第8話 悲弾
現在の生存者 残り8人
涼・怜華・霧崎・男
?・?・?・?
死亡者
吉沢・笹原
暗い教室に、男の凶器が振り下ろされた。
ドグシャアッ!
鈍い、骨に響く衝撃音。
真っ先に狙われたのは、足が立たない霧崎だった。
折れた椅子の脚が、霧崎の背中に容赦なく叩きつけられた。
霧崎「ぐああぁあッッ…!!」
霧崎の体が、床に叩き伏せられた。
背中が大きく痙攣し、口から血混じりの泡が飛び散る。
彼は這うように手を伸ばしたが、もう力が入らない。
霧崎「ぅ…ぐ……北條……さん……助ッ…け……ぇ……。」
怜華は、涼の胸の中で息を詰めた。
目を見開き、霧崎の苦しむ姿を直視できず、顔を強く押し付けた。
体が小刻みに震え、喉が何度も痙攣するが、声は出ない。
ただ、涼の手を、痛いほど強く握り返していた。
男は凶器を振り上げ、もう一撃を加えようと笑った。
男「へへっ……まずは一人目だ。
お前、さっきは散々逃げやがってぇ……。」
その瞬間——涼が動いた。
男が霧崎に気を取られている隙を、完璧に突いた。
彼は怜華の手を離さず、素早く横に回り込み
モップの柄を振りかぶった。
狙いは、男のうなじ。
無言のまま、渾身の力で叩きつける。
バキィッ!
硬い音が響いた。
男の体が、ビクンと硬直し、目が虚ろになった。
凶器が手から滑り落ち、床に転がる。
次の瞬間、男は前のめりに崩れ落ちた。
顔から床に突っ伏し、ピクリとも動かなくなる。
気絶した。
教室に、重い静寂が落ちた。
ただ、霧崎の今にも消えそうな荒くも小さな息と
怜華の震える吐息だけが聞こえる。
涼は、モップを握ったまま男の背中に視線を落とした。
息を整え、低い声で呟く。
涼「……動かなくなった。霧崎、大丈夫か?」
霧崎は床にうつ伏せのまま、弱々しく首だけを動かした。
背中が大きく腫れ上がり、制服が血でべっとりと濡れている。
霧崎「う……は…痛え………死ぬ、かも…これ……。」
怜華は、涼の腕から少し顔を上げ、霧崎の様子を恐る恐る見た。
彼女の瞳には、恐怖と安堵と、罪悪感のようなものが混じっていた。
——霧崎くんが……。
私が動けなかったせいで……。
でも、声は出せない。
ただ、涼の手を握る指に、わずかに力が込められた。
涼は怜華を自分の後ろに隠すように立たせ、気絶した男に近づいた。
男の首筋に指を当て、脈を確認する。
涼「……生きてる。気絶しただけだ。でも、いつ起きるかわからない。
霧崎、動けそうか?」
霧崎は歯を食いしばり、這うように体を起こそうとしたが
すぐに顔を歪めて崩れた。
霧崎「背中…や、ばい……立てねえ……。」
涼はため息を一つ吐き、怜華に視線を向けた。
涼「怜華はここにいてくれ。俺が男を縛る。
何かロープ代わりになるもの……カーテンの紐とかでいい。」
怜華は小さく頷き、震える足で教室の隅へ向かった。
彼女はまだ、家族以外の男性二人と一緒にいる状況に耐えていた。
涼の手の感触が、離れた今も掌に残っている。
3人はまだ、1年3組の教室の中にいた。
気絶した男が床に倒れ、霧崎が苦しげに息を荒げ
怜華が紐を探し始めている。
死亡者2名、残り8名——
しかし、この教室では、新たな「死」が目前まで迫っていた。
外の廊下は、再び静かだった。
でも、それは次の誰かが動き出す前の、危険な静けさだった。
涼は男の両手を後ろに回し
怜華が見つけた古いカーテン紐で固く縛り始めた。
怜華は、その作業を、怯えながらもじっと見つめていた。
廃校のゲームは、まだ始まったばかり。
そして、1年3組は、今、わずかな安全を手にしていた——
少なくとも、この瞬間だけは。




