。


アルトがいた。

壁に片肩を預け、腕を組んでいる。

視線が、まっすぐこちらを捉えている。


「……何」


「何、じゃねぇだろ」


壁から体を起こし、一歩近づく。

靴音が、石畳を踏む音を立てる。


「帰ってきてから、様子おかしいぞ」


「普通よ」


「普通じゃねぇ」


即答。間髪入れない。

距離が、もう一歩縮まる。


「王城、行ってたよな」


「……仕事よ」


「レオンと?」


一瞬だけ、言葉が詰まる。


「そうだけど」


「へぇ」


短い。――でも、その一言が妙に重い。


「で?」


「何が」


「どうだった?」


「えっ?」


思わず声が上がる。


「接待の手伝いだけよ。」


「それだけか?」


踏み込む。さらに一歩。

逃げようとして、後ろに下がる。

背中が、トンと石壁に当たる。


そこは人目からは少し外れた影になっていて、整えられた庭には少し雪が積もっていた。


リリナは肩に掛けていたストールを少し握りしめながら見上げる。

逃げ場が、消える。


「それ以上あるわけないでしょ」


「さぁな」


アルトがクスリと小さく笑う。


「最近さ」


少し首を傾ける。

観察するように。


「やたら目引くと思ったら」


一拍。


「……女らしくなってきたなって思って」


「前は小さくて、ちょこちょこ動いてるかわいいだけだったのに」


空気が止まる。


「な、何言って――」


「自覚ねぇの?」


被せるように言う。


「何のよ」


「その顔……」


距離が、さらに詰まる。


「無防備に笑って……」


「勝手に人引きつけて……」


視線が、逸れない。


「……で、気づいてねぇ」


その瞬間。

手首を掴まれる。


「っ……!」


引かれる。

距離が、ゼロになる。


「やめ――」


「普通じゃねぇんだよ、それ……」


低い声。

近い。


「他のやつに見せてんの?」


さっきの光景が、頭に浮かぶ。


「違う」


反射的に出る。


「本当に?」


逃がさない。


「お前さ」


少しだけ、声が落ちる。


「……分かってねぇだろ」


「……何が」


「どう見られてるかも」


「どう変わってるかも」


ぐっと引き寄せられる。


「で、その泣きそうな目」


アルトの心臓の音が聞こえる。すごく早い。


「俺の前だけにしろよ」


時間が止まる。

自分の心臓も重なるように早くなってくる。


アルトは一瞬だけ黙る。

そして、少しだけ力を緩める。


「……他の奴に、その顔見せたくないんだ」


低く、落とす。


「俺が……」


言い切る。

沈黙。

手が離れる。距離が戻る。


「……分かんねぇのかよ」


少しだけ、苦笑するように言う。


「仕事、……無理すんな」


トーンが落ちる。


「帰ってきてから、ずっと変だ」


アルトはスッと離れて背を向ける。


「ちゃんと考えろよ」


それだけ言って、歩いていく。

足音が遠ざかる。


残されたのは、静かな空気と、少し振り出した白い雪。乱れた呼吸。


「……分かんないわよ」


小さく呟く。

レオンの言葉と、アルトの言葉が、

頭の中で重なる。


(……なんで)


どっちも、

違うのに。


どっちも、

離れない。


14話と15話公開する順番違っています。 ごめんなさい。

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