表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
有能侍女は幼馴染に囲われていることに気づかない  作者: HANABI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/25

第9話:揺れる心①:幼馴染の距離

王城の控え室。


「……はぁ?」

静寂をぶち壊す声。

「リスって言われてるの!?あんたが!?」

「しーっ!!声大きい!」


リリアは慌てて口を塞ぐ。

目の前で腹を抱えて笑っているのは――


王妃付き侍女、エリナ。

切れ長の目に、きりっとした顔立ち。

無駄のない動きと、歯に衣着せぬ物言い。

そして今は、完全にツボに入っていた。


「ふっ……ははっ……!だめ……無理……!」

「笑いすぎ!!」

「だってあんたがリスって……!」

「もういいでしょその話は!!」


ひとしきり笑ったあと、エリナは涙を拭きながら言う。

「で?」

一気に切り替わる。

「どっちなの」

「……どっちって」

「黒髪の意地悪か、金髪の王子様か」

直球。

リリアは視線を逸らす。

「……分からないの」

「は?」

「分からないのよ」

ぽつりと落ちる本音。


「キス、されて……でも何もなかったみたいにされて」

「うわ、最悪」

「でしょ!?」

「で、もう一人は?」

「待つって言われて……あと、出かけようって」

エリナは腕を組む。


「なるほどね」

少しだけ考えて、

「いいじゃない」

「え?」

「両方見なさいよ」

あっさり。

「は!?」

「迷ってるなら、ちゃんと見て決めなさいって言ってんの」

「そんな簡単に……」

「簡単じゃないからやるの」

ぴしりと言い切る。

「逃げて中途半端になる方が後悔するわよ」

リリアは黙る。


「……怖いのは分かるけどね」

少しだけ柔らかくなる声。

「でもあんた、ずっと“仕事”ばっかりでしょ」

「……」

「そろそろ、自分のこと考えなさいよ」

ぐっと、背中を押される。

「……どうすればいいの」

「とりあえず」

にやっと笑う。

「今日の服、気合い入れなさい」


クローゼットの前で、リリアは固まっていた。

「……どうしよう」


並んだ服を見つめる。

いつもと同じはずなのに、違って見える。

(どれがいいの……?)

手に取っては戻し、また別のものを引き出す。

鏡に映る自分を見る。

外して、また当てる。


「……変じゃない?」

誰もいないのに、ぽつりと呟いた。

その時。


――コンコン。

「リリア」

「……っ!」

びくっと肩が跳ねる。

「な、なに!?」

「声でかい」

扉越しの、いつもの声。

少しだけ安心してしまうのが悔しい。


「忙しいんじゃないの?ここにいて大丈夫?」

言いながら、ちらりと扉を見る。

「問題ない」


短い返事。

間。

「……開けるぞ」

「ちょ、待って――」


言い終わる前に、扉が開いた。

「勝手に入らないでって何回言えば――」

振り向いた瞬間、

言葉が止まる。

アルトが、そこにいた。


部屋の中を一瞥して、

最後にリリアを見る。

その視線が――一瞬だけ、止まった。


「……なんだそれ」

「な、なによ」

反射的に言い返す。

でも、さっきの“間”が気になる。

「服」

「ああ、これ?」

ぎこちなく裾をつまむ。


「今日……その、出かけるから」

「知ってる」

「なんでよ」

「顔に書いてある」

「書いてない!!」

いつものやり取り。


でも。

アルトは近づいてきて、

無言で、もう一度見る。

頭の先から、足元まで。

ゆっくりと。

(……なに、その見方)

落ち着かない。

変な感じ。


「……他のは」

ぽつりと聞かれる。

「え?」

「候補」

「あ、あるけど……」

慌ててクローゼットから取り出す。

「これと……これと……」

いくつか並べる。


アルトはそれを見て、

「……多い」

「仕方ないでしょ、分からないんだから!」

「どれでも同じだろ」

「同じじゃないわよ!!」

少しムキになる。


アルトはため息をついて、

一歩近づいた。

距離が、詰まる。

「……こっち」

ひとつ、指で示す。

淡い色のワンピース。


「え、これ?」

「それでいいだろ」

「なんで?」

「別に」

「理由は!?」

「うるせぇな」

少しだけ目を逸らす。


「……似合ってる」


ぼそっと。

聞き逃しそうなくらい、小さい声。

「え?」

「だから」

少しだけ不機嫌そうに言い直す。

「変じゃない」

それだけ。

でも。


(……なにそれ)


胸の奥が、じわっと熱くなる。


「……ほんとに?」

思わず聞いてしまう。

アルトは一瞬だけこちらを見る。


そして、

「嘘ついてどうすんだ」

とだけ言った。

その目が、少しだけ真剣で。

リリアは視線を逸らす。


「……じゃあ、これにする」

「最初からそうしとけ」

「今決めたの!」

くすっと、

アルトが小さく笑う。

その空気が、少しだけやわらぐ。


ふと。

アルトが近づいた。

「ちょ、なに――」

手が伸びる。

髪に、触れた。


「っ……!」

びくっとする。

「ここ」

指先で、軽く整える。

「跳ねてる」

「じ、自分でやるわよ!」

「いいから」

さらりと撫でるように直される。


近い。

息がかかる距離。

(なにこれ……)

心臓がうるさい。

でも、アルトはいつも通りの顔。

「……よし」

満足したように手を離す。


「完璧」

「なにがよ……」

小さく呟く。

視線を上げると、

アルトと目が合った。


一瞬。

ほんの一瞬だけ。

空気が、止まる。

(……あれ?)

なにかが違う。

でも。


「じゃあな」

アルトはあっさり背を向ける。

「え、もう行くの?」

「用は済んだ」

「用ってなによ」

「見に来ただけ」

「なにそれ!」

「ちゃんと選べてるか確認」

「子どもじゃないんだけど!」

「どうだか」

軽く手を振って、扉へ向かう。


「……あ、そうだ」

ドアノブに手をかけたまま、

少しだけ振り返る。

「楽しんでこいよ」

何気ない一言。


その目は、少しだけ――

複雑だった。


「……うん」

小さく頷く。

扉が閉まる。

一人になる。


鏡を見る。

さっき選んだ服。

整えられた髪。

(……なんなの、ほんとに)

胸が落ち着かない。


さっきより少しだけ、

自分がまともに見えた。


「……似合ってる、か」


ぽつりと呟く。


その言葉を思い出して、

また少しだけ、顔が熱くなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ